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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第二章】

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277/315

2‐27‐15 ニールへの問いかけ

 


 ナギサは指輪を掌に収めると、ファイヌムと顔を見合わせた。その様子に安堵したのか、リナが再び嬉しそうに宙を舞い、遠くからはフェロニアとウーラニアの朗らかな笑い声が届いてくる。


 ナギサは改めて指輪の繊細な細工に見入っていたが、その虹色の輝きからふと顔を上げたとき、視界の端に映る彼の姿に気が付いた。


 皆の喜びの光の中で、ただ一人静止し、深い陰を纏っている者。


 ほんの数歩離れた場所で、ただ立ち尽くすニヒルム(ニール)の姿だった。

 彼は、相変わらず動かず、琥珀色の瞳はフェロニアに向けられたまま、涙をただ静かに流し続けていた。

 その鮮やかな赤毛が、周囲の光とあまりにも対照的で、ナギサは、彼の視線から、言葉にできないほどの深い痛みを、ふと、感じ取った。


 ——ニールさん、ちゃんといてくれた......。

 ナギサは一人立ち尽くすニールを目にし、ここから逃げずに残っていてくれていたことに安堵した。

 フェロニアに釘を刺されてはいたが、こっそりここから立ち去ることも出来たはず。

 この後、ウーラニア達やアダマースからかけられるであろう言葉を想像すれば、立ち去りたいはずだから。


「ニールさん、まだわたしは邪魔ですか?」


 ナギサはニールへ歩み寄ると、その背に静かに声をかけた。


「......」


「フェロニア様、お綺麗ですよね。春の陽だまりのように穏やかに輝いていて」


 一歩前に進み、ニールの横に並ぶ。神達が集う場所を見れば、フェロニアが一際輝いて見えてくる。

 何も言わず、フェロニアへ視線を向けたままのニールが、重い口をやっと開いた。


「何故、わたしに構う」


「何故、ですか......わからない、です」


 そう、ナギサは自分でもわからない。何故、ニールを気にかけてしまうのか。相手はナギサを手に掛けようとした神である。余計なことは言わず、離れて、リューク達に任せておけばよかったはず。

 だが、何故か気になってしまう。


「わたしは、お前をまた手に掛けるかもしれないのだぞ」


「でも、していないです」


「......それで、何の用だ」


「いつだったんですか?」


 ——そう、わたしが知りたいのは、いつ、どうやって、ニールはフェロニアから名前を奪ったのか。

 そして、どうやってここへ隠したのか。


 以前フェロニアと仮定の話として話した時には、宴の時が怪しいという結論になった。

 ナギサとフェロニアの推測は、果たして正しいのか。


 ウーラニアが指摘するまで、フェロニア自身が名を失っている事態に気づかなかった。

 名を奪われる本人がそこまで気づかずに、術を行使できるものなのか。

 そこも不思議で、ナギサはどうやったのかが気になっていた。


 もう一つ、こんなことをした理由は何か。

 ナギサは先程リュークに話したように、気になる子をつい虐めてしまう心理が根底にあると考えている。

 きっとニールは、名前を奪われたフェロニアが、ニールを頼ってくることを期待したのだろう。それを無事に解決して、彼女の信頼と愛情を得る。そんな筋書きの物語を描いていたのではないかと。

 だが、フェロニアはニールを頼らなかった。

 そして月日は過ぎていき、突然現れたナギサ。

 ナギサの何かがニールの邪魔になった。その何かはナギサにはわからない。

 幸せな結末の物語を夢見ていたのに、思うように事は運ばず、予想外の邪魔ナギサも入ってくる。

 ものすごく苛立たしく、もどかしかったのだろう。


「わたしも知りたいわ」


 柔らかで穏やかな声がナギサの隣から聞こえた。


(いつの間に!)


 今さっきまで視線の先にいたはずのフェロニアが、ナギサの隣に立ち、そっとナギサの肩を抱き寄せた。


「フェロニア......」


「ニヒルム、約束でしょ? お話してほしいわ」


 ふわりと微笑むフェロニアだが、琥珀色の瞳を見つめる彼女の瞳は、真実を知りたいと訴えていた。





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