2‐27‐14 お礼 2
ファイヌムは心底驚き、戸惑っていた。
己は本当に何もしていない。
ナギサに話しかけているアダマースに声をかけることは気が引けるのだが、やはり過分な物を手にしていると思ってしまう。
「アダマース様、わたしはナギサ君に付き添っていただけで、それこそ何もお役に立っておりません。これはあまりにも過分かと......」
ナギサの言葉ではないが、ただ付き添っていただけだ。
《ファイヌムと申したか。それは詫びじゃ。付き添うてと申すが、巻き込まれて、が正しいであろう。そこの守り人も迷惑をかけたようだからのう。
それとな。一つ頼みがある。この小さき者を助けてやってほしいのじゃ。お主が思うておるより、この者は世の中を知らぬ。せめて学び舎におる間だけでも、助けてくれぬかのう》
アダマースから、突然の念話である。内容が内容なので念話なのは理解できるが、何故改めてナギサのことを頼むと言うのか。
リュークという神とクラウスというシンバが、これ以上ないほど愛情を注いで、ナギサを護っている。
己のような一介の神官が、それ以上に何ができるというのか。
それに、今日これまでの光景を思い返す。
ファイヌムは一人、自身がただ人であることを思い知らされるような光景の連続であった。
ナギサが纏う白光。
リュークやフェロニアが纏う神威にナギサ自身が包まれても平気な姿。
まるでフェロニアと知己の仲であるような様子。
それらすべてがファイヌムにとって、ナギサという存在が今まで知っていた学舎の生徒から、神でもなく、人でもなく、何か異質な存在であるかのように感じさせる、これまで経験したことがない出来事だった。
ただの神官である己が、一体何が手助けできるというのだろうか。
《異質に思えるであろうな。じゃが、あの者は普通の人の子じゃ。ほんの少し特別な力を持っているだけじゃ。だが、それが奇異に、異質に、不安に見られ、周りから距離を置かれるやもしれぬ。あの優しい小さき者にそのような寂しい思いはさせとうない。わしがお主に頼むはそういうことよ》
ファイヌムはアダマースの金の瞳を見つめ返した。その瞳からは感情は読み取れない。だが、念話から伝わってくるのは、ナギサへの気遣いと、ファイヌムへ対する率直な願いであった。
《アダマース様。何かわたしが特別にできることがあるとは思いません。ただ、今まで通り、ナギサ君を気遣うだけでよいのであれば、それはこれからも変わらず続けるつもりでおりますから》
◇
ナギサは指輪を見つめたまま、本当にこのようなものをもらってもよいのだろうかと考えていた。アダマースは「礼だ」というが、やはり過分な気がして気になってしまう。
「ナギサ、お揃い!」
突然リナがアダマースから離れたかと思うと、宙に浮いたままナギサへと抱きついて来た。
ナギサの首に軽く両腕をまわし、ナギサの周りをくるくると回っている。
アダマースの枷が外れた後、リナはアダマースの傍で嬉しそうに飛んでいた。
それが急に「お揃い」などと言ってナギサに抱きついてきたのだが、一体何がお揃いなのだろうとナギサが小首を傾げると、
「指輪と首飾り、お揃い! アダマースからもらった!」
見ればリナの首元にはナギサが手にする指輪とよく似た首飾りがあった。
柔らかな虹色を光の加減で辺りに煌めかせている。
「ナギサ、嬉しくないの?」
指輪を手にしたまま困り顔をしているナギサが、リナには不思議なようだ。
ナギサの前で動きを止めると、その翠の瞳で見つめてくる。
「ん......わたしにこれをもらう資格があるのかな、って」
素直に思っていることが口に出てしまう。
「シカク? 何、それ? リナにはわからないよ」
どうやらリナにはナギサが悩んでいる点が理解できないらしい。
「んと、アダマース様から指輪をもらっていいのかな、って」
「いいと思う! リナとお揃い! リナは嬉しいし、アダマースも嬉しい!」
なんの躊躇いもなくリナに肯定されてしまった。
リナがあまりにも真っ直ぐに喜びを全身で表しているせいか、指輪を受け取らないことがとても悪いことに何故だか思えてくる。
「二人とも受け取ってくれる気になってくれたようじゃ。失くさぬ内に指にはめるがよかろう」
どうやらファイヌムもアダマースからの贈り物を受け取る気になったようだ。
ナギサがファイヌムに顔を向けると、ファイヌムがナギサへ向けて軽く頷く。
「ああ、アダマース様のせっかくのご厚意だから、ありがたく受け取ることに決めたよ。ナギサ君はどうするんだい?」
「わたしもファイヌム様と同じです。アダマース様、ありがたく頂戴いたします」




