2‐26‐18 最後の要
一体、どれだけの“要”があるのだろうか。
最初の五芒星。あれらをすべて消し去った時、隠されていた次の魔法陣が視えるようになった。それも一つではなかった。ナギサはそのことに驚き戸惑ったのだが、リュークは想定していたのか、落ち着いた声で「次は、あの要を」と道を示し、ナギサを安心させてくれた。
それでも、あまりにも多くの要を処理した。最初こそ、その数を数えていたのだが、20を超えた辺りからナギサの意識の中では“沢山”という曖昧なものに変わっていた。
体力、魔力。これらはナギサ自身も驚くほど、意外に大丈夫な気がしている。首飾りを身の内に取り込んだことで、魔力量が増え、魔力を効率的に使えるようになっているからだろう。体力は、真面目に基礎鍛錬の講義を受けているおかげと思っておこう。
だが、気力。これがこの要の数の多さで、流石に辛かったりする。
リュークが都度都度気遣ってはくれるのだが、先が見えないというか、見えた気がしても新たに増えることが繰り返され、いつまでこれが続くのかと、気力低下が甚だしい。
《頑張ったね。最後だ》
(え?)
突然の言葉に、一瞬何を言われたのかわからなかった。
上を視上げれば数多の魔法陣が未だ輝いており、その存在を示している。最初に比べれば数は減っているものの、“最後”と言われても高く蒼穹を視れば実感が湧かないナギサである。
《......最後、ですか?》
《ああ、アダマースの足枷が繋がる杭。もう一度、ここに来て視てごらん》
リュークの言葉に地表へと、杭の横へとナギサは降り立つ。
そして、改めて視てみると、今まで視えなかったものが、その杭の僅か上に、その要はあった。
その要は他とは違った。
ナギサが纏う虹色の魔力。それと同じ虹色の魔力を強く放っていた。
(虹色に光っている......同じ......色?)
「驚くよね」
突然の声にナギサは違う意味で驚いてしまう。
ナギサに触れこそしないが、いつの間にかリュークがナギサのすぐ横に立っていた。
(えっ、いつのまに?)
リュークが傍にいる。ただそれだけで己の心が湧きたち、安心していることにナギサは戸惑いを覚える。だが、今は自身の気持ちで悩んでいる時ではない。
「リューク、あまりわたしに近づくと......」
「これくらいの距離なら平気だよ。直に触れられでもしない限り、僕には影響がないから」
あまりの近さにナギサは一歩横へとずれるのだが、リュークは合わせるように一歩横へとずれてくる。
「んと、本当ですね? 嘘だったら怒りますよ」
「僕の事、信じてくれるんだろ?」
ニコニコと嬉しそうに目を細めるリュークの笑顔が眩しくて、頬が火照るのを感じてナギサは目をそらしてしまう。
「それより、ほら。この要が最後。手順は同じだよ。そこからだとやっぱり手が届かないから、少し君が浮かないとだめかな」
「今までと雰囲気が違うけど、同じでいいの? 虹色に輝いているけど......」
「この色は......僕達、神の魔力の色だよ。ヴァルカナの魔力が色濃く出ているから、これが最後の要で間違いないと思う」
浮かぶ要を見つめるリュークの瞳は真剣なもの。つられてナギサも要を視るが、確かに今までよりその要は大きく複雑なものに視える。
そっと地面を蹴り、再び宙に浮かぶ。でもそれはほんの大人一人分ほどの高さ。
静かに最後の要を見据え、そっと白く輝く指を置いた。
白光の魔力が要に流れ込む。今までよりも遥かに激しくナギサの魔力が吸い取られる感覚を覚える。まるで乾いた土に水をやっているかのように、ナギサの魔力を根こそぎ吸い取ろうとしているかのような錯覚に陥る。
それでも、やっと満ちたのだろうか。虹色の要はその複雑な結び目を露わにし、白光がその合間に潜り込み、結び目を緩めていく。
ほぐされて、緩みきった結び目は、それでも白光に抗うように、その全体を白光に包まれまいと蠢いている。
これまではそんなことは起きなかった。
ナギサは驚きに紅い瞳を見開くが、ふと閃くものがあった。白光から逃れようとする結び目の周りを、己の虹色の魔力で覆ってみたのだ。
ナギサは何もしていない。ただ、白光と虹色の魔力を注いだだけ。虹色の魔力は逃れようとする結び目をあやすようにして、ゆっくりと包み込んでいく。それに伴って、白光が結び目をゆっくりと絡め取り、その全体を包み込んでいった。
一瞬の閃光。
これまでよりも遥かに明るく、鮮烈な光がほとばしった。一瞬目を閉じてしまったが、ナギサが再びその紅い瞳を要があった場所に向ければ、要は跡形もなく、さらさらと白銀と虹色の美しい粒子となって下へと、起点となった水晶の杭へと降り注いでいた。




