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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第二章】

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2‐26‐8 感じる魔力

 


 リュークとクラウスは、ウォーリと別れた後、そのまま春宵宮へとやってきた。

 周りをざっと探知したところで、ナギサやファイヌムの微かな魔力の気配すら、捉えられなかった。濃厚なこの異層独特の魔力が海のように立ち込めているだけだ。まるで、深い霧の中に紛れてしまったように、二人の気配は掻き消されていた。


 しばらく、その場で周りを観察していると、クラウスの気配を察したのだろう、クストス・サケルが幾人か顔を覗かせている。

 何かの手掛かりでもつかめればと、クラウスは「人の子を見かけなかったかい」と尋ねるが、どのクストス・サケルも首を横に振るばかりだった。


 やはりクストス・サケルに聞いても仕方がない。この濃密な魔力の中、二人がどこにいるのか、クラウスはリュークへこれからのことを確認する。


 《それで、どうするんだい、リューク?》


「ふっ、君のことだから、そう聞いてくると思ったよ」


 《さっき、ウォーリに自信たっぷりに、言い切っていたじゃないか》


 クラウスは先程のリュークの自信は、何処から来ているのか見当がつかない。

 ここは魔力が濃い。生半可な探知では、人一人の魔力を見つけ出すことは、短時間では難しい。

 ナギサもファイヌムも普段から魔力を抑えている。この濃厚な魔力の海から、それをどうやってすくい上げるのか。

 神といえども、この場所では力に限界がある。


 クラウスに答えるリュークの表情は静かなもの。


「ああ、それなんだけど。気になる場所があるんだ」


 《気になる場所?》


「前回、ナギサを連れ帰る時にね。この濃密な魔力の中、一瞬だけ、違和感のあるおかしな気配があって。まず、そこへ行こうと思うんだ」


 あの混乱した状況の中で、辺りを気に掛けていたのかと、クラウスは内心、感心してしまう。



 ◇



 リュークが気に掛ける場所へと、早速二人は転移した。


 《ここか......。なるほど......変だね。この結界。見せている景色は偽りだね》


 クラウスはこの場所の不自然さに表情を硬くする。


「ああ、先に進ませたくないだけのようだから、このまま突っ切って行こう」


 リュークはそう口にすると、立ち止まることもなく、躊躇なく結界が見せる偽りの茂みの中へと足を進める。偽りの景色は、彼らが通り抜けた後も、変わらず偽りを映し出し続けていた。




「!」


 偽りの景色の先にあったのは、小さな洞窟。唐突に現れたその入り口で、二人は足を止めた。


「この洞窟も結界めいたものがかけられているね。クラウスはこの中、っていうか、洞窟を抜けた先は視れる?」


 《いや、無理だね。洞窟の出口辺りなのか、妙にしっかりと結界がかかっている。しかも、ご丁寧に、転移阻害の術が施してあるな》


「ああ、何をそんなに隠したいのか......ここはクストス・サケルしかいないはずの場所なのに......」


 好ましい状況ではないはずだが、リュークの口元には何故か笑みが浮かんでいる。


 《リューク、何が可笑しいんだい?》


「いや、誰だかしらないが、何重にも結界を張って、いったい何を隠したいんだろうと思ってね」


 リュークの言葉にクラウスは呆れてしまった。ナギサのことが心配で、先程はウォーリを傷つけてしまうほど取り乱していたはずなのに、今はこの状況を楽しんでいるような口ぶりだ。


 《ナギサが心配ではないのかい?》


「心配だよ。それに僕は今、とても怒っているんだ。きっとあのクストス・サケルはこの奥にナギサを連れて行った。その辺りにいるなら、さっきのクストス・サケル達が何か知っているはずだからね。こんな訳の分からない場所に、大切なナギサを連れて行ったクストス・サケルはまだしも、幾重にも結界を張り、こんな場所を作ったやからには、もっと腹が立っている」


 リュークの口元は、相変わらず笑みを浮かべたまま。だが、その瞳は燃えるような怒りの炎を宿していた。

 ——そう、きっとナギサをここに連れてきた理由は迷惑なものだろう。この幾重にもかけられた結界の中にある何かを、あのクストス・サケルはどうにかしたいのだ。それが何かわからないし、その為にナギサがどう役に立つのかすら想像できない。

 今はただ、その無茶な行動の先にあるものを早く確認して、ナギサをこの手に取り戻すことしか考えられない。


 《クストス・サケルをあまり責めないでくれよ。あれは純粋すぎるのだから》


 クラウスは心の中でそっと溜息をついた。なんとかクストス・サケルが神の怒りに触れないようにしなければと。だが、リュークの見立てが正しいのだろう。その辺りにナギサがいるのなら、先程のクストス・サケル達がなんらかの情報をくれるはず。それが一切ないのだから。




 洞窟の中は暗い。といってもシンバと神にとっては、それは然したる問題ではない。二人は気にもかけず、道を下へ下へと進んで行く。たとえ道が分岐したところで、この出口へと続く道への迷いは二人にはない。洞窟を出た先が視通せないだけで、この中の迷路のような道は、すべて把握できていたのだから。


 一刻も早くとリュークは足早に進む。転移さえできればともどかしさを覚えるが、足を進めればやっと出口が見えてくる。強く差し込む光の中へ、クラウスとともに足を踏み出した。


 常春の景色の中、黄金の輝きを纏った美青年と美しい黒馬が並び立つ。

 険しい表情で辺りを見回す二人から、やがて安堵の吐息が漏れた。


「——二人とも無事なようだね」

 慣れ親しんだナギサの魔力。柔らかく美しく、リュークにとっては愛おしい魔力が、この地下空間に漂っていることに安堵する。気持ちが落ち着けば、横にはファイヌムの魔力も感じられる。そして、もう一つ、この場所では感じられるはずがない魔力も感じ取っていた。



 《ああ、特に魔力の乱れは感じないね》

 クラウスも微かに感じる二人の魔力に安堵していた。ニールと対峙していた時のような魔力暴走の気配はない。だが、同時に何か別の力の塊を感じ取る。それは遥か昔の記憶にあるもの。

 威圧的だがどこか懐かしい、非常に古い知人の気配がする。リュークと共に過ごすようになる前、人界を気儘に旅していた時に何度も会った、あの竜のもの......。


 《リューク、二人の傍に......僕の記憶違いでなければ......》


「ああ、僕も気づいた。まさかこんなところで出会うなんて......」




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