3‐1‐7 路地裏 2
だが、男達はモリスの言葉を気に留めることもなく、一歩、また一歩と距離を詰めてくる。
一気に片を付けることもできるだろうに、ナギサ達が怯えながらも抵抗する様子が楽しいのか、にやついた表情がより卑俗な色を帯びている。
モリスの背に庇われる形になっているナギサとゴリツィア。
ゴリツィアは相変わらず声も出ず、張り裂けんばかりに瞳を見開いて近づく彼らを見つめていた。
モリスは後ろを振り返ることなく、足を踏ん張っているのだが、手や足の震えが増しているのが、後ろからでも見て取れた。
(……結界のせいで音を立てても無駄か。他に出来ることは……)
ナギサがこの位置から魔法攻撃をかけるのは危険。モリスやゴリツィアを巻き込んでしまう。例のコーマで魔力を叩きつけるにしても、あれは相手に触れないと無理だ。
このままではモリスがこの緊張に耐えられなくなってしまう……。
ナギサがそう考えていたその時。
モリスが突然前へ飛び出し、近づく一人の男の腕を掴んだ。
「っ、うぉっ」
苦し気な声をあげ、男が体を折り曲げた。
「どうよ! 子供だからって甘く見ない……で……」
倒れ込む男を見て、モリスの顔に安堵の色が差した。——だが、次の瞬間。「……えっ?」瞳を大きく見開いたかと思うと、声もなく、唐突にその場へ崩れ落ちた。
「……って、学舎のガキが使う小細工なんざ、織り込み済みなんだよ、嬢ちゃん」
さっきまで苦しそうにうめいていたはずの男が、地を這うような低い声を出した。
驚きに目を見開くモリスの腕を、男は逃さず掴み取り、力任せに捻り上げる。
「あぐっ……!」
モリスが短く悲鳴を上げ、その場へ崩れ落ちた。
「ちょろいねぇ」
「ああ、まったくだぜ。自信過剰の子供は扱いやすくていいねぇ」
「はな……して……」
何が起きたのか。
モリスはコーマで魔力を男に叩きつけた。だが、男は平然とした顔で立っている。
モリスの声は弱々しく、身体から力が抜けてしまったようで、男達にされるがままになっている。
叩きつけたコーマが打ち消された……のだろうか。いや、それよりも、モリス自身の身体強化が解除されてしまっている。
コーマを無効化する魔道具、なのか?
「な……何をしたの!」
ナギサの言葉に男達が顔を見合わせニヤリと笑い合う。
「世の中には便利な道具があるんでねぇ……コーマなんざ、お遊びにもなりゃしねぇんだよ」
モリスの腕を掴む男が嫌な笑いを浮かべている。
「ひっ」
ゴリツィアが短い悲鳴を漏らした。その膝は目に見えてガタガタと震え、顔色は蝋細工のように蒼褪めている。
——コーマを無効にする魔道具を身に着けているのか……。相手の魔力量の少なさに油断した。これはただのごろつきの仕業ではない。絶対に背後に組織がある……。
この状態では攻撃魔法に頼ることになるが、それでは囚われているモリスを巻き込んでしまう……。
《助けたほうがいいか?》
唐突に頭の中に響く、傲岸不遜な声。
つい先程聞いた声だ。
《……視ているならわかりますよね? あっ、でも穏便にお願いします》
《ちっ》
脳裏に、不機嫌そうな舌打ちが響く。
(わたしだって、あいつらの腕の一本だって……。でも)
ニールはかつて、いきなりナギサの首を絞めてきた。悪漢相手に容赦など期待できない。だが、ここは街中、人の目がある。あまりにも理不尽、いや在り得ない状況で助けられても困るのだ。
とりあえず、こんな感じで手助けが欲しいと、ナギサは己の希望を伝えた。




