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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第二章】

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275/315

2‐27‐13 お礼

 


 目の前の《女神》の姿に、ナギサはただ息を呑み、その神々しい輝きに心を奪われた。

 全身から溢れる清らかで優しい光は、まるで祝福そのもの。そして、心が溶けるような温かさと共に、いつも以上に深く優しい香りが、ナギサの全身をそっと抱きしめるように漂ってきた。


「ローニャ......」


「兄さま」


 リュークの呼びかけに、フェロニアが静かに立ち上がり、ナギサ達へと歩み寄った。


 神威を纏うフェロニアの姿は、息をのむほどに神々しかった。

 リュークの、峻厳な光を放つ神威とは対照的に、フェロニアからは穏やかな陽だまりのような温かさが全身を覆い、触れる者に安らぎを与える神威の輝きである。

 その透瑠璃の瞳は、喜びに潤み、内なる光を宿して煌めいていた。そして、露を宿したかのような淡い桃色の唇から紡がれる言葉は、魂に触れるように優しく、いつも以上に心地よく響いた。


 リュークはナギサを抱きかかえたまま、空いた方の腕でフェロニアをそっと抱き寄せた。

 フェロニアもまた、リュークの背に回した腕で、二人の間にいるナギサをも優しく包み込むように抱きしめた。


「兄さま、ナギサ、ありがとう」


「ローニャ、お礼なら、さっき言ってくれたよ」

「フェロニア様、お礼の言葉は先程頂きましたから」


「もう、二人とも......何度でも言いたいわ。本当にありがとう。名を取り戻して、初めて気づいたの。どれほどのものを失っていたのかって。だから、何度でも言わせてちょうだい。本当にありがとう」




 ◇




「そろそろ、ウーラニア達のところへ戻ろうか。彼女達も君と話したいはずだから」


「ええ。皆には迷惑をかけたから......」


 リュークの言葉にフェロニアは体を離すと、その透瑠璃の瞳を湖畔へと、そしてニールへ向けた。


 ナギサはフェロニアの視線に気づき、その意味を考えてしまうが、それよりも、もっと気になることがあった。

 神威である。リュークの神威を先程から何度かナギサは纏っている。何故、ナギサはそれで傷つかないのか。今もそうであるし、今は加えてフェロニアの神威まで浴びているのだが、まるで影響を受けていない。

 神威は人への神罰と聞いているが、この状態は一体どういうことなのだろう。


 ナギサの怪訝な表情に気づいたのか、リュークがナギサに気になることがあるのかと尋ねてきた。


「んと、お二人の神威ですが、どうしてわたしは無事でいられるのですか? 人の身には神罰となるはずですよね?」


「あー、それは......また、今度説明する、でだめかな?」

「うふっ、そうね、これは兄さまがナギサに説明してあげてほしいわ」


 リュークは困り顔で、フェロニアは随分楽し気だ。

 よくわからないが、リュークが説明できることなのは理解した。


「わかりました。リューク、約束です。戻ったら説明してくださいね!」



 ◇



 湖畔に戻ると、フェロニアとリュークはウーラニアとエクースのもとへと足を向けた。

 フェロニアを待つウーラニアの瞳は既に涙で溢れ、フェロニアに抱きついて何やら大変そうな雰囲気である。

 とは言っても、ウーラニアもフェロニアも泣き笑いの明るい話声で、それを見守るリュークとエクースはとても良い笑顔をしている。




 ナギサはそんな彼らに混じることはせず、ファイヌムとクラウスが待つ場所へと向かった。

 そこにはアダマースとリナもいて、皆が穏やかな表情でナギサを迎えてくれた。


「クラウス、いろいろありがとう......」


 ナギサはクラウスの首に手を回すと、そっとクラウスの体に頬ずりした。


 《ナギサ、僕は何もしていないよ。頑張ったのは君だよ》


「そんなことないよ。わたしは、ただ流されていただけだから......」


 《まったく、君は......もう少し自信を持ちな》


 クラウスに頬ずりしているためか、彼の深い溜息が頬で感じられる。

 最近、同じようなことを言われている気がする。なんだか不思議でおかしな気持ちに浸っていると、横から深く静かな声が響いた。


「うむ、小さき者、お主がおらねば、わしは今こうして自由の身にはなっておらぬ。他者の手助けはあったかもしれぬ。だが、成したのはお主よ」


「アダマース様......ありがとうございます」


 ナギサはクラウスから体を離すと、アダマースに向かって深く頭を下げた。


「そのように首を垂れずともよい。礼をせねばならぬのはわしよ。ほれ、これをお主と、そこの人の子にもやろうぞ」


 アダマースはそうナギサとファイヌムに告げると、聞き取れないほどの囁き声で詠唱を始めた。ナギサとファイヌムは突然すぎるアダマースの言葉に、何が起きるのかとアダマースの口元を凝視した。

 しばらくしてアダマースの詠唱が終わると、二人は掌に違和感を覚えた。そこには、それぞれ水晶の鱗が煌めいていた。

 ナギサの小さな掌にははみ出すほど大きく、ファイヌムの手には程よく収まる大きさの鱗であった。


「あの、これは?」

「アダマース様、これは?」


「見ての通り、わしの鱗じゃ。ただ、そのままではなんじゃな。ほれ......」


 再びアダマースが短く詠唱を唱えると、掌にある水晶の鱗は指輪へと変化していた。

 二人の掌から鱗は消え、薄く虹色の輝きを帯びた細身の指輪が輝いていた。それは、とても繊細で緻密な細工が施され、光の当たり具合で様々な色合いを見せた。


「わしに用があれば、それに念ずればよい。余程のことがなければ力になろうぞ。今日の礼じゃ」


「こんな素敵なものを頂くわけには......」


「お主がわしにしてくれたことの礼には全く足りぬが、今はこれで赦せ」


 ナギサが指輪を見つめ戸惑っていると、アダマースは金の瞳を和らげ、深く静かな声でそう返してくれた。




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