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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第二章】

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280/315

2‐27‐18 笑顔

 


 ナギサとリュークがクラウス達の元に戻ると、そこにはウーラニアとエクースも揃っていた。

 皆、フェロニアとニールの様子が気になるようで、二人には目もくれず、皆の視線がフェロニア達に集中していた。


「結界を張ってあるから、何を話しているのか、声も聞こえないし、口の動きもわからないよ」


 そんな彼らの姿に、リュークが深くため息をつく。


「そんなことを言ったって、心配なのよ、リューク。こっちは気になるわ。それに、二人きりにしてよかったの?」


「ウーラニアは何が気になるんだい? ここに僕がいるのだから、ニールだって流石に悪さはできないだろ?」


「......あなた、本当に鈍いわね!」


 リュークはこの場所でニールがまた悪さをすることはないだろうと、そう口にしたのだが、ウーラニアは眉を軽く寄せ、「そうじゃない」と言わんばかりの呆れた表情を浮かべ、リュークをまじまじと見つめる。


「? どうしたんだい、ウーラニア。僕は何か変なことを言ったかい?」


 隣に立つエクースもウーラニアと同じように呆れた表情をしていた。

 訳が分からずクラウス達へと視線をやれば、やはり彼らも呆れ気味の表情だ。

 ますます意味がわからずに途方に暮れていると、横にいるナギサがそっとリュークの袖を引いた。


「んと、リューク。気づいていないようですけど......フェロニア様はニールさんのこと、お慕いしていると思いますよ」


「!」


 ナギサに向けた金の瞳が、瞼がなくなるほど見開かれている。


 ——やっぱり......リュークは全然気づいていなかったんだ。

 ニールはフェロニアに向ける思いを神界では気づかれないように上手く隠していた。

 とはいえ、ナギサに対しての言葉や、ここ春宵宮での様子からは、その思慕は透けてみえるものだったが。

 そして、フェロニアのニールへの思慕は、この場でみせる所作だけでも、とても解りやすい。

 加えて、神の間でのフェロニアとの会話でも。ニールを話題にした時のフェロニアの表情。声に籠る熱、瞳に浮かぶ光、少し戸惑うような仕草。どれも恋する乙女のものだった。


 リュークはフェロニアに近すぎて、却って気付かなかったのかもしれない。


 だが、親友であるウーラニアや長く友人であるエクースは、とうに気づいていたであろう。

 ウーラニアとエクースは、呆れた表情からこらえきれないといったように、徐々に笑いをかみ殺しているような表情へと変わっていた。ウーラニアに至っては、目尻に浮かんだ涙を拭っているぐらいだ。


 アダマースとリナの表情はよくわからない。二人ともこの後どうなるのか興味津々といった様子で、視線をリュークに向けている。

 ある意味、ファイヌムの反応が一番リュークに近いのかもしれない。大きく目を見開き、リュークではなく、(念話で事情を聞こうとしているのか)何故かクラウスに視線を向けているのだが。


 周りの状況に気づいていないのか、リュークはいまだ驚愕の表情を浮かべたまま、その金の瞳をナギサに向けていた。


「——それ......本当のこと?」


 やっと出てきた言葉は掠れ気味。


 ——何故わたしに尋ねるのだろう。同じ神であるウーラニア達が傍にいるのに。

 だが、今一番聞くのにふさわしいのは、


「んと、わたしに聞くより、ご本人に聞いてください」


 ナギサはその視線をリュークからその背へと向けた。

 リュークは促されるように、ナギサの視線の先へと顔を向けた。

 フェロニアがすぐ傍まで来ていた。




「兄さま、どうかされました?」


 フェロニアは自分に向けられた兄の視線に戸惑った。

 穴が開くほどと言えばいいのか、その美しい金の瞳を大きく見開いていた。

 しかも、何か言いたいことがあるのか、口を微かに開けたままだった。


「兄さま?」


 普段の兄の態度との違いに戸惑い、今一度問い返すのだが、兄の様子は変わらない。

 諦めてナギサへ視線を向けると、ナギサは「んと......」と口ごもり、その視線で兄にやはり聞けと言うのだ。


 フェロニアが改めて兄へと視線を向けると、何かに突き動かされたようにやっと口が開いた。普段の自信溢れる声とは真逆の、囁くような、掠れてそのまま消えてしまいそうな声だ。


「ローニャ、君は......あいつのことが、その、好きなのかい......?」


「うふっ。兄さまったら」




 リュークに向けられたその柔らかで艶やかな笑顔が答えだった。

 微かに頬を染め、透瑠璃色の瞳を煌めかせる表情は、何の言葉も必要としない。


 ——フェロニア様、とても輝いていらっしゃる。ニールさんのこと、本当にお好きなんだ。

 ナギサはフェロニアの笑顔に、ナギサ自身が幸せのお裾分けをもらっているような気持ちになり、知らず知らずのうちに、顔が緩み、柔らかな笑みを浮かべていた。


 隣を見れば、リュークは完全に驚きで固まっている。

 こんなリュークは見たことがなく、少し不思議で面白い。



「ちょっと、ローニャ。幸せそうなところ悪いけど、ニールはどうしたのよ? 見当たらないけど?」


「うむ、フェロニアよ。あ奴はいずこへ行ったのじゃ。わしに詫びの一つもせずに立ち去るとは、まことにけしからんのう」


「そういえば......見当たりませんね、ニールさん。フェロニア様、お話は出来たのですか?」


 ウーラニアの問いかけをきっかけに、皆がニールを探して辺りを見回すが、何処にも彼の気配はない。

 フェロニアは特に焦ったり怒った様子をしているわけでもないので、何か問題があったわけではないのだろう。

 だが、本当にニールは何処にと、皆の視線が彼女に集まる。


 フェロニアは、少し困ったように、けれど先と変わらぬ笑顔のまま、肩を軽くすくめた。


「逃げられちゃったわ」


 その軽やかな言葉に、ナギサは拍子抜けしたように目を丸くし、リュークは小さくため息をついた。


「あいつは......お前の気持ちを知ったうえで、逃げたのか!」


「うふ、良いの」


 ——だって、わたし達は一からやり直すのだから。




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