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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第1章】

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1‐11‐3 秋休暇 二日目



 秋休暇二日目。

 ここは学舎寮、ナギサの部屋である。


「それはまた珍しい話を聞いたわ。神官長がそんなにくだけてお話をする相手がいるなんて」


「ん、やっぱり珍しい? わたしも少し驚いたのだけど、リューク様もいらっしゃったし。というか、このリューク様もひょっとして、とても偉い人だったりするのかな?」


 ナギサは昨日の薬草園での話をセラスに話して聞かせた。セラスは指先を唇にあてると、最近の神殿内の噂話を思い出してみた。


「そうね......そのリューク様ってひと、最近、話題になっている、かな。聖国一の美男子とか、貴公子とか、どこかの王族のお忍びではないかと、とにかく話題になっているわ。

 あれだけ容姿端麗だから、みんな気になるみたいだけど、実際にお話する機会があっても『つい見入ってしまってお話できなかった!』って言っている人を何人もみたわ。クラーヴィア様の客人らしいけど、見かけというか身なりはごくごく普通の商人だから、そんなに偉い人ではないと思うわ。なに? ナギサも貴公子が気になるの?」


 ナギサに問い返すセラスの目が細い......。


「んと、気になるというよりも、旅のお話や薬草のこととか勉強になったので、また聞きたいなってぐらいです」


——そう、確かに並外れて綺麗な人だった。

 だが、この世界に来てから目にする人々は、概して美男美女である(現に、目の前のセラスがそうだ)。そんな彼ら彼女らよりも一際優れた容姿ではあるし、昔思い描いた理想の王子様像ではある。だからといって、どうこうというのは今現在のナギサには、考える心の余裕がない。セラスといえばそんなナギサの反応がつまらないのか、少し当てが外れたような表情である。




「んと、セラス、聞いてもいい? 素朴な疑問がひとつあるの。神官さんって結婚できるの?」


「え? 何、急に。もちろん出来るわよ。ダメとかどこかで聞いた?」


「いえ、そういうわけではないけど、神様に仕える身ということで生涯独身とか......」


「ないない、それはないわ。勿論そうでない人もいるけど、大半の神官は結婚しているわよ。

 そうね、結婚すると、ここの独身寮が使えないから、街で暮らすことになるの。だから、少しお金がかかるのと、大神殿に通うのが面倒っていうのはあるわ。大神殿全体でみれば、独身者のほうが圧倒的に少ないわよ。それに神官どころか、富裕層の子なんて学舎時代から婚約者がいたりするし」


 慣れない恋バナ(らしきもの)回避に以前から気になっていたことのひとつ、この世界の神官は結婚できるのか、ということを聞いてみた。どうやら結婚は問題ないらしい。しかも学舎時代から婚約とか、王族や貴族はいない国だけど、普通に権謀術数が渦巻く社会構造がありそうだ。


「え、じゃあセラスも結婚しているの?」


「いや、だから話をよく聞いて! わたし、神殿(独身寮)にいるでしょ。それに相手がいないから!」





「それで、ナギ。休暇期間は何をして過ごすつもり?」


「午前中は神殿内を見て回ったりして、午後は厩舎でお手伝いをする予定です」


「厩舎? 洗濯場でなくて?」


 セラスの疑問はもっともである。実際、ナギサも洗濯場でこの長期休暇中はお手伝いをするつもりであった。夏休暇期間もお世話になったので、今回もそのつもりで、洗濯場の担当神官に相談すると『ナギサ君、厩舎を手伝う気はないかい?』といきなり切り出されたのだ。


 なんでも厩舎では長期休暇になると人手が足りなくなることが多いそうだ。洗濯場や食堂は長期休暇中は利用者が減り、かつ人手が足りなければ街から臨時で雇うから問題ないのだが、厩舎は街からの臨時雇いは神殿側から禁じられているのだそうだ。そのため普段手伝いできている学生が長期休暇で実家に帰ってしまうと、途端に人手不足になってしまうらしい。


 しかし、何故ナギサに声がかかったのかと首をかしげていると『乗馬の講義で馬の世話が上手だったから』らしい。よくわからないが、洗濯場の神官も承諾し、厩舎での給料も無理をお願いするのだからと割り増しでもらえるという。ナギサ自身も断る理由がないので、この話を受けたのだった。


「なるほどね。それはいいお話よね。厩舎側から名指しかつ割り増し、なんて。

 じゃぁ、長期休暇中は無理だけど、私のお休みが上手く聖の曜日と重なった時にでも街に行ってお買い物しましょ。頑張ってお小遣いを貯めておいてね!」


 セラスはそう言って明るく笑うと、午後の仕事に向けて勢いよく立ち上がった。


「じゃ、行こうか、ナギ。お昼、今日は何かしらね」



ナギサ、休暇中もアルバイトです。基本は午後からなので、午前中の自由時間に散策しているのです。

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