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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第三章】

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299/307

3‐2‐5 光珠の辿り着いた先

 


 ウォーリは、眼鏡のブリッジを指でつっと押し上げ、


「では、男達のことだが、何でも良いので、君が感じたこと、違和感、そういったものを教えて欲しい」


 再びその鈍色の瞳をナギサに向けてきた。


 ——男達のこと、いくつか気になることはある。その中でも気になることと言えば……。


「皆、身なりに似つかわしくない腕輪を——魔道具と思しきものを、利き手につけていました」


「“静寂の腕輪”」ポツリと言葉が投げられた。


 マグナルバである。

 ナギサが「それは?」と、マグナルバの紅い瞳に目をあわす。


「恐らく静寂の腕輪を身に着けていたのだろう。触れた相手のコーマを無効化する魔道具だ。普通のごろつきではとても手にすることができるような物ではないな」


「ナギサ君、あの時説明できなかったが、恐らくそれを身につけていたのだろう。あの時も言ったが、禁制品だ。手に入れること自体が罪。下街のごろつきが五人も揃って、それを身に着けていたというのは解せぬ」


 クレメンスがマグナルバの言葉を補ってくれる。


 ああ、確かにあの時、ニールとクレメンスが“禁制品”と言っていた。詳しく聞けず、何のことかと思っていたが、あの腕輪の事でよかったのか。しかし、禁制品といえば高価なものというのが相場だ。よくある話ではあるが、裏に協力者——黒幕がいると考えるべきか。あの薄汚れた無頼漢達が身に着けるには、あまりにも……っ、


「あの、一人だけ様子が異なる者がいました。残りの者達を監視というか、使役しているというか。一歩引いたところで構えている……そのような状況でした。ただ、五人とも魔力は低かったことは確かです」


 ナギサの言葉にクレメンスが顔をハッと上げ、


「神官長、やはり取り逃がした者は……」と確認するように目つきを鋭くする。


 ——今、クレメンス様は取り逃がした、と……。

 ナギサはマグカップを包み込む手に力を込めた。せっかく目印の魔法で後を追えるようにしたのに。だが、あの時魔法を施せたのは、モリスを捕えていた男だけ。監督するように辺りを気にしていたあの男には魔法を施す余裕がなかった。

 己の失態ではあるが、やはり悔しい。




「うむ。ナギサ君、あまり聞いて気持ちがよい話ではないが、光珠が辿り着いた先で起きていたことを、君には伝えておこうと思う。これは、わたしより、実際に追跡を行ったクレメンスからしてもらったほうがよかろう」


「! 神官長、あの状況を説明するのですか!」


 クレメンスが狼狽えた様子で聞き返している。何故だろう、ただ、あの後のことを説明するだけではないのか。ナギサとしても知らないよりは、知っておきたい。不思議に思いながら「クレメンス様、お願いします」と、ナギサは静かに頭を下げた。


「——わかりました。ナギサ君、聞いていて、嫌だ、聞きたくない、と思えばいつでも止めてくれたまえ」

 クレメンスは一度、膝の上で拳を握り、覚悟を決めるように息を吐いた。


 固い表情でそう前置きしてクレメンスが話してくれたのは、確かにあまり気持ちのよい話ではなかった。




 ナギサが解き放った光珠は、騎士達にはわからない男達の足跡をしっかり認識しているようで、迷うことなく路地裏を進んで行った。

 その進む路は細い路地だったり、店と店の間を抜けるような道だったり。途中何度も大通りを横切り、西へ南へと、聖都の南西エリア——貧困街へと向かっていった。

 辿り着いた先は古びた長屋。その一番端の扉の前で光珠は止まった。

 窓には板で目張りがされており、中を窺い知ることはできない。耳を澄ましても、コーマで聴覚を増幅させても、中からの物音は拾えない。


 狭い路地に立ち並ぶ扉や窓。どれも固く閉ざされている。だが、僅かな隙間から漏れる灯りがちらほらと、闇に沈む路地に斑模様の光を落としている。

 大勢の騎士達が貧困街へ現れたのだ。自分達への災いではなくても、隣近所の災いがいつ降りかかって来るかもしれない——そんな恐怖心もあるのだろう。ただの野次馬気分だけでなく、息をつめた静けさが辺りを覆っていた。


 そっと扉に手をかけ、力を込める。驚いたことに鍵すら掛かっておらず、何の抵抗も、音もなく扉は開いた。

 僅かに開いた隙間から、漏れる光はない。ただ、煮込み料理のようなスープの香りに混じって、嫌な、それでいて騎士ならば馴染みのある臭いが鼻腔を突いた。


 反撃を警戒しながら、静かに中へと踏み込む。暗闇の奥、古びたテーブルの上に一つだけ灯る小さな蝋燭。

 頼りない灯火は、夜の闇に慣れた視界をかき乱し、部屋の全貌を曖昧にぼかしていた。



「あの……」


 若干気が引けたが、ナギサはクレメンスに「魔力探知は行わなかったのですか?」と質問した。

 騎士達の中にも魔法に長けた者はいる。それならば、恐る恐る部屋へ入るより、魔力探知で人気ひとけを予め探ったほうが安全ではなかろうか。


「ああ、勿論行った。そしてその部屋からは何も感知できなかった。だが、偽装・隠蔽、頭が廻る奴はいるからな。用心に越したことはない」


 ——そうか、わたしが魔力量を偽装しているようなものか……。


「申し訳ありません。口を挟んでしまって。先を、続きをお願いします」


「いや、疑問を持つことは良いことだ。何も考えず、鵜呑みにしてしまうよりずっと良い。では、話を続けよう」


 軽くナギサに向かって頷くと、クレメンスは続きを話し始めた。




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