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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第二章】

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244/317

2‐26‐1 ニール

 


 聖都イスの花街。厳格な管理のもとで認められたこの街は、夜になると、絢爛な光と甘美な香りに満たされる。

 その一角にある高級娼館。そこで最も格式高い一室に、今、夜が深まろうとしていた。


 大きな寝台から身を起こし、シャツを羽織り始める男の背中に、甘く蕩けるような女性の声が掛けられる。


「......今日は泊まっていくのでは?」


 ベッド脇のテーブルにある小さな魔灯。その灯りが男の後ろ姿を妖しくも美しく照らし出す。

 雪のように白く滑らかな肌。燃えるように赤く美しい髪。引き締まって均整の取れたその姿を眺め、女は「ほぅ」と溜息をつく。


 だが、女の問いかけに、その男——ニールは応えなかった。シャツを羽織るその手は止まり、彼はただ静かに、遠い記憶をたどるかのように目を閉じた。

 つい先ほど交わされた、旧友との会話が脳裏をよぎる。


 ——僕を殺すなんて言いきっちゃうなんて。

 久しぶりに会えた旧友リューク。だけど、やっぱりまだ許してくれていないんだよな。

 一緒に遊びたいのは本当なんだけどなぁ。

 今回はあの人の子のことで、輪をかけて怒らせてしまったみたいだから、また当分許してくれないかもしれないな。

 だけど、あのセリフはきつかったな......。

 何だか腹が立って、ついここへ来てしまったけど、今日はダメだ。やっぱり、ただの人肌では、僕の乾きは癒せない。


 何故、彼女は僕を頼ってくれないのだろう。

 あの時僕は手を貸すと、頼ってほしいと伝えたのに。

 僕はそんなに頼りがいがないのだろうか。

 彼女の瞳には僕はどう映っているのだろう? 恋人、友人、知人、それとも、それ以下......。


 それにしても、彼女が頼る周りのやつら。

 誰一人として答えに辿り着けないでいる。

 まぁ、仮に答えに辿り着いたとしても、僕がいなければ絶対にそれが正解なのかわからないだろうけど。


 それよりも。何かがひっかかる。


 あの時、急に二人の態度が変わった。二人の意識は僕に向いていなかった。リュークの焦り方は普通ではなかった。

 何かが起きている。

 あの人の子の身に、何かが起きたのだろうが、それはそれで僕には好都合なはず。

 だけど、何かが、何か僕にとって好ましくない事態が起きている。そんな予感がしてしまう。



「すまないね。今日は帰るよ」


「えっ、わたし、何か......」


「君は何も悪くないよ。大切な要件があったことを忘れていたんだ。だから、ね」


 ニールは女を抱き寄せ、その額に軽く唇を落とす。


「次は......」


「ごめんね。いつも突然来て、我儘を言って」


 遮るようにニールは女の耳元で囁くと、部屋を後にした。




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