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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第二章】

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2‐14‐6 モリスが懇意にする小物屋で

 



 マグナルバの部屋で思ったより時間を取られてしまった。

 慌てて食堂に行けば、モリスは既に昼食を済ませている様子。


「遅くなってごめん。モリスはお昼ご飯は済ましたんだよね? もう少しだけ待ってくれる?」


「大丈夫だよ。ゆっくり食べて」


 モリスの言葉に甘える形で昼食をとりながら、午前中の話となる。


「ウルサスとゴリツィアが呼ばれなかったのは、鑑定をしなかったからか...... でも、先生が気にしていた部屋の雰囲気なら、あの二人にも聞いたほうがいいと思うんだけど」


「ん、確かにそうかも。だけど、あの石、どうしてあそこにあったのかなぁ」


「だよねぇ。あのお屋敷で、どうやって持ち込まれたんだろう。絶対結界が張ってあるよね、あの規模のお屋敷なら。カエルもそんなことを言っていたし。あの石の出所、さっき先生は何も言わなかったけど、カエルのおじい様は何か言っていたのかな」


 くだんの石の話は二人が話して結論が出るわけでもなく、いつのまにか今後の予定の話題となる。そしてナギサが食事を終えて一息つけば、そのまま街に出ることになった。




 今回も学舎側の通用門から外に出た。外壁に沿って正門まで出る。一昨日、年越しの祭りの時よりは、混雑も少なく、歩くことに支障はないが、やはり大神殿に向かう人、帰る人、それぞれの波が大きくて、正門から大神殿に出入りするのは難しそうだ。今日はそこまで混雑していないとモリスが言うが、ナギサには十分混雑しているように見えてしまう。


「ナギ、ほら、あそこ。正門入ってすぐ、人の出入りが激しいところがあるでしょ。あそこの奥に販売所があるの」


「じゃぁ、あそこに置いてあるんだ。気になるね」


「気になるけど、流石に冷やかしで入れないしね」


「確かにね」


 二人して顔を見合わせて笑ってしまう。昨日神官に預けた化粧水が今日から販売されている。残りは今モリスが大切に持っている。預けた10本があの販売所の中で商品として並べられていることを想像すると、ナギサとしても感慨深いものがある。本当は販売所の中を覗いてみたいのだが。


「とりあえず行きますか」


 しばらく正門向こうの販売所辺りを見つめていた二人だが、本来の目的、化粧水を街で売る為に中央通りへと足を向けた。


 モリスが懇意にしている店は中央通りを南に少し下り、大通りを一本奥に入った路沿いにあった。

 聞いていた雰囲気よりも大きな店構えで、中に入れば様々な物を取り扱っている比較的規模の大きな店だ。

 錬金に使えそうな素材から、日用品、ナギサとしては用途がわからない小物まで、いろいろな物が置いてある。

 買い物中と思われる客も何人かいる。

 カウンターも広く、買い物客が支払いで利用するには随分立派だなと見ていると、ナギサ達の後から入ってきた客が大きな袋をカウンターに下ろし、買取交渉を始めている。

 ナギサがその様子に驚いていると、

「何ボーっとしているのよ? わたし達もあの人が済んだら化粧品をお願いするんだから」

 とモリスに声をかけられた。言われてみれば今日ここにいるのは商品を卸す為。受け入れ手続きはあのカウンターというわけだ。


「おまたせ、モリスちゃん。今日は例の件?」


 店主なのか、店主婦人なのか、年配の女性がモリスに声をかけてきた。


「こんにちは、おばさん。うん、前に試してもらった化粧水、やっと持ってこれたの。この子、ナギサと一緒に作ったんだ。ナギ、こちらの方が今回わたし達の化粧水を販売してくれる、このお店の店主婦人だよ」


 モリスの至極簡単な説明でお互いに初対面の挨拶を行い、モリスは挨拶はもういいよねと言うなり、持ってきた化粧水をカウンターの上へと一本一本丁寧に並べて置いていく。余程早くお披露目したいんだなと、モリスの行動をなんとなく微笑ましく思いながらナギサは眺めている。


 モリスがすべて並べ終わると、店主婦人が丁寧にそれらを検分する。モリスはそんな彼女の表情をじっと見つめている。横で見ているナギサまで緊張してきてしまう。


「問題ないようだね。まぁ神殿の方で検品は済んでいるんだろう? 疑いはしないよ。ほら、この書類に......」


 店主婦人の言葉に、モリスの強張った肩が下がるのがわかる。指し示された書類に何やら記入しつつ、お金のことを相談している。


 もう後はモリスに任せておけばいいかとナギサは考え、改めて店の中を見回す。

 錬金の素材に使えそうな薬草類の棚に気付く。綺麗に並べられた草花はサンプルのようで、その傍には簡単な説明が書かれたメモがある。珍しいものについてはサンプルがない代わりにその絵が置かれている。大半は見覚えがある薬草だ。見覚えがない幾つかのメモを手に取り、その効用を確認する。


 日用品の棚に目を移せば、マグカップやお皿、櫛や石鹸といろいろ置いてある。シンプルなものから細工が施されたもの、包装が凝ったもの、日常使いから贈り物にできそうなものまで取り揃えているようだ。

 石鹸が置いてある棚の近くには、ナギサ達が持ってきたような小瓶がいろいろ置いてある。棚札と言えばいいのか、説明メモというのか、読んでみると化粧品やシャンプーのようだ。


(おおぉ、競争相手だ)


 化粧水がちょっと気になるけれど、よいお値段の商品は手に取りづらい。それらの横を見ると、やはり少しお高いお値段のクリーム類が置いてある。やはり異世界でも美容系の需要は高いらしい。


 ぶらぶらと店の中を見て回っている間にも、客の出入りはそれなりにある。今もまた扉が開いて一人入ってきた。奥にいる店主に挨拶をして手慣れた風でカウンターを利用している。ナギサ達と同様、買取客のようだ。


(綺麗な人......)


 モリスの奥側カウンターを使うその客を見れば、すらりとした上背の美男子だ。帽子の下からのぞく髪色は赤。店主と話し合う真剣な横顔は整っていて、長い睫毛から見える眼差しは薄い琥珀色。やはりこの世界、美形が多すぎるのではないか? などと訳の分からないことを考えてしまう。 だが、あまりにも不躾な視線で観察していたのだろう。


「こんにちは、お嬢さん。わたしに何か用かな?」


 見知らぬ美形から声がかかる。


「あっ、すみません」


 とてもではないが、綺麗だから見惚れていたなどと言えない。素直に謝罪の言葉だけを口にする。


「あらあら。ニールさん。あなたを見れば若い子はつい見てしまうから。少しは自覚を持ってくれないと」


 店主婦人がその客、ニールに声をかける。


「いや、わたしなんて」


 謙遜しているニールだが、からかうような店主婦人の言葉から、店内にいた客同士でニールの話題で花が咲く。どうやら彼はこの店の常連のようで、他の客達とも顔見知りらしい。いや、モリスも顔見知りらしく「お久しぶりです、ニールさん」と挨拶をしている。


「すみません。不躾な視線でした」とナギサは再度謝罪する。

「気にしていないよ、お嬢さん」と柔らかな表情で返してくれる。その言葉に顔をあげ、他の客達と話すニールやモリスをぼんやりと眺めていた。


 柔らかい表情、穏やかな声音。何故か昨日のリュークとの柔らかな時間を思い出してしまう。フルフルと頭を振り、モリスと話すニールに視線を戻した。

 が、ふと違和感を覚える。表情は笑顔、だが、ニールの目に感情がない。なんだろう、目だけが無感情、ガラス玉のよう。それに、魔力の感じが何か変。魔力探知の経験が乏しいナギサにはこの違和感が何なのかわからないが、友人達やここ数日見たり感じた魔力のいずれとも異なる。

 最初こそ、その美男子ぶりに惹きつけられて見ていたが、今は何かよくわからない違和感の原因が知りたいとニールを目で追ってしまう。再びナギサの視線に反応するかのようにニールがちらと振り向いた。


(えっ)


 振り向いたニールは口の片端を上げただけで、何も言わずモリス達との会話に戻ってしまった。


 今、何か得体の知れないものを見た。なんだろうこれは...... ゾクリと冷たいものを感じる琥珀色。何も見ていない、感じていない、笑顔なのに感情がない。どうしてモリス達は気づかないのだろう? ガラス玉のような瞳。優しさも温もりも感じない。モリスはニールの顔を見て話している。それなのに......




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