2‐27‐15 ニールへの問いかけ
ナギサは指輪を掌に収めると、ファイヌムと顔を見合わせた。その様子に安堵したのか、リナが再び嬉しそうに宙を舞い、遠くからはフェロニアとウーラニアの朗らかな笑い声が届いてくる。
ナギサは改めて指輪の繊細な細工に見入っていたが、その虹色の輝きからふと顔を上げたとき、視界の端に映る彼の姿に気が付いた。
皆の喜びの光の中で、ただ一人静止し、深い陰を纏っている者。
ほんの数歩離れた場所で、ただ立ち尽くすニヒルム(ニール)の姿だった。
彼は、相変わらず動かず、琥珀色の瞳はフェロニアに向けられたまま、涙をただ静かに流し続けていた。
その鮮やかな赤毛が、周囲の光とあまりにも対照的で、ナギサは、彼の視線から、言葉にできないほどの深い痛みを、ふと、感じ取った。
——ニールさん、ちゃんといてくれた......。
ナギサは一人立ち尽くすニールを目にし、ここから逃げずに残っていてくれていたことに安堵した。
フェロニアに釘を刺されてはいたが、こっそりここから立ち去ることも出来たはず。
この後、ウーラニア達やアダマースからかけられるであろう言葉を想像すれば、立ち去りたいはずだから。
「ニールさん、まだわたしは邪魔ですか?」
ナギサはニールへ歩み寄ると、その背に静かに声をかけた。
「......」
「フェロニア様、お綺麗ですよね。春の陽だまりのように穏やかに輝いていて」
一歩前に進み、ニールの横に並ぶ。神達が集う場所を見れば、フェロニアが一際輝いて見えてくる。
何も言わず、フェロニアへ視線を向けたままのニールが、重い口をやっと開いた。
「何故、わたしに構う」
「何故、ですか......わからない、です」
そう、ナギサは自分でもわからない。何故、ニールを気にかけてしまうのか。相手はナギサを手に掛けようとした神である。余計なことは言わず、離れて、リューク達に任せておけばよかったはず。
だが、何故か気になってしまう。
「わたしは、お前をまた手に掛けるかもしれないのだぞ」
「でも、していないです」
「......それで、何の用だ」
「いつだったんですか?」
——そう、わたしが知りたいのは、いつ、どうやって、ニールはフェロニアから名前を奪ったのか。
そして、どうやってここへ隠したのか。
以前フェロニアと仮定の話として話した時には、宴の時が怪しいという結論になった。
ナギサとフェロニアの推測は、果たして正しいのか。
ウーラニアが指摘するまで、フェロニア自身が名を失っている事態に気づかなかった。
名を奪われる本人がそこまで気づかずに、術を行使できるものなのか。
そこも不思議で、ナギサはどうやったのかが気になっていた。
もう一つ、こんなことをした理由は何か。
ナギサは先程リュークに話したように、気になる子をつい虐めてしまう心理が根底にあると考えている。
きっとニールは、名前を奪われたフェロニアが、ニールを頼ってくることを期待したのだろう。それを無事に解決して、彼女の信頼と愛情を得る。そんな筋書きの物語を描いていたのではないかと。
だが、フェロニアはニールを頼らなかった。
そして月日は過ぎていき、突然現れたナギサ。
ナギサの何かがニールの邪魔になった。その何かはナギサにはわからない。
幸せな結末の物語を夢見ていたのに、思うように事は運ばず、予想外の邪魔も入ってくる。
ものすごく苛立たしく、もどかしかったのだろう。
「わたしも知りたいわ」
柔らかで穏やかな声がナギサの隣から聞こえた。
(いつの間に!)
今さっきまで視線の先にいたはずのフェロニアが、ナギサの隣に立ち、そっとナギサの肩を抱き寄せた。
「フェロニア......」
「ニヒルム、約束でしょ? お話してほしいわ」
ふわりと微笑むフェロニアだが、琥珀色の瞳を見つめる彼女の瞳は、真実を知りたいと訴えていた。




