2‐27‐6 ニール
わたしは神界では新参者だ。
主は気紛れに神を増やす。
わたしが新しく神として加わった時、既に多くの神々がいた。
故にわたしには何の役目も与えられなかった。
そんなわたしは、国神でもなく、何かを司ることもなく、ただ暇を持て余していた。
新参の神々は大半が、気ままに、好きなことをして、自由に神界で過ごすだけ。
永劫の暇に、わたしは飽き果てていた。
退屈は、神にとっての毒だ。変化もなく、刺激もない。
神の日常とは、なんと虚しいものかと。
神の似姿として在る人の子達の世界——人界に降りてみた。
人界はなんと刺激に富んでいることか。
儚い一生を駆け抜けていく人の子達。
儚いがゆえに足掻き、もがくその姿が、無限に生きるわたしには酷く眩しかった。
生の熱を求めて、ただ人界を旅した。
そんな時、彼、リュークと出会った。
古くから在り、神界では一、二を争う力を持つ神。
そんな彼と、妙に気が合い、気づけば、一緒に人界を旅するようになっていた。
気ままに人の子達と出会い、ひとときの恋を楽しみ、また別の場所へと流れ。
常に一緒にいたわけではない。それでも本当に気が合って、人界では共に旅をし、共にいたのだ。
ある時、気まぐれで神界の宴に顔を出した。
普段は興味もなく、顔を出すことは滅多にない神々の宴。
どうしてそんな気分になったのかと言えば、久しくリュークに会っていなかったから、ただそれだけ。
彼が最近どうしているかと考えたのだ。
そして、そこでわたしは彼女に出会ってしまった。
リュークと仲睦まじく話す《女神》に。
それは、豪奢な一幅の絵のようだった。
そこだけが柔らかな光に溢れ、幸せに満ちているような空間だった。
リュークから、彼の友人として彼女に紹介された。
彼女はひときわ美しい微笑みをわたしに返してくれた。
神界で会う彼女はいつも神々に囲まれていた。
女神達にも男神達にも。
穏やかで優しく美しい彼女は、とても好かれ愛されていた。
そして、リュークはいつもその傍らに寄り添って、彼女の微笑みを独り占めしていた。
彼女のすべてを、わたしだけのものにしたい。
その笑顔は、わたし以外に向けるべきではない。
朝露に濡れたような唇から紡がれるのは、ただ一つ、わたしの名前だけであってほしい。
白磁の肌に触れる特権は、永遠にわたしだけのものであってほしい。
彼女に振り向いてもらうにはどうすればいいか。
彼女が頼ってくれるような自分になるにはどうしたらいいのか。
だから、彼女がわたしを必要とする状況を作り上げた。
名前を隠し、探し人として彼女の傍らに寄り添った。
なのに......。
◇
アダマースを留め置くための足枷、工芸神ヴァルカナが造り上げた至高の魔道具だ。
鍵は己の指にあった指輪のみ。
枷を外すには、ヴァルカナであっても、合鍵を再作成しなければならないはず。
それが解除された。鍵となる指輪が消滅したのだ!
急ぎ春宵宮へとやって来た。
地下空間の入り口にあたる洞窟。その手前の幻影結界に異常はない。この幻影結界を転移で越えられない仕掛けも有効なままだ。
この二つは己の仕掛けたもの。
侵入者を寄せ付けないために敷いたものだが、急ぎあの場に行きたい自分にとっては、邪魔に感じてしまう。
幻影を抜け、洞窟の入り口に立つと......。
転移阻止は解除されていた。
指を見れば、残っていた指輪も消えている。
この転移阻止は杭が起点のもの。
二つの指輪が消滅したということは、アダマースの枷が外れ、杭も消滅したということになる。
一体どうして、どうやって、誰が......。
焦る心を押さえつけ、アダマースの枷を繋いだ水晶の杭があるはずの場所を目がけて転移した......が、阻まれた。
阻まれた上に、身動きを封じられた。
強烈な捕縛結界が、この辺りに敷かれていた。
捕らわれたわたしは、ただ前を見つめ、目の前で語られる会話を聞くことしかできない。
だが、この光景は、何だ?
何故、彼女がいる?
何故、リュークがいる?
アダマースが傍におり、守り人にウーラニアやエクースまでいるではないか。
忌々しくも、あの人の子までいる。
人の子はリュークに抱きかかえられ、彼女が何故か人の子を労わっている......。
いや、それよりも、今語られたことはなんだ?
彼女とリュークが兄妹だと?
二人の神界での睦まじさは、欺くためのものと?




