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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第二章】

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2‐15‐5 やっぱりクラウスは知っている

 


 年明け5日目。昨日は結局マグナルバに振り回されて終わった。

 マグナルバもその自覚があったのか、魔法学講義室を今日も自由に使ってよいと許可をくれた。


 それならば今日は読書に励むことにしようと、魔法学講義室に一日籠ることにした。

 今までも時間を見つけて書棚を確認していたが、やはりまとまった時間が取れないと深く読み込むことができない。

 自身の魔法属性を知るために一時集中して読み耽っていたが、精々その程度だ。


 《女神》の名前探し。この目的に役立ちそうな知識が欲しい。名を封じる魔法について、そもそも名を封じるとは。魔石や魔道具といったものも、上っ面の知識はこの一年近くの間に身には付いたが、もっと根本的なことが知りたい。

 どれを読めばいいのか、読む順序は、そういうことも気にしたいのだが今は片っ端から手に取ってみる。手に取っても資格がないと読めないからだ。この“資格”を判断しているのも誰(何?)なのか知りたいのだが......


 ざっと読めそうな本を何冊か見繕う。属性魔法のこと、特殊能力アビリティについて、魔石と魔物について。名前探しに関係しないような気もするが、興味と読める本で絞っていったらこうなった。

 名前探しが最重要なのは変わりないが、とりあえずは知識を増やそう。そう割り切ってこの日は読書に専念するナギサであった。




 △▼


 夕刻になり、許可があっても学生単独ではこれ以上学舎内には滞在できない。

 ナギサは渋々学舎を出るとそのまま厩舎へと足を向ける。

 厩舎といってもクラウスがいるほうの客用厩舎である。来週からは通常の講義が始まるので、乗馬の講義後に会う機会が増えるのだが、クラウスといると不思議と落ち着くので時間があると足が向いてしまう。


「ファイヌム様!」


 今日もファイヌムがクラウスの世話をしていた。余程クラウスは気難しいのか、ファイヌム以外の世話を受けたがらないと聞く。最近はリュークが頻繁に顔を出している為、ファイヌムが世話をすることは少なくなったらしいが、それでもナギサが顔を出すと、こうして世話をしている光景をよく見かける。


「やぁ。ナギサ君が来てくれたなら、この後の世話はお願いしてもいいかな? 多分僕がいるとクラウスが拗ねそうだからね」


「そんなことはないと思いますよ。やはりお世話というか、お手入れに関してはわたしはまだまだ下手ですから」


 《僕はナギサがいいなぁ~》


 クラウスが念話で話ながら、ナギサにすり寄ってくる。


「もう、クラウスったら。あ、そうだ! ファイヌム様、出来ました!」


「?」


 ナギサの出来ました発言にファイヌムが首をかしげる。


「目印の魔法です。昨日なんとか完成させることができて。しかもですよ、新魔法って言えばいいのですか? 魔導工房で登録を行ったら、そうやって教えられて。もう、ファイヌム様には感謝しかありません!」


 ナギサの報告にファイヌムの目が一際大きく見開かれる。


「それは凄い。新しい魔法なんて、なかなかないことだよ。皆、魔法でやりたいことは大体似たようなことばかりだから、登録に行っても大抵は既存魔法だって判定だからね」


「工房でも同じようなことを言われました。意外すぎて驚いています。ああ、そんなことより、ほんとに感謝しています」


 ナギサは深々と頭を下げた。





 《ナギサ、すごいね。新魔法なんて》


 《ありがとう、クラウス。自分でも驚いているけど、さっき見せた感じですっごく単純な魔法だよ》




 先ほどファイヌムに感謝を伝えた後、ナギサはお披露目とばかりに目印の魔法を使って見せた。

 ファイヌムからの質問に答えたり、属性を変えて披露したりしてみた。最後にナギサがお礼に呪文を伝えようかと言ったのだが「それは必要になった時にお願いするよ」とやんわり断られた。

 そんなやり取りの後、ファイヌムは「クラウスをお願いするよ」といつものように言い置いて、自身の執務室へと戻っていった。




 《誰も考えたことがなかったのだから、大したものだよ》


 《あまり褒めると天狗になっちゃうよ》


 《てんぐ? 何それ?》


(あっ、しまった。ここは元世界とは違うんだ。天狗なんていないだろう。こういう言い回し、気を付けないといけないな)


 《ああ、ナギサの故郷の言い方なんだね。うん、気を付けたほうがいいかも。で、それはどんなもの?》


 クラウスから軽く注意を受けたが(心読まれているし、やっぱりクラウスは知っているんだよね)、クラウスとしては“てんぐ”というものが気になるらしい。あまりにも説明しろと繰り返すので、その容姿と伝説、言い回しの意味などを説明してみる。

 想像上の種族というか、神とも魔物とも言われている存在で、日常的な言い回しや昔語りによく登場することなども話してみる。クラウスにとっては興味深い話のようで、他にもそういうものはないのかといろいろ聞いてくる。


 だが、いきなり言われると意外に出てこない。かわりにこちらの世界の魔物についていろいろ聞いてみた。ちょうどというか、たまたま先ほどまでそういう類の本を読んでいたので、文章だけではよくわからないこともある。

 するとクラウスは先生気質なのか、嫌がることなくナギサの質問にいろいろ答えてくれる。手元に先ほどの本があれば、見ながら質問できるのにと非常に残念だった。




 《話は変わるけど、クラウスはわたしのこと、どこまで知っているの?》


 今の天狗の件でも感じたが、クラウスはナギサのことをある程度知っているようだ。ナギサの故郷がここでないことを知っているのは確実である。では、どこまで知っているのか。聞いてもこれも答えてもらえないことなのか、そこも知りたかったりする。


 《どこまでかぁ、難しいなぁ。ナギサの故郷がここでないこと、記憶がないわけではないこと、ってことは知っていると言えばいいかな?》


 《ん、そっか。じゃぁ、わたしの無知が記憶喪失のせいではなくて、ほんとに知らないからだ、っていうのは解ってもらえているんだよね》


 《そんなこと気にしていたの?》


「ん、まぁ、へへっ」


 呆れ口調のクラウスに、何故か乾いた笑いをこぼしてしまうナギサである。

 元世界で隠れるように生きていたわけだが、学校へは行っていた。祖母が悲しむ、ただそれだけの理由で。行く理由がそれなので、祖母が悲しまないように成績もそれなりのものをとるようにしていた。これがまたかえって虐められる原因にもなったのだが。まぁ、それは今はいい。

 なのでこちらで子供の姿になったとはいえ、元世界の知識が消えたわけではない。《女神》のおかげもあって言葉には困っていないが、常識というか知識という面では非常に無知をさらしている。ナギサとしては内心ショックだったのだ。


 《ナギサはなんでそんなに自信がないの? 十分優秀だから安心していいと思うよ》


 クラウスがナギサの心の内をどこまで読み取ったのかはわからないが、言葉とともに体を摺り寄せてくる。仄かな暖かさが嬉しくて、その安心感につい甘えてしまうのだった。




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