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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第二章】

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262/316

2‐26‐19 枷からアンクレットへ、そして視えてきたもの

 


 シャリン——


 薄いガラスが砕けるような、微かな音が響いた。


 その音に、皆の視線がアダマースの足元へと向けられた。


 アダマースの足枷はそのままに、だが、それを捕えていた水晶の鎖はどこにもなかった。


 と、何が起きているのか。アダマースの姿が激しく揺れて、ぶれてみえる。

 視界の違和感が落ち着き、改めてアダマースへ視線を戻せば——


「......アダマース様で合っていますよね?」


 ファイヌムは目の前にある竜の姿に息を呑んだ。

 それは紛れもなく水晶竜。水晶の鱗を身に纏い、光を受けて輝いている。

 だが、その大きさがあまりにも違うのだ。

 先程まで、鎖につながれていた時は、遥か上を見上げる高さ。

 その足で踏まれたならば、確実に死に至るであろう巨体であった。

 今目の前にいる竜は大きくはある。だが、人を二人ほどであれば乗せられるであろう、という騎獣サイズだ。

 その足元を見れば、アンクレットはその大きさを変えてそこに残っていた。


「うむ。いや、枷のせいであの巨体すがたを保たねばならなかったのじゃ。わしとしては、この姿が気楽で好んでおるゆえ」

 アダマースは、姿形は小さくなっても、相変わらずの深みのある声で低く笑った。


「アダマース、よかった!」

 ファイヌムがアダマースの姿に驚く横から、リナが跳び出してきた。

 リナは、ふわりと宙に浮かびながら、アダマースの長い首へと両手を回す。

 とても嬉しいのであろう。アダマースの名前を繰り返し口にし、その首から手を放そうとしない。



 ◇


 ナギサは杭の前に立つリュークの横へとそっと降り立ち、白光をその身に戻した。

 蒼穹にある魔法陣は小さなものから順に消滅していくのがわかる。

 すべての魔法陣が消滅するまで、もう少し時間がかかりそうだ。

 だが、既にアダマースの枷は外れた。何がどのように作用しているのかは理解できないが、枷を外すことがナギサの目的。それがかなったのだから、魔法陣の消滅が時間差で後になるのは気にせずともよいのだろう。

 視線をアダマースへと向ければ、その姿にやはり驚いてしまう。


 ——あれではまるで元世界で読んだ物語のよう。その背に乗ることが出来そうではないか。

 ああ、でも、リナの喜びよう。

 ドラゴンさんも表情がとても柔らかだ。

 よかった......。


 ナギサが深く安心感に包まれていると、頭の中に響く声がある。


 《小さき者よ、感謝するぞ》


 《ドラゴンさん!》


 《誠、助けられた。半ば諦めておったからのう。あやつが鍵を持って現れぬ限り、このままここで住まうことになるかと思っておったからの》


 《そんな。お役に立てて嬉しいです》


 《ところでそなた、わしを、その“ドラゴン”と呼ぶの、やめぬか?》


 《っ! ごめんなさい! お気に障りました?》


 《いやなに。枷が外れてわしの力も戻っての。そなたの出自、少し視えたのじゃ。その言葉、この世界では通じぬ......》


 ナギサはアダマースの言葉から、己の迂闊さに今更ながらに気づく。

 この場にいるのは限られた者。リュークとクラウスは知っているから問題ない。

 だが、ファイヌムは......。


 《わしは気にせぬ。じゃが、気にするものもおるだろう。あの神官は問題なかろうが、人界では通じぬぞ》


 《ご忠告、ありがとうございます。では、改めて、アダマース様、お役に立てて、わたしはとても嬉しいです》



 ◇



「さてと......」


「!」


 頬をくすぐる金の髪。アダマースとの念話に一区切りがついたと思った途端だった。

 またリュークに抱きかかえられている己に気づき、跳ねる心を必死に抑え込むナギサである。


「やっと姫君は僕の手の元に、ってことでいいのかな」


 柔らかく微笑むリュークの顔が間近にある。

 長い睫毛に縁取られた金の瞳。驚きに目を見開く己の顔が写っている。


「ち、近いです、リューク......」


「ん? 今更だと思うけどなぁ。それにナギサ。向こうだと、大人だったよね?」


 ——何をいきなりリュークは言っているのだ! 確かにこの世界では15歳を過ぎれば、ほぼ成人扱い。だが、それはそれ。今はどこからみても子供、元世界でいう小学生だ。


「っ、今のわたしは子供です!」


 ——そうだけど。でも、僕は君が欲しいよ。


「......じゃあ、これだけ」

 ——口づけぐらい許して欲しかったな。君が大人になるのは、本当に先のことだから......。


 リュークはそのままナギサの額に唇を落とした。


「ううっ......」

 ——なんだかズルい。この体勢では逃げられないではないか。リュークのことは好きになっちゃいけないのに......。

 ああでも、皆の視線がアダマースに行っていてよかった。こんなところを見られたら、恥ずかしくて何処かへ隠れてしまいたくなる。


 赤くなった顔をリュークに見られるのも恥ずかしく、その顔をリュークの肩越しに水晶の杭へと向ける。


「えっ?」


 が、その目に写ったものに視線が釘付けになる。

 そのまま視線を上にあげれば、蒼穹に広がっていた大小の魔法陣は消滅していた。だが、この地下空間を覆う巨大魔法陣は、変わらぬ輝きを放っていた。

 そして、水晶の杭が刺さる地面には、今まで視えなかった新たな魔法陣が現れていた。



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