2‐27‐7 糾弾
ナギサはリュークに抱えられたまま、ニールを見つめた。
大人の足で五歩、六歩。それほどの距離に彼はいた。
不自然な姿勢のまま、痛いほどの視線を《女神》へと向けている。
何時からそこにいたのか、何処から話を聞いていたのか。
近くにニールがいたことに、まったく気づけなかった。
だが、少し考えれば納得もする。
アダマースが身に着けていたアンクレットを用意したのはニールだ。
当然その鍵を持っていたはず。その鍵が恐らく反応を示した。だから、ここへ急いでやって来たのだろう。
その割には何故かあの場所で不自然に留め置かれている......っ! あ、いつの間にか結界がわたし達の周りに張り巡らされている!
気づかなかった。この結界はリュークなのか。
流石、神というべきか。《女神》達への連絡といい、この結界といい、どこまで視えているのだろう。
耳元でふわりと揺れる金の髪。ナギサがくすぐったさを感じ、意識をリュークへと向けると、
(しっかり摑まっていて)
耳元でそっとリュークが囁いた。
何と、聞き返す間もなく、視界がブレた。
ほんの一瞬で視界は戻ったのだが、ナギサの目の前に、ニールの姿があった。
◇
「拘束を解くけど、余計なことはしないでくれよ」
リュークの声はひどく平坦だ。いつもの柔らかさも、怒った時の激しさも、そのどちらも感じさせない声。
その代わり、というわけでもないのだろうが、リュークの体が静かな光を帯びていた。
静謐な光が全身を覆い、かつてないほど美しく、神秘的な“神”としてリュークはそこに在った。
そして、何故かその美しい光のベールはナギサをも覆っていた。
リュークが軽く手を振ると、周りにあった結界は掻き消えた。捕らわれていたニールもバランスを崩し膝をつくが、すぐに立ち上がり、両腕を組みリュークの前へ立つ。
「リューク、一体何が......」
「ニール、それは僕が言いたい」
リュークはニールの言葉を遮り、一歩、ニールに近づいた。
「最愛の妹の名を奪い、隠した。
君は彼女の悲しみと辛さ、想像できるのかい? 国神としての役目も満足に果たせず、豊穣神としての役目も疎かになった。
何よりも、友にも名前を呼んでもらえない辛さと寂しさ。君は想像したことがあるのかい?」
一歩、リュークが前へ進む。
「大切な友人であるアダマースを罠に掛け、永きにわたって春宵宮へ閉じ込めた。翼を持つものが、その翼を閉じたまま永く地面に繋がれる屈辱。君は理解していたかい? 幻影に転移阻止、訪れるものがほとんどいない寂しさを君は知っていたのかい?」
また一歩。
「そして、何よりも“僕のナギサ”を殺そうとした。人の子に手荒な真似をするな、なんてお行儀のいいことは言わないよ。僕だって散々人の子に酷いことをしている自覚はあるからね。ただ、“邪魔”という理由で春宵宮へ攫い、殺そうとする。少しやり過ぎじゃないかな。それに、ニール、君。ここに来た時、ナギサを真っ先に狙ったよね。僕は言ったはずだよ。『次、やったら、一回は死んでもらう』って」
そしてまた一歩。ナギサを抱える手ではない、空いた方の手をニールの首へと伸ばす。
「僕は君のことを友人だと思っていたよ。
君と一緒に旅するのは楽しかった。一緒にふざけるのも楽しかったよ。
人界を巡って様々な地でいろんなことをしたよね。
君とは本当に気が合う友人だと思っていた。
でも、それは違ったのかな?
ウォーリの件もそうだけど、これだけ僕が嫌がることを重ねてきたのは、どういうつもりだい?」
神威を纏ったリュークの手が、ニールの首を掴んでいた。
いつの間にかニールも神威を纏っていた。だが、それはただ身を護るだけのものに見える。リュークへ何か、反撃するような気配は一切見せていないのだから。




