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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第二章】

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2‐06‐4 魔力溜まり

 その後は周囲のまとわりつくような空気感は変わらないものの、特に襲われることもなく進み、目指す魔力溜まりまでたどり着くことができた。


 初めて見るそれは、どう形容してよいのかわからないものだ。古木の根元にある洞のよう穴。そこにある下生えも別段他と違うわけでもない。

 ただ、そこだけが淀んでいる。空気が、魔力が、なんだかよくわからないが空間が歪んでいる。

 そして、不安と不吉を感じさせる異様な“場”を醸している。


「少し育っていますね」

「報告よりも大きいですね」

「ですが、これならば2~3人で浄化を完了させられるかと。先ほどの砂狐以外には影響を受けている魔獣もいないようですし」


 アースターと他の神官や騎士達が対応を話し合っているようだ。この時点でセラスにできることもない為、大人しくその成り行きを見守っていると、

「セラスさん、せっかくですから訓練も兼ねて、あなたも浄化をやってみましょう。そうですね、そこのあなたも確か浄化は......」と、アースターがセラスと複数の神官を浄化担当として指名する。セラスのみが未経験。他の神官達は浄化経験はあるが、まだ不慣れ、といった面々が選ばれている。


(えっ、いきなりすぎるんですが!)


 セラスや他の神官達の戸惑いをよそに、アースターが浄化作業に入る為に準備を整える。

 最初は一番慣れた神官が担当、次はと順番を割り振られ、最後にセラスがアースター補助のもと浄化を完了させる手筈となった。


 作業は順に、過剰に魔力を消費することなく次へ次へと交代し、セラスの前の神官で完了できるのではないかというレベルまで魔力溜まりは小さくなっていた。


「セラスさん、では訓練時と同様に、焦らず落ち着いて。何かあればわたしが補助に入りますから」


 アースターに促されるまま、セラスは魔力溜まりの前で腰を落とす。両手を胸元で組み合わせ、浄化の呪文を唱える。


「セラスさん、目は閉じないで。対象を確認しつつ浄化をしないと危険です」


 アースターから注意が入る。慌てて視線を魔力溜まりへと向ければ、確かに浄化が効いているのか淀みが徐々になくなっていくのが視認できる。

 あと、少しで浄化を終えられそう、と思った時だ。


(グゥッ!)


 魔力溜まりから何かが、何か嫌なものがセラスに向けて飛んできた。


 が、いつの間に張られていたのだろうか? セラスの周囲には結界が張られており、その何かはセラスに当たることなく弾かれていた。


(しまった!)


 驚きのあまり、浄化魔法を中断していたことに気付く。セラスが焦りとともに呪文を再度唱えようと身構えると、既にセラスの横でアースターが浄化を再開している。おまけにアースターの片腕がセラスの前へとかばうように伸ばされていた。




 浄化はそのままアースターが完了させた。


「あの、ありがとうございます。先ほどのアレは一体......」


 セラスが戸惑いつつアースターに尋ねると、


「足掻き、といえばいいのですかね。稀に浄化寸前に反撃めいたことをしてくる魔力溜まりがあるのですよ。まさかこの程度のもので反撃がくるとは。迂闊でした。わたしの落ち度ですね。初めてでアレは恐ろしかったでしょうに」


「いえ、その、驚きのほうが勝っておりまして。それに結界、を張ってくださったのはアースター様?」


「念の為に、ですが。結果あなたが怪我をしなくてすみました」


 アースターはセラスへ手を伸ばしたかと思うと、ほつれた髪を耳にかけてくれる。

 その所作にセラスが目を見開いていると、アースターはフッと柔らかい笑みを一瞬浮かべたがいつもの表情にすっと戻ってしまう。そして、くるりとセラスに背を向け皆に告げる。


「さて、ここはもういいですね。次の場所へ移動しましょう」

 

 △▼


 その日、アースター率いる班が野営地に戻ったのは夜も更けてから。


 残りの魔力溜まりは特に問題もなく浄化は完了。途中狂暴化した魔獣に襲われることもなく目的地に到着。浄化作業はやはりセラスや不慣れな神官達が行ったが、浄化時に反撃めいたものがあることもなく、淡々と作業を終わらせることができた。


 もう一つの浄化班は魔獣に遭遇することもなく、魔力溜まりが育っていることもなく、お手本のような流れ作業で3か所の浄化を終えることができたとの報告である。


 たまたまアースター率いる班が運が悪かったのだろう、などと野営地では茶化されつつも平穏にその夜は過ぎた。





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