2‐15‐1 目印の魔法1
年が変わってから既に4日。
ナギサは冬休暇を利用して目印の魔法を完成させたいと考えていた。
そのためには魔法を安全に試せる場所が必要なのだが、休暇中の学舎内には基本入れない。このため、昨日のマグナルバの呼び出し時に魔法学講義室を使わせて欲しいと頼み込んでみた。『学院のものを使えばよいだろう?』と当然のごとく言われたのだが、慣れた場所で目印の魔法を作り上げたいからと無理を承知で粘ってみた。最後には『仕方がないな』と苦笑とともに許可をもらえた。
というわけで、今ナギサは魔法学講義室にいる。一人でここを利用できる贅沢さに少し気分も高揚している。
だが作りたいのは、ただの目印の魔法だ。
なんのひねりもないけれど、指定した箇所にマーカーを設置。そこから自分が移動した経路(足跡)もマーキングする。マーカーは指定した属性で設定可能で、常に表示しておくこともできるし、隠しておくこともできる。経路(足跡)のマーキングは無属性で基本は表示せず、指定された時のみその経路(足跡)を示すイメージだ。先日カエル達と林の中で帰り道に困ってしまったので、そのようなことがまた起きないように使うつもりでいる。
ファイヌムの助言で属性についても少し理解できた。聖属性以外にも火・水・風は属性があることがわかった。だが、この目印魔法では基本は無属性で考えている。場所や目的で他の属性に変えることができればそれでよい。
(何故ここまでこの魔法に自分は拘っているのだろう?)
ふとそんな疑問が湧く。
林での件がきっかけではあるが、何故かこの魔法が必要になるような、そんな妙な予感がナギサの中にある。必要に駆られて必死に開発している、そういう感覚に近い。
そもそも今ナギサが優先すべきは《女神》の名前探しのはず。それを差し置いてまでこの魔法に拘る自身に若干呆れもする。だが、何故だかこの名前探しにこの魔法が役に立つような気がしている。
名前探し。実際こちらもどうしたものか。街の外へは今は出られない。そうなると街中か大神殿の中が探索の対象となる。無暗に動き回っても意味がない。そもそもマグナルバ達が既に国も街中も一通り探しているのだ。探すもの、目当て? がはっきりしないこともあってお手上げである。
加えて、クラーヴィア達からなんの催促もない。何をしている、どこまで進んだ、といったやつだ。考えてみればクラーヴィアはそもそも《女神》がナギサに手伝わせると言った時、猛反対していた。《女神》に根負けした感じであのときは承諾していた気がする。そうやって考えれば、あまり期待されていないのかなとも思う。
神官長も療養棟にいた時に比べれば、まったくのノータッチ。こちらも期待されていないということか。
唯一マグナルバは講義のおかげでもあるのだろう。何かと気を使ってくれている。アドバイスもくれるし、こうやって便宜もはかってくれている。
とりとめもなく考えているうちに呪文が出来上がった。すんなりと。これまでの苦労は? やはり属性が不明瞭だったのが問題だったのか? それとも技量?
出来上がって嬉しいのだが、すんなり行き過ぎてわけのわからないことを考えてしまう。
(いやいや、まずは魔導書の確認)
本当に成功していれば、魔導書に何らかの記載があるはず。掌の魔法ですら記載されたのだから。それに、この目印の魔法については、口唇阻害などを追加してマグナルバが言うところの“ちゃんとした呪文”を完成させるつもりでいる。ナギサは魔導書を取り出すために呪文を唱えた。
(ん? 何、今の。本棚が視えたけど)
呪文を唱え魔導書を取り出す時、いつもはただポンと魔導書が出てくるだけだ。だが、今ナギサは本棚に平置きされたこの魔導書が、こちらへと移転してくる様が視えていた。
確か魔導書の格納先は異層と教わった。では、あの本棚は異層にあるものなのか。これが以前マグナルバが言っていたことなのか。だが、唐突に視えるようになったのは何故? これも魔力探知のせいなのか? 考えてもわからない。
試しにと何度か魔導書を出し入れしてみる。すると取り出す時も、戻す時もあの本棚がしっかりと視えている。
(──これはやってみるしかない)
先の本棚が実際にそこにあるかのように思い描く。本棚に置かれている自身の魔導書。紅と金の魔導書が手元に現れることをイメージする。
驚くほどすんなりと手元に魔導書が現れた。では、格納はと続けて行えばこちらも問題なし。
どうやら魔導書は無詠唱で出し入れ可能になったようである。
ナギサの物語にお付き合いいただいてありがとうございます。
ブクマや評価、とてもありがたく、ものすごく励みになっております。
無詠唱で魔導書の出し入れができる。これ、この世界でもとっても凄いことなのです。
異層を視れるって人の身では超レアなのです。ナギサの周囲にいる人々が凄い人が多い、ナギサ自身がこの世界に疎い、ということが合わさって、無詠唱に平たんな反応になっているのでした。




