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ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【第二章】

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2‐12‐9 

 

「ファイヌム様!」


 乗馬の講義が終わった後、いつものように馬を戻し、クラウスのいる馬房に向かうその途中、ファイヌムを見かけた。普段であればナギサから声を掛けることはしないのだが、今日は特別だ。


「やぁ、どうしたんだい?」


 ナギサからの呼びかけに驚いたのか、いつもより瞳が大きく見える。


「例の魔法、聖属性と水属性の二つだけですが、うまくできました! そのご報告をしたくて」


「もう出来たのかい?」


 ファイヌムの口がポカリと開いたままになっている。


「はい! 他の属性も試そうと考えていて。次は火を試してみたいと考えています。後はいくつか属性を試してみて、一番使い勝手がいい属性を目印の魔法に使おうと今は考えています。といっても、他の属性があるかどうか、って問題がありますが......」


 自分の言葉が前のめりになりすぎていることに気付き、最後の言葉がしぼんでしまう。


「そうだね。いろいろ試して目印に向いた属性を選ぶといいよ。だけど、イメージするのが難しい属性もあるから、この魔法で属性の有無をすべて判断はできないからね」


「はい。火はイメージしやすいので次にと考えているのですが、他は風か土ぐらいしか今は思いつかなくて。でも、そこは本を読んで調べてみます。

 ファイヌム様にはいつも良いアドバイスを頂いて本当に感謝しています。では、わたしはこれで。早くいかないとクラウスが拗ねちゃいますから」


 ペコリと頭を下げると、ナギサはファイヌムの前から走り去った。







(なんだか懐かれてしまったな)


 ファイヌムは走り去るナギサを見つめながら思う。


 もともと人付き合いは苦手だ。とは言っても、顔と名前は覚えるように、人当たりも良くはしている。

 だが、それはあくまでも馬の為だ。講義で担当する学生達へも当然同じ考えで接しているので、距離を置く付き合いしかしていない。ここまで頼られて、いや懐かれているのは初めてではないだろうか。


 最初は興味本位だった。だが、接するうちに、接点を持ち続けていたほうがいいような気がして、他の学生よりも気にかけるようになっていた。なので気付けばらしくないお節介を焼いてしまうのだが。


 しかし、驚いた。簡単な魔法だとは言ったが、こんなにすぐに出来てしまうとは。

 しかも聖属性だけでなく、水属性までも。イメージしやすいとはいえ、保持している属性かどうかわからないものまでやりこなしている。


 彼女は優秀な魔導士になれるだろう。魔力量もどれだけあるのか。以前相談されたときよりも恐らく今はもっと増えている。ファイヌム自身の魔力探知能力はそこまで高くないが、以前より彼女から感じ取れる魔力量が多い。だがそれすらも、鑑定阻害の魔道具でも身に着けているのだろう、かなり抑えられた状態でしか見えていない気がする。


 見栄えも良く(本人は自覚がなさげだが)、魔導士として将来性あり。孤児という点を差し引いても、あちらこちらから声がかかりそうだ。いや、下手をすると既に動きだしているかもしれないな。



 △▼



 ナギサは掌の魔法が聖属性と水属性で成功した後、時間を作って他の属性も試していた。


 火属性はやはりイメージしやすいこともあり、簡単にできた。

 聖属性と同じで、火珠は魔力を絞れば小さくなり、注げば大きくなる。そして、注がなければ、火珠はそのまま消滅してしまう。

 だが、やはり“火”である。炎である。ナギサはうっかり掌を顔に近づけすぎて、髪を少し焦がしてしまった。流石にこれは臭いでまわりに気付かれてしまい、神官から注意を受けるという失態を犯してしまった。


 他の属性だが...... 流石にそこまで甘くはなかった。

 属性の特徴が掴めていないのだろう。

 イメージがブレるのか、うまくその属性の珠が現出しない。


 いろいろ試した中で、風属性はどうやら持っているらしいことに気付いた。風珠にはならないが、一瞬掌の上をサッと風が走るのだ。どこが足りないのだろう?


 属性の特徴をもう少し掴まないといけないのか、と文献を探すのだが、文献がある場所が問題である。学舎の図書室と魔法学講義室にしかない。だが、大きく時間がとれる聖の曜日は学舎内は立ち入り禁止で閲覧ができないのだ。

 他に文献がある場所といえば、学院や大神殿。流石にそれは学生が単独で利用できるかわからないし、可能であったとしても気後れする。


 早く先に進みたい気持ちと、先に進めない焦りが交互に去来して、もどかしさだけが募る日々が続くのだった。




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