1‐11‐2 気になる理由
薬草園から大神殿へと戻る道すがら、リュークはウォーリの言葉に戸惑っていた。
「あの子供が気になるのか?」
面白がる雰囲気を隠そうともしない口調で、ウォーリが尋ねてくる。
「ウォーリ、何を言っているんだよ。可愛くて綺麗な子だけど、あんな小さな子は守備範囲外だからね」
「そうか、可愛いか」
ウォーリの口元がニヤリと歪む。
「いや、だから、そういう意味ではなくて。あの子、十歳ぐらいだろ? 僕としてはせめて十六歳、十七歳にはなっていないと、流石に誘えないよ」
ウォーリの言葉に、手を振り、慌てて否定しながらも、リュークの脳裏には、先ほど見たナギサの紅い瞳が焼き付いていた。
声をかけた瞬間に見つめられた、あのキラキラと輝く瞳。言葉を交わすうちにふと覗かせた、幼い外見に似合わぬ、どこか遠くを見つめるような憂いを帯びた紅い瞳。その奥に、同年代の子供にはあり得ない深淵を見たような気がして——
「そうか? 非常に楽しそうだったぞ」
本気で否定しているというのに、ウォーリはこちらの様子を面白がるように、人の悪い笑みをより深めている。
「薬草園に行ったらあの子がいただけで……。あの場所が僕のお気に入りだって、君も知っているだろ!」
「まぁ、そういうことにしておくか」
「本当に、たまたまで、薬草の話をだね——」
薬草園での会話をウォーリに説明するのだが、何が楽しいのか、あれこれと言葉を変えて聞いてくる。
いつものように冷静に流せばよいはずなのに、何故かあの子のことを考えるとそれが上手くいかない。きっと、この動揺をウォーリも感づいて、わざと仕掛けてきているのだろう。
「ふっ、ナギサのことが余程気に入ったようだな」
「ああ、もう、いいよ! 確かに気になる子です! いったいなんなんだよ今日の君は……」
「はは、悪い悪い。子供が苦手なお前が、随分と打ち解けていたようだから、珍しいこともあると思ってな」
ウォーリは悪ふざけが過ぎたことを謝るように軽く手を振ると、すっと表情を引き締めて姿勢を正した。
「だが、真面目な話、知っていて声をかけたのではないのか? あの子が……例の子供だ」
「例の……?」
「ああ。祈りの間から学舎に入るまでの経緯は以前話した通りだが……実は、気になることがあってな。これまでに二度、鑑定魔法を彼女に使用したのだが、その二度ともが阻害されてしまったんだ。唯一わかったのは《女神》の加護持ちであることだけ。他の加護の有無すら確認できないほどの術が施されている」
「彼女に施された鑑定阻害は、人の技ではないと?」
「ああ。高位の魔導士が施す隠蔽術式なら、看破できる。だが、彼女のそれは術式の構成自体が違いすぎるのだ。……まるでお前が組んだものを見せられているようだったよ」
ウォーリの表情には、神官長としての深い懸念が滲んでいた。
外見から年齢や種族を推測するしかないこと。そして、この半年間の成長スピード。コーマの技をまったく知らなかったはずの少女が、わずか半節ほどで並の神官並みの技量を身につけ、魔力量に至ってはこの半年で上級魔導士並みにまで膨れ上がっていること。
「まるで……器が満たされるのを待っていたかのような、恐ろしいほどの速度だ」
——なるほど。あの子が例の突然祈りの間に現れた子供なのか……
リュークはそっと瞼を閉じ、視るべきものを視た。
——この術式は……。ああ、そういえば、そんなことを言われたような……
「リューク? 今、何と?」
「いや、何も。大丈夫だよ、ウォーリ。彼女は味方だ……少なくとも、僕たちの敵になるような子じゃない」
確信に満ちたその言葉。その自信が何処から来るのか、リューク自身にも実はその時はまだ、明確にはわかっていなかった。




