2‐09‐5 神の間3
《女神》から語られた彼女の現状。
それは“名を失っている”という状態であること。
《女神》本来の名前が封印されているという。
ある出来事をきっかけに《女神》の名がこの世界から失われた。もちろん神々の中からも。
以来人々は彼女を《女神》と呼ぶが、その名を呼ぶことができない。
この収穫祭の祈りでは、本来神の名とともに祈りを捧げる。ただ“女神”と言ってしまえば他の女神達すべてに祈っていることになる。
そうは言ってもここは《女神》を主神とする国。ここで“女神”と言えば《女神》なのだ。そのおかげで祈りの力は《女神》に注がれるのだが、一歩国外へ出ればこの法則は通用しない。
これまでも封印を解くために様々な手が尽くされてきた。国で一番の知恵ものと言われる人物から、神々の手助けまで。だが、解決策が見つからない。そもそも封印されたと言っているが、本当に封印なのかすら実は定かではないという。
だが、この状態を放置していていいはずもなく、今も《女神》の名前探しは続けられている。
この現状に対して、自分自身のこと、両親のことすら思い出せないナギサに何ができるのか? クラーヴィアはまったく予想がつかない。いたずらに時間と労力のみが費やされるのではないかと考えてしまう。
それ故に、
「《女神》様、ナギサさんに手伝わせるのは少し酷ではないでしょうか?」とつい声をあげてしまう。
「ヴィアは心配性ね。わたしはナギサにお願いしたいのだけど」
「何かあてが?」
拘る《女神》へクラーヴィアが再度声をあげる。
「あて、というよりも、勘ね。いろいろとわたし達の常識に囚われない見方や考え方をナギサはしてくれると思うの。だから、見落とした何かにきっと気づいてくれるわ」
ふわりと微笑みナギサを見つめる瞳には、言外の意味が込められているように感じる。
異世界からきたナギサであれば、こちらの世界の常識に囚われずに、その何かを見つけられるだろうという期待だ。
「確かに旅商人として生活してきたのであれば、見聞も広く知識の幅も広いでしょう。ですが、彼女は子供、しかも記憶をなくしております!」
クラーヴィアは《女神》の言葉に驚きを更に重ねたようだ。
「それらも含めて、ね。」
《女神》はクラーヴィアに頷くと、ずっと重ねていたナギサの手を自身に引き寄せる。
「わたしは名を隠されている。そのせいで力が制限されている。人界に降りたくても降りられない。少し力を使えばすぐに眠りについてしまうわ」
「……」
クラーヴィアは《女神》の言葉にそれ以上何も言えなくなってしまう。
「どうかしら?」
柔らかく心落ち着かせる声が、優しい眼差しがナギサに注がれる。
「やりたいです。わたし、今、とても感謝しているのです。こんなに充実した日々を過ごさせてもらって。だからその感謝を、お礼をしたいです。《女神》様の手助けになるのであれば、どんなことでもやります。手伝わせてください!」
ナギサの中で先程までの戸惑いは消えていた。
それよりも《女神》を手伝いたい、手助けしたい、という気持ちが強く湧きあがっていた。
一か所修正。「感」を「勘」に書き換えました。




