表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第二章】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

255/317

2‐26‐12 決断

 


 ファイヌムの視線の先では、リュークがナギサに何かを伝えている。


 アダマースが語り終えた後、ナギサはすべての感情が消え失せたかのように凍り付いた。

 だが、それは一瞬。

 みるみるうちに涙が溢れ、声もなく涙を流している。

 リュークが茫然自失なナギサを支え、ずっと見守っている。


 《クラウス、わたしはさぁ、アダマース様を目にしたことが、今日一番の驚きだと思っていたんだ》


 《へぇ、それで?》


 《今のアダマース様の話、それを遥かに越えているよ》


 《そうだね。僕も知らない話だったよ。何時の時代のことだったのか。ニールも知らないようだから、アダマースが言うように、騒ぎの割には知られていない話なんだろうね》


 《キツイよな......》


 自分が持つ力が、恋する相手を傷つける。言葉の綾ではなく、実際に傷つけ、殺してしまうことさえ可能な力を持っている。そんなことを突然告げられて、しかも、その力が助けたいと考えた相手のためには必要だという、この状況。


 視線を再び前へと向ければ、ナギサの涙が止まり、リュークが何か話しかけるのがわかる。




 ◇



「怖い......けど、助けたい......ドラゴンさんを」


 リュークを見つめる紅い瞳は強い光を放っていた。

 だが、不安なのだろう。その身が微かに震えているのが感じられる。

 頬に触れた両手に伝わる緊張と震え。


 リュークは、この場からナギサを連れ去りたいと、リナの言葉を聞いてから切実に願っていた。

 人界でも神界でもなく、誰の邪魔も入らない場所。数ある異層の何処か、ナギサが好む素敵な場所へ連れ去って、悩むことなく一緒に過ごしたい。

 白光のことなど考えなくてもいい。現出さえさせなければ問題ない力なのだから。


 だが、ナギサは決めたのだ——アダマースを助けると。

 この優しい人の子は自分のことだけを考えられない。

 困っている相手を見捨てる、ましてやそれを助ける力があるにもかかわらず、見過ごすことなど、そんなことは絶対出来ないだろう。


「......少しだけ、君の力を解放する」


 リュークは、この距離だから聞き取れる、囁き声よりもささやかな声でナギサに告げた。


「?」


「ほんの少しだけだ。とても苦しいと思う。時が来てもいないのに、無理矢理力を解放するのだからね。それとね。これが一番大切なこと。この場で、直ぐに、それを制御できるようにならないといけない」


(......この場で制御できるように、か。そもそも、どうなるのかすらわからないのに......)


「制御できないと、人界に帰れない」


 金の瞳はとても厳しい色をしていた。

 いつもの柔らかな暖かさではなく、まるで氷雪の中、立ち続けている時のような厳しさだった。


「違うな。僕は人界に君を戻せない。君が危険な目に遭う。白光をすべての人や神が忘れているわけではないよ」


 ——リュークがとても辛そうに見える。とても厳しい表情をしているけど、なんだか泣きそうに見える。でも、リュークが今言ったこと......白光を制御できない自分......とても危険な存在となることは、想像がつく。


「——制御......できるかな?」


 不安がそのまま言葉として出てしまった。


「できないなら、僕は君に力を貸さないよ。アダマースは友人だけど、僕は君が最優先だからね」


「でも、それだとドラゴンさんが......」


「この状態をヴァルカナに伝えるよ。時間がかかるだろうけど、この枷の鍵を探すより早いだろうからね」


 リュークの言葉は揺らぎがない。

 アダマースをこのまま放置するつもりはないが、ナギサが自分の力を制御できないなら、時間がかかっても正攻法でアダマースを解放する手立てを考えると言い切った。


 アダマースを“今”助けるためには、ナギサが自分の力を制御するしかないと。


「——小さき者よ......」アダマースがナギサに語りかけてきた。

「わしは別に気にせぬぞ。お主の力は危険なものじゃ。制御できぬでは済まぬぞ」


 その声に、ナギサがアダマースに視線を向けると、その金の瞳からは哀れみの光は消えていた。だが、気遣いの色と、半ば諦めの雰囲気をナギサは感じとることができた。


 ——白光とは、どれほど危険なものなのだろうか。神を傷つけてしまうのは、ニールを傷つけたのだから、そうなのだろう。神をも殺すというのは? あの時、あのままニールと対峙していたら、自分はニールと相打ちしていたかもしれない、ということなのだろうか。先程の話では、人にも害をなすような力でもあるようだ。


 視線を横にやれば、リナがナギサを見つめていた。翠の瞳は祈るような強い光を放っている。


 ——もし、制御できなかったら......。

 いや、それがどうしたというのだ。

 この世界に来て、すっかり自分は甘えてしまっている。

 制御できなくても、人界に戻れないだけのこと。

 少なくとも、ドラゴンさんを助けることができる。

 この春宵宮に居れるのなら、《女神》の名前探しだってできる。

 もともと、この春宵宮内を探索しようと思っていたのだ。

 それに、いつかは制御できるようになるはず......。


 いや、そもそも、門を使えば帰れるのだ。

 ただ、それを使うことはきっとリュークが許さないだろうけど。


 視線を戻せば、真っ直ぐな金の瞳が待っていた。


 ——ああ、リュークは解っている。解っていて、わたしが言うのを待っている。


「リューク、お願いできますか?」


 頬に触れるリュークの両手がピクリと震えるのをナギサは感じた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ