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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第二章】

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270/315

2‐27‐8 想い 1

 


 ナギサはリュークに抱きかかえられたまま、この状況へついていこうと必死に思考を巡らせていた。


(なんだろう......この光......)


 己を包み込むこの美しい光のベール。

 痛くも苦しくもなく、強いて言えば心地よい安心感と、リュークの優しさが感じられる。


 ——これは“神威”なのか? 人が触れれば命はないと聞いている。それに、先の話では、己が持つ“白光”と対極をなすものではなかったか。この神威に覆われて、何ら害がないのは一体何故だろう。


 己の状況も不思議であるが、それよりもリュークだ。

 平坦で、感情を感じさせない声だが、深く静かに怒っている。だけど、それ以上に悲しんでいるように感じるのだ。

 それに、こんなことをリュークにさせてはいけない。友を手に掛けるなど、自身の心を深く傷つけるだけで、何も良いことはないのだから。


 ナギサは、そっとリュークの腕に手を添えた。

 リュークがピクリと身を震わせ、問いかけるような眼差しをナギサへ向けた。


「ダメ......こんなことしてはダメだよ」


「こいつは君を傷つけた」


「わたしはリュークにこんなことをして欲しくない」


「僕は警告したんだ」


「でも、リューク。すごく悲しそうだよ」


「ナギサ......君は......」


 ニールの首にかかるリュークの手から、ほんの少し力が緩んだようだ。

 ナギサは心の中で軽く一息つくと、ニールへと視線を向けた。

 ニールはリュークからの言葉に一切反駁せず、神威で身を護るだけで、ただ黙ってその首を掴ませていた。


「ニールさん、どうして名前を隠したんですか?」


「何故お前に答えなければならない」


 ニールは視線をナギサに向けることなく、吐き捨てるように言葉を返してきた。


「わたしにではなく、《女神》様へ話してください。それに......こんなことを言っていいのかわからないのですが。《女神》様のことを、愛されていますよね?」


「!」


 何故かニールの琥珀色の瞳だけでなく、リュークの金の瞳までもが、ナギサを凝視していた。

 二人とも無言ではあるが、その瞳を見開き、軽く口が開いていた。


(あれ? 二人ともその反応は何?)


 ナギサはリュークが驚いていることに、驚いてしまう。リュークは気づいていなかったのだろうか。どこからどうみても、今もそうなのだが、ニールの《女神》への恋慕の情はわかりやすい。ニールの《女神》へ向ける眼差し、その熱量を感じていなかったのだろうか?


「ナギサ......今、君が言ったことは......」


「んと、リューク、気づいていなかったの? それに、名前を隠すニールさんの行動って、大好きな女の子をつい意地悪してしまう男の子みたいじゃないですか?」


 リュークにとってナギサの一言は意外も意外。神界で皆と語らっていた時、ニールがそんな素振りを見せていた記憶がない。付け加えられた理由に至っては、そのあまりに子供じみた行動原理は何なんだと、怒りや悲しみよりも呆れてしまい、何も言えなくなってしまった。


「おま、おまえは、わたしの何を知っているというのだ!」


 押し黙っていたニールから漏れる苦しげな、押し殺すような声。

 ナギサを凝視するその琥珀色の瞳は、深く、昏く、底が見えない。


 ——あの時と同じだ。小物屋で、いや、神の間で己がニールに問うた時と。

 魂の底から絞り出すような、悲痛な叫び。泣き濡れた幼子の慟哭。


 あぁ、ニールさん、寂しいんだ。

 《女神》様が大好きで、《女神》様に振り向いて欲しくて。

 リュークと《女神》様の仲睦まじさが羨ましくて。

 二人の間に入りたくて、入れなくて。

 リュークから《女神》様を奪うのが怖くて、後ろめたくて、自信が無くて。

 一人は寂しいから。

 一緒に居て欲しいから......。


「ニールさん。ちゃんと《女神》様に言いましたか?

 大好きです、愛していますって。

 言わないと伝わらないですよ。

 見ているだけで、見つめているだけで、わかって欲しい。

 身振り素振りだけでわかって欲しい。

 そんなの無理です。

 大切なことは、ちゃんと言葉にして、相手の目を見て言わないと伝わらないですよ」


「っ、うるさい!!」


 ニールが纏う神威が微かに軋み、一歩、ナギサに向けて足を踏み出そうとする。


 リュークは手に再び力を籠め、ニールの動きを妨げようとする。


 が、二人のその動きは妨げられる。


「——ねぇ、仲直りしない?」


 柔らかな声が響いた。

 ふわりと漂う優しい香り。

 《女神》の手がリュークの手を抑え、もう片方の手がニールの頬へと添えられていた。



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