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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第二章】

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2‐15‐3 目印の魔法3

 



 明確に断る理由もないわけで、マグナルバに連れられ魔導工房へとナギサはやってきた。


「あれ? 今日はマグナルバ様と一緒かい?」


 受付では、ここ最近対応してくれた神官が目を見開き気味に話しかけてくる。いつもモリスとナギサの二人でやってくるのに、今日は打って変わってマグナルバと二人。それこそ先日化粧水のことで手続きに来たばかりである。


「こんにちは。今日は錬金ではなくて、魔法のことです」


「ああ、横からですまないな。ナギサが魔法を開発したのだが、一度登録をさせてみようと思って連れてきたのだ」


 マグナルバが途中から説明を変わってくれる。マグナルバの説明に受付神官は何度か頷くと、呪文登録時の手続きを行う部屋へと案内してくれた。


 化粧水のレシピ登録もそうだったが、魔法の呪文登録も非常に簡潔であっさりとした手続きだった。

 しかも驚くことにナギサが登録した魔法は新しい魔法として認められたのだ。

 手続きには魔導書を使うのだが、登録完了後に頁を見ると開発者名がナギサとなっていたのだ。

 このことにナギサが驚いて魔導書を凝視していると、

「登録してよかっただろう?」とマグナルバがしてやったりといった表情で話しかけてくる。


「先生は目印の魔法は既にあるとおっしゃっていましたよね?」


「ああ。だが、わたしの知っているいくつかの魔法とおまえの魔法ではまったく内容が違うからな。多分いけると思ったんだ。こんな凝った魔法は普通考えないぞ」


「えっ、でも新しい場所で道に迷ったりしませんか?」


「そういう時は、簡単な魔法をいくつか組み合わせて使う。まぁ、手間ではあるがな。迷宮探索や荒野を行くのならば、このレベルのものがあってもいいかもしれないが」


 ナギサは元世界ではまり込んでいたゲームの数々を思い出す。

 広大すぎるフィールドで東西南北すらわからなくなり、何故か深みにはまって奥へ奥へと突き進んでしまったこと。

 見えている場所、そこからやって来たはずなのだが、行き方がわからなくて延々と放浪。

 迷宮内で上層階に戻れなくて結局死に戻りしたり......


 だが言われてみれば当然だ。この世界がいかにファンタジーぽくとも、普通に生活する上ではここまで凝った魔法の需要は低いであろう。


「他には何か開発していないのか?」


「そこまで習熟しておりません。ファイヌム様に教えてもらった掌の魔法を自力でなんとかしたぐらいで。あとは講義や先生から教えてもらった範囲内のものだけですよ」


 期待を込めてナギサを見つめていたマグナルバだが、ナギサの言葉に疑わし気な表情へと切り替わる。


「そんな表情をされても、出来ていないものは出来ていませんから」


 いったいマグナルバはナギサに何を期待しているのかと困惑してしまう。


「そんなことより、先生。この目印の魔法、先生にもお伝えします」


「ほう、いいのか? 対価は何がいい?」


「んっと、対価なんていらないです。今日も魔法学講義室を一人で利用させていただきました。他にもいろいろ便宜を図っていただいているので」


「いや。真面目な話、今後こういう時は必ず対価を求めるべきだ。何の対価もなく魔法を手に入れたり、与えたりすることは慎むべきだ」


「——わかりました。でも、今は対価が思いつかないので貸しでお願いします」


 マグナルバの言葉に今一つ納得はいかないのだが、反論する言葉も思いつかない。だが、この魔法をせっかくなのでマグナルバには知ってもらいたいという思いは強くある。

 故に妥協の「貸し」で切り返してみた。


「頑固だな、お前。借りを作るのは本意ではないが、今回はそうしておこう。なかなか面白い呪文だからな」


 渋々といった雰囲気を出しているが、やはりマグナルバは魔導士だけあって魔法が好きなのだろう。ナギサから呪文を聞き取ると自身の魔導書へと嬉しそうに書き込んでいた。




 登録を終え、マグナルバとの雑談に花を咲かしていると「この魔法、スクロール化して販売しないか?」と、魔法登録の手続きをしてくれた神官が声をかけてきた。


「?」


「ああ、それはいいな」


 ナギサは意味が取れず目をしばたたかせ、マグナルバはそれは良い案だとばかりに目を細めている。

 そんなナギサに神官が説明を続ける。

 スクロールは魔力を少量流すことで、そこに封じられた魔法が発動する。自身が持たない属性魔法も使えるし、技量以上の魔法も使うことが可能だ。強力な攻撃魔法のスクロールがあれば、旅の途中に襲われた時にも安心材料の一つにはなる。

 だが、そういう魔法は高価である。呪文開発者への特許料、管理費、材料費、他にもいろいろな費用が当然のごとく原価としてかかってくる。加えて呪文開発者がそのままスクロール作製者であることは稀。そうなると作業者の費用も発生する。

 あれやこれやと、強力な魔法であればあるほど、作業にかかる魔力量や技量もそれなりに必要になり、スクロールの値段も簡単に使い捨てするには躊躇われるものになる。

 結果として、よく使われる、いや必要とされるスクロールは結界系と治療系という現実的なものとなる。どちらも神官が得意とする魔法である。これらのスクロールは作製することができる者が多いので、供給も多くて安価になる。旅の道中や狩りや採集、緊急時にと需要が高い。


 ナギサが今回編み出した魔法。これも狩りや採集などで道に迷いがちな人向けに、スクロール化してあると一定の需要があると神官は言うのだ。既存の似た魔法では、目印のスクロールと足跡のスクロールが必要。費用も持ち物も増えるので、需要が今一つだという。


 だがナギサのものであれば、一つのスクロールで事足りる。

 複雑な設定は不要。発動時にマーカー設置、一定時間自身の足跡が記録される、その程度のもので十分だという。


 確かにシンプルでちょっとした迷子防止にはよいと思われる。だが、その内容に魔法を落とし込んだり、魔法をスクロール化する技術をナギサは持っていない。

 錬金の講義はとっているが、まだ魔法をスクロール化する内容は習っていないのだ。

 そのことを神官に伝えると「そこは教えよう」とマグナルバが横から口をはさんできた。

 驚くナギサを無視して、マグナルバと神官は二人で何やら相談を始めてしまう。そして気づけばマグナルバの指導の下、この後魔法学講義室にてスクロール作製を行うことになっていた。







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