2‐09‐7 ウォーリは納得がいかない
「記録を確認したが、確かにそういう事実はある。北部地方で行商人夫婦が盗賊に襲われている。見回りの騎士達が現場に駆け付けた時には既に夫婦は瀕死の状態。僅かに脈があったため近くの村へ運ぶも、やはり助からなかったとある。ただ......」
「何か気になることでも?」
《女神》から聞いたナギサの両親について、クラーヴィアはウォーリに確認を頼んでいた。今、その報告をマグナルバと共に聞いているのだが、ウォーリが今一つ歯切れが悪い。
「手荷物は盗賊に荒らされてしまっていたので確かなことは言えないのだが、娘が同行していたような形跡がないのだ」
「ほう。それはまた。だが、どうしてそう言えるんだ?」
マグナルバが愉快そうにウォーリへと質問を投げかける。
「残っていた荷物だな。夫婦の日用品以外、若干の商品があるだけ。盗賊が持ち去ったにしてもおかしくないか?」
手に持つ書類を見つめながら、ウォーリの眉間がより一層狭くなる。
「確かに。ヴィア、ナギサを見つけた時に何か持っていたのか?」
「いえ、何も。というか、そもそも何も身につけていなかったのよ」
クラーヴィアはふるふると首を振る。
「《女神》様が連れて来られた時点でそこら辺は仕方がないか。ひょっとしたら大怪我をして、その治癒後、という可能性もある」
「では、彼女の荷物は? わたしはそれがどうも釈然としない。昨日の今日なので、この書類を取り寄せて確認するだけで精一杯なのだが、この夫婦は本当にナギサを連れ歩いていたのか? それに大怪我をしていたとして、何故ナギサだけを助ける。あの年齢の子供が一人助かっても、その後が大変なことはわかりきっている。両親も一緒に助けるべきであろう?」
マグナルバの言葉へウォーリは疑問をより深めた形で問い返す。
「単に間に合わなかっただけでは?」マグナルバは若干ウォーリの相手が面倒になってきた。
「でも、行商人の子供であれば魔力登録をまだしていなくても不思議ではないわよね。恐らく初等科も通わずに両親からの教えだけで過ごしていたでしょうから」
クラーヴィアはウォーリの懸念はあまり気にならないようで、ナギサの魔力登録がされていなかったことが、これで理由がわかったと嬉しそうに話題を切り替える。
このヴィルディステ聖国で戸籍登録に該当するものが“魔力登録”である。魔力の特長は各個人で異なるため、魔力を調べればどこの誰かということが確認できるようになっている。
この世界では他国でも同等のシステムが作りあげられているが、その登録タイミングや条件が若干異なったりする。
ここヴィルディステ聖国では初等科に入る時に必ず登録済みかが確認される。この時点で未登録であれば、ここで必ず登録される。初等科は義務教育である為、理論上は国民全ての登録がなされるはずである。
そうは言っても、初等科に入らないものもいる。ナギサの両親とされる行商人の子供が良い例だ。一か所に留まらない為、初等科に入らずそのまま成人する者もいる。ただ、魔力登録がないと街や村で神殿や治療院を利用できなかったりするため、大抵はどこかのタイミングで登録されることになる。
クラーヴィアはナギサはこの例に当てはまるから、身元が分からなかったのだと言っているのである。
「本当にそれでいいのか?」
そんなクラーヴィアにウォーリが尋ねる。
「ナギサは覚えていないのだから確認しようもないし、《女神》様を信じるしかないのでは?」
マグナルバが横からそんなことを言う。
ウォーリ自身、ナギサが危険人物であると思っているわけではない。《女神》が“神の間”へと招き、名前探しを託すのであるから、ナギサ自身は信頼がおけるのであろう。ただ、その提示された身元が納得いかないのだ。
それにリュークの関与。薬草園での一件以来、妙に彼女を気に掛けている、いや掛け過ぎていると言ってもいい。ナギサ本人に質せればよいのだが、記憶がないと言われればそれ以上何も言えない。このなんともはっきりしない状況がウォーリの性格的にとても落ち着かない気分にさせるのだ。
「ウォーリ、わたしもね、《女神》様に異を唱えたの。でも、《女神》様の意志は固かったわ。だから、多少納得ができない説明だとしても、《女神》様の望むままにしてみよう、って思ったの」
クラーヴィアは“神の間”でのやり取りを思い起こしながら言葉を続けた。
「だって、もうわたし達、思いつく限りの場所を探しているでしょ? そろそろ他の手と目が必要なのかもしれないわ」




