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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第二章】

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253/317

2‐26‐10 リナは神に乞う

 



 突然リュークが現れ、しかも何故かナギサを抱きかかえた状態で、ファイヌムは驚きに固まってしまう。

 ナギサ自身も余程驚いたのだろう、顔を真っ赤にして目を見開いている。だが、リュークに気づいた瞬間に見せた、蕾がほころび咲くような笑顔。ナギサ自身が自覚しているのかはわからないが、ナギサにとってリュークはやはり大切な想い人なのだろう。


 《やぁ、ファイヌム。ナギサにちゃんとついていてくれたようだね》


 《クラウス! よくここがわかったな!》


 驚き固まっていたファイヌムの横に、いつの間にかクラウスが立っていた。


 《流石、神、ってところかな。リュークのおかげさ》


 《あの様子を目の当たりにすると、ナギサ君に怪我一つなくて、本当によかったと心底思うよ》


 ファイヌムは、ナギサを大切そうに抱きかかえるリュークをチラリと見ると、安堵の溜息をつく。


 《ハハッ、そうだね。掠り傷の一つでもあったら、リュークの怒りが何処へ向かったことやら》


 チラリと横を見ると、クラウスの口元がニヤリと笑っている。

 先日の馬房での一件でも感じたが、リュークのナギサへの想いは、計り知れないほど深いもの。ナギサがそれを今ひとつ自覚できていないのは、不思議なくらいだ。ナギサ自身もリュークを想っているはずなのに、どうもあの一件からナギサは妙に気持ちを抑え込んでいるように見える。


 《ところで、ファイヌムは“白い光”が何か知っているかい?》


 《いや、今初めて聞いた言葉なんだが。ナギサ君がその“白い光”とやらの使い手、って話の流れなのかな》


 先程リナが口にした白い光。ナギサはその言葉に体を強張らせていた。あの一件がらみのことなのだろう。そうやって考えれば、あまり思い出したくない話だろうが、その力が何か特別なものなのだろうか。


 《実は、僕にもわからなくてね。神殿の資料にでも何か載っていたかと思ってね》


 《なんだって! クラウスが知らないっていうのかい?》


 《ああ、リュークに聞いてもはぐらかされるんだよね》


 ファイヌムは、クラウスの愚痴ともとれる言葉に驚いてしまう。リュークとクラウスの仲で、そのようなことがあることに驚かされるし、クラウスが知らないことにも驚いてしまう。


 《だけど、まぁ、さっきからの流れで、なんとなく想像はついたよ》


 そうクラウスは小さく呟くと、視線をファイヌムからナギサへと向けた。



 ◇



 リュークは、ナギサがその腕の中にある安心感に浸っていると、不意に上着の裾を引かれていることに気づいた。

 視線をナギサから下へと移すと、翠の瞳が見つめ返してきた。リナだ。


「神、ナギサを連れて行かないで! アダマースを助けて!」


 そうだった。この守り人がナギサをここへと連れてきた。ナギサを害したいわけではなく、助け手として引き込んだ。

 あの時、ナギサが“白光”でニールを焼くのをリナは目の当たりにしたのだろう。ニールを害する力、ならばこの神の枷をも焼き切ることができるのではと、リナは期待したのだろう。


 そこまで考えたところで、リュークは軽く溜息をつく。

 己の手の内の大切なものが、身じろぎをするのを感じる。きっと優しいこの少女はこう言うのだ。


「リューク、わたしで何か役に立つのなら、ドラゴンさんを助けてあげたい」


(ああ、やっぱり)


 リュークはそっとナギサを降ろすと、その前に跪く。両手でナギサの両頬を優しく包み、問いかけた。


「ナギサはアダマースを助けたいのかい?」


 コクリと頷くナギサの表情は真剣だ。先程までの恥じらいで赤らんでいた顔も真顔に戻り、紅い瞳は真っ直ぐにリュークに向けられている。


「何ができるのかわからないけど、わたしに何かできるんですよね?」




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