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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第二章】

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2‐13‐8 湧き上がる疑問


 ナギサは思い切って浄化をやらせて欲しいと切り出した。先日の一回だけでは実感がない。安心できる大人がいる状態で、危険を感じない小さな浄化を試すことができる。そうそうこのような機会はないはずだ。


 本当は先ほどもカエルに知らせることなく、勝手に浄化を行おうかと考えた。だが、ここに“このようなものがある”という事実はカエルに伝えるべきであって、その対処もカエルの家の判断にゆだねるべきであると、誘惑よりも理性が勝った。



 しかし、ナギサの言葉に場が静まりかえった。



(あれ? 何かいけないことを言ったのか?)


「ナギ、浄化魔法って知っていた?」


 カエルが何故か恐る恐る聞いてくる。


「ん、少し前にマグナルバ先生から『必要になりそうだから覚えなさい』って言われて」


「ほう、マグナルバ殿が。ならば、やってみるかね」


 あっさりとカエルの祖父が同意してくれる。アースターは驚きの表情はいつのまにか消え、ナギサ達のやり取りを興味深そうに眺めている。

 モリス達はどう反応していいのかわからないのだろう。ただただ、この場で何も言わない、言えないといった風情でナギサ達を眺めていた。

 カエルだけが心配そうに「大丈夫? 魔力、足りる?」と声をかけてくれる。


 ナギサは許可が下りたのであればと、ティーテーブルの前に移動する。

 こうやって改めて見ても、この石はマグナルバからもらったあの石とよく似ている。同じ場所にあったのではないだろうかとふと思い至る。


(後でマグナルバ先生に伝えたほうがいいのかも)


 余計なことは今は考えない。今は浄化のことだけを考えよう。

 ナギサは汚染元の石、ドイリー、ティーテーブル、この3点に意識を集中させる。浄化の呪文をつぶやき、魔力を呪文にはわせ対象へと魔力を注ぎ続けた。


 ほわりと汚染元の石全体が光に包まれる。続けてその下に敷かれたドイリーも薄く光を放ち始める。最後は小さなティーテーブルも全体が淡く光に包まれる。

 すべてが淡い光に包まれた後、一瞬輝きが強くなり、弾けるように光が消え去った。




「うむ。上出来だ。しっかり周りも確認しておるようだ。魔力切れは...... 大丈夫そうだな」


 カエルの祖父が満足気に頷いてくれる。


「「「ナギ、すごい!」」」


 それまで静かにしていたモリス達がナギサの周りに集まり、声を掛けてくる。カエルも余程驚いたのか、同じように声をかけてきた。


「ん、ありがとう。上手く出来てわたしも嬉しい」


 ガヤガヤと6人で今の出来事を話し合っていると、


「さて、馬車の用意ができたようだ。随分遅くなってしまったな。ヴルペ嬢にはこれを。わたしからの手紙だ。お父上に渡してほしい。さぁ、忘れ物はないかね?」


 確かに随分遅くなってしまった。これは学舎寮に戻ったら慌ただしいことになりそうだ。

 カエルの祖父に急かされて、ナギサ達は慌ててローブを羽織り暇乞いをする。


(ん?)


 ふとナギサは己に向けられる視線に気づいた。視線を向けていたのはカエルの祖父とアースター。二人ともナギサへというよりも、このローブに視線がいっているようだ。このローブは普通では鑑定できないレベルの代物だ。実力者ほどその真価に気付いて注意を引き付けてしまうかもしれない。


 変に何か言われないうちにと、ナギサは急かされるままにモリス達とカエルの家を後にした。




 △▼



 ナギサ達を見送り、カエルは祖父とアースターがまだいるであろう歓談室へと戻る。

 中に入ると、祖父とアースターの二人が難しい顔をして何やら話し合っているところだった。


「おじい様、叔父上。ご迷惑をおかけしました」


 迷惑をかけてしまったのであろうと、謝罪の言葉をカエルが口にすると、


「いや、迷惑などと言うではない。あのようなものを見つけて報告をする。正しい行いだ」


「ああ、正しい判断だよ。でも、よく気が付いたね。この場所、部屋の中でもかなり隅にあって、石もかなり小さいものだけど」


 祖父はカエルの判断を褒め、アースターは石の汚染に気づいたことを褒めてくれる。


「気づいたのは僕ではなくて、ナギ、ナギサさんです」


「ほう、あの少女かね。どうして気づいたのか、それは確認したのかな?」


 祖父の言葉にカエルはハッとする。そういえばあの時鑑定をするように言われ、その後は......

 そもそも何故ナギサがあのようなことを言いだしたのか、何故あの石に注意を向けたのかを確認していない。


「いぇ...... この石を鑑定するように言われて、それで」


 と、カエルは先ほどの会話の流れをかいつまんで二人に説明する。


「では彼女に指摘される前の状態はわからないのだね?」


(おじい様は何が言いたいのだろう)


「父上。まさか彼女が石を持ち込んだと?」


「そこまでは言っていないし、思ってもいない。ティーテーブルにまで汚染が広がっていたのだ。先ほども言ったが、既に数日この場所にあったのだろう。ただ......」


 祖父が気にしているのは、彼女がどのように汚染に気付いたか、ただそれだけだという。触れて気づいたのであれば、彼女自身にも浄化をかけたほうがいい。

 そうでないのなら、どうやって気づいたのか、何か気づくきっかけがこの辺りから見受けられたのか、いろいろ気になるという。


「まぁ、浄化をあのレベルで行えるのだから、迂闊に触ることもあるまい。優秀なお嬢さんだが、どちらの家の者かね?」


 祖父の問いに、カエルは何と答えればいいのか、言葉に詰まってしまう。


「ああ、父上。彼女はちょっと事情がある少女で......」


 カエルが口を開く前に、驚いたことにアースターがナギサの事情を祖父に説明してくれる。副神官長ともなると、この手のことも詳しいのだろうか。

 カエル自身、ナギサから詳しく聞いたことはない。学舎内で出自のことを詮索するのはご法度だ。アースターが祖父に説明する内容を聞きながら、ナギサの両親が旅商人であることを初めて知るのだった。




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