2‐26‐2 春宵宮、再び
ファイヌムは、ただただ驚いていた。
視界を埋め尽くす美しい花々に青々とした草や木、そして陽光をきらめかせながら流れる小川に、ファイヌムは目を見張った。
軽く上を見上げれば、どこまでも蒼く済んだ空と、緩やかな風に舞う色とりどりの花びらに驚きを深くする。
柔らかな日差しが温かく降り注ぎ、風に運ばれる花々の香りが心地よく鼻腔をくすぐる。
——ここは......
確かあの時、ナギサの肩に手を置いた時だった。
突然視界がぐにゃりと歪み、一瞬何も見えなくなった。
そして、今薄っすらと視界が戻ってきたのだが......。
今、自分はナギサの肩に手を置いたまま、見慣れない美しい土地に立っている。
そのナギサは驚きよりも困惑といった表情を浮かべ、横でナギサの手を握るクストス・サケルを見つめている。
先程の会話から考えれば、ここは異層——春宵宮なのだろう。そして、この見知らぬ少女——クストス・サケルがわたし達二人を連れてきた。
何をどう尋ねればいいのか。そもそも、ナギサに尋ねればよいのか、それともこの少女になのか、それすらもわからない。
ファイヌムが混乱した頭の中で考え込んでいると、困惑顔のナギサが、横に立つ少女に尋ねかけていた。
「リナ、ここって......」
「わたし達のところ、だよ」
「ん、春宵宮だよね。でも、どうして......」
「あなたに見て欲しい。会って欲しい」
リナの言葉に、目を見開き驚く様子をみせるナギサ。だが、この二人のやり取りは、ファイヌムをも驚かせていた。
——誰かにナギサを会わせる、だと。まさか、例の神では......?
「んと、リナ。会うって誰に?」
不安気な声でナギサがリナに問い返す。恐らく、ナギサも自分と同じ不安を感じているのだろう。
「会えばわかるよ。行こう!」
なんだろう、リナとナギサの会話は、かみ合っているようで、まったくかみ合っていない。
横で聞いていると、非常にもどかしくて口を出したくなる。
だが、自分が口を挟んでも、リナはきっとまともに取り合わないだろう。彼女の眼差しは、ひたすらナギサだけを見つめ続けているのだから。
ファイヌムとナギサの困惑を他所に、リナはナギサの手を取ると、軽やかな足取りで歩き始めた。
慌ててファイヌムはその後を追うのだが、ちらりとも気にされず、やはりリナにはファイヌムは目に入っていないようだ。
「ファイヌム様、手を繋ぎませんか?」
ナギサの横に並んで歩きだして、直ぐ。ナギサが意外な言葉を口にした。
ファイヌムが見る限り、ナギサは不安そうな様子は見せていない。先程、リナの『会わせたい』の一言には、不安気な様子をみせたが、今はまったく普通に景色を楽しみながら歩いているように見える。
「どうしたんだい? 何か不安なことでも?」
「んと、リナの動きがみえなくて......。また、急に転移でもされたら、ファイヌム様とはぐれてしまいそうで」
——それは考えていなかった。確かに、ここでまた転移されたら置いてきぼりだ。
「じゃぁ、お願いしようかな。リュークさんに後で怒られそうだけど」
「? どうしてリュークがここに出てくるんですか? それに、怒らないと思いますよ」
首を傾げるナギサの表情は、心底不思議そうだ。これはリュークが可哀想かもしれないと思うのだが、ここでその話をしても意味がない。
「ハハッ。じゃぁ、お言葉に甘えて、手を繋がせてもらおうかな?」
——素直に後でリュークさんには怒られておこう......。




