2‐26‐3 目指すのは
常春の景色の中を、リナが先頭に立ち、その後にナギサとファイヌムが続く。
言葉を交わすこともなく連れ立って歩く三人だが、それぞれの胸には異なる思いが去来していた。
リナは嬉しくて仕方がない。無理をして人界へ赴き、直ぐにナギサと再会することができた。しかも、こうやって一緒に“彼”に会いに行けるなんて。彼女の胸は期待で膨らんでいた。
弾む心は足取りにも表れていた。リナは軽やかにステップを踏み、そのままふわりと宙に浮かんでは、驚く二人の周りを回って見せる。時々ナギサの手を引いて走り出すかと思えば、急にナギサに抱き着いたりもして。
早く“彼”の元までナギサを連れていきたいが、こうやって一緒に歩くことも楽しくて、ついついふざけてしまう。
ファイヌムは、ナギサと手を繋いでいて本当によかったと、改めて思う。
リナの挙動はあまりにも見えなくて。転移こそないのだが、突然走り出したり、踊り出したり。おまけに宙に浮いているといえばいいのか、宙を飛んでいるといえばいいのか、自分とナギサの周りを軽やかに飛んで廻ったりもして。
ナギサも驚いているようで、表情こそあまり変わらないが、繋ぐ手が驚きにピクリとすることも度々だ。
ナギサは安堵していた。ファイヌムと離れ離れになることなく、春宵宮へ転移してきたことにホッとした。
安心すれば、周りの美しい景色は見応えがある。この常春の景色はあまりにも美しくて、ゆっくりと腰を落ち着けて眺めていたいほど。
——リュークと一緒に見られるといいなぁ......。
って、どうして自分はそんなことを考えている! リュークは神だ。一緒にいたい、いてくれるといっても、それは時の流れが違いすぎて無理なこと。そうやって、自分に何度も言い聞かせたはずなのに......。
頭に浮かんだ思いを振り払い、改めて今の状況を考える。
期せずして春宵宮へとやって来れた。《女神》の名前の手掛かりを探すため、再訪したいと考えていたナギサにとって、リナの行動はありがたくもあった。リナがいれば、ニールが拘っていた場所か何かを、知ることが出来るかもしれない。
だが、困惑しているのも事実。リナがナギサを“誰か”に会わせたがっている、というのは大きな懸念事項だ。だけど、リナの様子から、この人物がニールではないと察せられた。初めてリナに会った時、彼女の視線はもっと昏いものだった。クラウスが現れるまでそれは変わらなかった。あれはニールの影響下にあったせいだろうと考えれば、今のリナの瞳の輝きも表情も、あまりにも自然で輝いているのだから。
そして、懸念と同時に、微かな期待もある。この“誰か”が、《女神》の名前の手掛かりを持っているかもしれないと。
「......本当だ......。クストス・サケルがあそこにも......」
ファイヌムが小川で寛ぐクストス・サケル達を見つけて、驚きの声をあげた。
ナギサの話に半信半疑だったのだろう。リナと川辺にいるクストス・サケル達を、ファイヌムはしきりに交互に見比べている。
「ん、本当にいっぱいいるんです。前来た時は、もっとあちらこちらにいて。今日はあまり見かけないから、不思議なぐらいです」
そう、あの時は視線を向けた先には、必ずといっていいほどクストス・サケルがいた。だが、今日はそんなことはまったくなくて、見回しても今初めて小川の縁にいる彼女達に気づいたぐらいだ。
「ニヒルム、いない。クラウスもいない。皆、好きなところにいる」
ナギサとファイヌムの疑問を察したのか、リナが答えてくれた。
よくわからないが、あの時はニールとクラウスがいたせいで、クストス・サケルが集まっていた、ということのようだ。
そして、今はその両者ともいない。だから、各々好きなところで、好きに過ごしている、と。
そうやって考えれば、リナが会わせたがっている“誰か”は、やはりニールではないのだろう。だが、その誰かはどこにいるのだろう。リナはナギサ達を転移して連れてこれるのだから、直接その場まで転移してもよかったはずなのに。
三者三様に考え事をしながら歩くうち、リナがピタリとその歩みを止めた。
そこは、小さな洞窟の入り口だった。
周囲の花々が咲き乱れる中、そこだけが別の世界であるかのように、静けさに包まれていた。洞窟の奥から流れ出す、ひんやりとした空気。それはまるで、これから対面する未知の存在が、息をひそめて二人を待っているかのような、奇妙な静寂だった。




