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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第二章】

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2‐27‐4 戸惑い

 


 突然目の前に現れた《女神》の姿に、ナギサは戸惑いを隠せない。


 ——どうして《女神》様が此処へ?

 目の前にいらっしゃる三柱の神。周りの様子から察するに、男神は馬の神エクース様だとわかる。

 やはり、ファイヌム様とは既知の仲のようだ。

 《女神》様の名前の件は、リュークは暫くファイヌム様には内緒と言っていたはずだが、今エクース様がファイヌム様に説明している。特にクラウスが止める様子もないのだから、もう問題はないのだろう。 っていうか、もう今更かな。

 それに、ウーラニア様がおっしゃった『急いで来いって言ったのはあなたでしょ』という言葉。いつの間にリュークは連絡をしたのだろう?


 それよりも、《女神》様だ。人界したへは降りられないと聞いていたが、春宵宮ここであれば、門経由で来れたのだろうか。酷く消耗されているようだ。先日神の間でお会いした時は、とてもお元気そうだったのに。


 ナギサが《女神》へ視線を向けると、それに気づいたのかふわりと微笑み返してくれるが、やはりその顔色は青白く、辛そうなのが見て取れる。


 その姿に、考えるよりも先に、体が動いていた。

 ナギサは《女神》に駆け寄ると、その体にそっと両腕を回した。

 ナギサの体がやわらかな虹色の魔力でほわりと輝き、その両腕、体から《女神》へ虹色の魔力が吸い込まれていく。


「《女神》様、とても辛そうです。これぐらいしかわたし、出来ないけど......」


「ナギサ......ありがとう」




 ——あれは奉納舞と同じ。あの美しい魔力はやはり神への奉納......。

 ナギサから直接魔力を受け取る《女神》を見て、ファイヌムは目の前の光景に目が釘付けになる。

 アースターと共に魅了された、あの時の奉納舞を彷彿とさせる美しい光景。




 虹色の魔力が吸い込まれていくほどに、《女神》の青白い顔色に生気がさし、頬に色が戻っていくのがわかる。

 抱き着くナギサに体を預けるようにしていた《女神》が、自分の脚でしっかりと立っているのが見て取れる。




「そこまでだよ」

 唐突に声がかかり、ナギサが《女神》から引き離された。

 ナギサが驚きに目を見開いていると、リュークがナギサを引き寄せ、ひょいと抱きかかえた。


「リューク! でも、まだ《女神》様に魔力を......」


「ここまでだ。君の魔力が尽きてしまう。気持ちが昂っているから、気づいていないかもしれないけど、自分の状態をよく見てごらん」


(っ! 本当だ......)


 リュークの言葉に、ナギサが己の魔力を確認すると、枯渇寸前であることに気づく。リュークの指摘どおり、アダマースのことやニールのことで、気持ちが昂り、己の状態を正しく認識できていなかったのだろう。

 そして同時に、立っているのがやっとというほど辛い状態であることにも気づいてしまった。

 リュークに抱きかかえられているが、平衡バランスが保てない。


(マズイ......フラフラする......下に降ろしてもらわないと)


「ほら、僕の肩に両手をまわして。少し僕に体を預けているといい」


「リューク......ごめんなさい。でも、下に降ろしてもらえれば、わたし、座っているから」


 なんとか体に力を籠め、リュークの腕から下へ降りようとした瞬間、そっと頬に触れる優しい手があった。

 先程まで酷く辛そうにしていた《女神》が、ナギサの前に立ち、その手をナギサの頬に寄せていたのだ。


「ナギサ......ありがとう。もう十分あなたから力をもらったから。無理をしないで。せっかくだから、兄さまの我儘も聞いてあげて」


(......っ? えっ? 今、何と?)


 ナギサの困惑を無視するかのように、目の前の美しい神々は会話を続けていく。


「我儘はないだろう」


「うふっ。我儘でなくて、何かしら?」


「そうよね。リュークのそれって、自分がナギサを離したくないだけでしょ?」


「なんだよ二人して。いいじゃないか、別に」


 三人の会話に水を差すようではあるが、ナギサは先程の言葉が聞き違えでないことを確認したかった。


「あっ、あの、《女神》様、今、『兄さま』と?」


「ええ、そうよ。リュークはわたしの兄神。黙っていてごめんなさいね」


 ニッコリと笑ってそう答える《女神》の顔が、妙に悪戯が成功した子供のように見えてしまった。



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