2‐16‐1 1の節 冬休暇も終わり 1
冬休暇明け早々、ナギサを含む寮組4人は神官長に呼び出された。
何事かと緊張したが、そこで言われた内容は、カエルの家で浄化した石のこと。この件についての緘口令と、もし同じ石を見かけても、何もせずに報告をすぐにあげるようにという命令だった。
昼食時、カエルとヴルペに確認すれば、二人も自宅で神官長からの書簡という形で同じことを伝えられていた。
石のことは緘口令が敷かれてしまい、盗聴防止でも行わないと話しづらいことになってしまった。そうなると自然と話題にすることも減り、日々のあれこれに忙殺され、話題にすることもなく時が過ぎていくことになる。
平日は講義、週末——聖の曜日は洗濯場の手伝い。この日常を繰り返す日々。
変わらない日々と言いたいところだが、学舎での学びは少しずつ変化していた。
既に今節——1の節も終盤である。
魔法学は実習時間が増え、魔法を編み出すことをより推奨されるようになった。
ナギサは先日目印の魔法を作製したが、他にもいろいろと考えてみろと無茶振りされている。
これはナギサだけのことではなく、魔法学を履修している生徒すべてがマグナルバから言われている。考えること、創ることでいろいろ見えてくるものがあるから、やってみろと。
そうは言っても講義中は相変わらず文法解説と実習である。魔法の作製に当てられる時間は自由時間中となる。そうなるとやはり誰もがそこまで簡単にはできることではない。やりたいことがはっきりしないと難しい。今のナギサ達の文法理解能力では、呪文を構築して編み上げるのはまだ無理。やりたいことをきっちりイメージして魔法を発現させる方法が主となる。何がしたいかあれだけはっきりしていた目印の魔法でさえ苦労したのだ。何か創れと言われて、すぐにはイメージできないのだ。
そういえば、今節最初の講義で、聖属性魔法で攻撃を行う方法を教えられた。
同じ部屋で自習している先輩達が後で教えてくれたのだが、魔法での攻撃は一期目——最初の半年——では通常習わないそうだ。なので、横で見ていて非常に驚いたと口々に言われた。思い返してみれば、魔法学を履修する前、履修説明時ではそういう魔法は後回し的な説明を受けた。その説明を聞いて履修を止めた学生もいたはずだ。何か方針を変えたのだろうか?
実習時間が増えたのは、この攻撃魔法を覚えたことも大きい。
今まで攻撃側は二人、剣やメイス等の物理攻撃だけだったのだが、うち一人が魔法攻撃に変わったのだ。
防御側が展開する防壁の要素に魔法防御も必要になるのは当然なのだが、攻撃側もしっかり連携する必要が出てくる。剣で斬りつけている時に、後衛から魔法攻撃を当てられてしまうという残念なことが起きたりするからだ。
実際その残念なことの連発で、攻撃側が一人になってしまうということもしばしばだった。
錬金学は変化というより、治療系ポーションのレシピを複数覚えた。だが、レシピを知ったところで技量が伴わなければ失敗作となるわけで、皆がひたすら練習している状態だ。
レシピの独自開発など、とてもではないが手が回らない。ローズマリーの化粧水は、ナギサにとっては元世界の知識のおかげで、運がよかっただけだと改めて思うわけで。
講義中、老神官にスクロール作製とその販売について尋ねてみた。
マグナルバから何か言われていたようで『ああ、ナギサさんですね。マグナルバ様から聞いていますよ。大変でしたねぇ』と柔らかい笑顔なのだが、何故だか少々哀れみがこもった労いの言葉も追加された。
老神官曰く、スクロール・魔道具や販売については、この講義中では一期目の講義終盤——3の節の半ば——に説明する予定だという。以前フィデューシから聞いた通りである。
しかも、スクロール作製と魔道具作製については、希望しかつ魔力量が十分足りている者にだけ講義を行うとも言われた。『特にスクロールは魔法学をこなしていないと、まず魔力量がもたないですからねぇ』ということらしい。
この言葉にマグナルバとの先日の時間を思い出す。
確かにあれは魔力を使う。魔法をスクロール化するとき、当然のように魔法を発現させる為に必要な魔力がスクロールに封じられるのだ。
誰でも使えるスクロール。自身の魔力を少し流せば起動・発現する。分不相応の魔法ですら使えてしまう。その時に必要な魔力はどこから供給されるのかといえば、スクロールから。故にスクロールには魔力を封じておかなければならないし、それ故に強力な魔法ほどお値段が目を見張るものとなる。
その点、ナギサが作製したスクロールはとても単純なもの。
目印と足跡がわかるだけの魔法である。術を発動させ、スクロールをそのまま保持している間は目印や足跡が残る。スクロールを破棄することで、目印・足跡ともに消え去る仕様だ。
属性も無属性にしたので魔力量も少ない。だが、販売する為に量を作るとなると、この少ない量も大量になる。あの日は教えを受けながらの初めての作製。失敗もあり、10本ほど完成させたのだが魔力をかなり消費したことを覚えている。
ちなみにこの作製した10本のスクロール。
魔導工房で確認してもらうと、すぐに販売所に並べてくれるという話になった。
しかも何故か需要があった。今節初めに販売所に置いてもらい、今節最終週の今、すでに半数は売れてしまったと工房の神官から教えられたのだ。
工房の神官も需要が予測されたからナギサに声をかけたのであろうが、こんな季節に街の外へ出るのかと訝しく思って聞いてみた。
ナギサ達が林と言っている大神殿奥の場所。この季節、あそこで採集を行う錬金術士に需要があるという。採集に夢中になって帰り道に困ることがあるらしく、保険的な需要があるらしい。つまり、魔導工房の術士達(身内)が欲しがっていたのだった。




