表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第二章】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

281/315

2‐28‐1 一年

 


 ——さて、今日は何をしようか。


 ナギサは朝課を終え自室に戻ってきたところだ。

 療養棟からこの部屋へ移ったのは5の節で、まだ一年も経っていない。

 しかし、気づけばすっかりこの部屋に馴染んでしまっている。

 小さな部屋で、服も家具もすべて必要最小限。それでも、ここに戻ってくると安心する。


 ナギサはベッドに腰を下ろし、窓からそっと滑り込む柔らかな春の光を見つめた。

 今日は黎明の曜日。新しい一週間の始まりであり、同時に春休暇の始まりでもある。

 数日前までは、今日から厩舎の手伝いに入るはずだったのだが......。




 ——なんだか不思議......。


 自然と目線は、左手の小指へと向かう。そこには、春の日差しを浴びて虹色に煌めく、繊細な細工の指輪が嵌められていた。アダマースからの礼の品だ。


 始まりは一昨日、秋学期の最後の講義が終わった後のこと。

 異層からのリナの突然の訪問。

 それは、ナギサにとっては、ファイヌムに会う為に訪れた厩舎での突然の再会だった。


 そのリナによって、ファイヌム共々春宵宮へと誘われた。

 そして、枷に囚われた伝説の水晶竜“アダマース”との出会い。


 突然消えたナギサを心配して、リュークとクラウスも春宵宮へと、探し、追ってきてくれた。


 リナがナギサを春宵宮へと連れてきた理由は、アダマースの解放。

 ナギサの“白光”を期待してのことだった。

 そして、この一件を通じて、ナギサは己が持つ力の意味と恐ろしさを知った。


 リナの期待に応えたかった。

 自身の力が恐ろしくはあったが、それ以上にアダマースを救いたかった。

 リュークはきっと止めたかっただろう。

 けれど、ナギサの意思を尊重し、ナギサの力をほんの少し(らしいが)解放してくれた。

 でも......あれって、わたしのファーストキスなのかな。神珠を口移しで......。


 “神殺しの力”、そう呼ばれる“白光”の力は、ナギサが考えている以上に危険なものであった。リュークの手を焼き、爛れさせてしまうほどに。そこまでして、制御に戸惑うナギサを支えきってくれたリューク......。


 アダマースの枷をリュークと力を合わせて外した。

 その結果現出した、隠された魔法陣もリュークによって解かれ、最後の最後に現れたのは、一輪の透瑠璃色のアルタ・ルブラ。


 ニールが《女神》の名前を隠した犯人であろうと考えていた。

 ニールからの連想で、春宵宮を隠し場所として疑っていた。

 だから、春宵宮へとどうにかして入り込み、手掛かりを探し出したいと考えていた。

 それが、こんな形で明らかになるなんて、出来過ぎた偶然に今更だが驚いてしまう。




 その後も春宵宮でいろいろあったが、人界に戻ってからも大変だった。

 何しろナギサとファイヌムだけ先に戻されてしまった(リューク達は神界に戻った)からだ。

 当然ながら、クラーヴィア達からの質問攻めだった。だが、『説明は僕がするから』とリュークに春宵宮で言われていた。——神の言葉で縛られ、ナギサとファイヌムは説明しようにも言葉が出ない状態だった。事の次第が一刻も早く知りたい神官長ウォーリが、イライラと歩き回っていたのが、今思い出しても怖かった......。

 だが、夜になり、リュークとフェロニアがクラーヴィア達の元へ現れると、皆200年ぶりの再会に感極まり、春宵宮での出来事など後回しになってしまった。


 そういえば、あの夜教えてもらったのだが、リュークが魔法陣を解除する前、しばらく無言になったがあった。

 あれは、その時、念話でフェロニア達と連絡をとっていたのだと。

 まだ、確信もない状態でフェロニア達を呼び寄せたリュークはやはりすごいと、今更ながら思う。




 つらつらと一昨日からのことを考えていると、違和感を感じた。部屋の中の空気感、魔力の濃さ、のようなものが変だ。

 その違和感の元を探していると、目の前の空間が突然歪む。


「フェロニア様!」


 そこには、柔らかな笑みを浮かべるフェロニアが立っていた。

 昨日の今日。しかも、何故かナギサの自室である。

 ナギサの心中は疑問しか浮かんでこない。

 ここに来るよりも、クラーヴィアともっと話したり、国神としての務めや、豊穣神としてなすべきことが、山積みとなっているのではないかと。

 もしそれらを後回しに出来るのなら、彼女自身の体を休めたほうがよいのではないかと。


「うふっ、おはよう。顔色は良いみたいだけど、ちゃんと体を休めることはできて?」


 驚くナギサに、フェロニアは体調を気遣う言葉をかけてくる。

 ナギサとしては、フェロニアこそ体調はもう大丈夫なのか、である。

 200年という長い月日。名を隠されていたせいで本来の力を失っていた。それが昨日突然戻ったのだ。その反動で体調を崩したりはしないのだろうかと、要らぬ心配をしてしまう。

 素直にその心配を口にすれば、フェロニアはただ問題ないと微笑むのみ。

 しかも、続けて、


「ねぇ、神殿内を案内してくれないかしら? 昨日はそんな時間がとれなかったもの。何か変わったのか、変わっていないのか、この目で見てみたいわ」


 フェロニアからの想定外の一言である。神殿内を案内するのであれば、昔も今も知っているクラーヴィア達が適している。そうナギサが口にすると、


「わたしはナギサ、あなたがいいの」と、ふわりと微笑んで押し切られてしまった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ