2‐12‐8 掌の魔法
右手をギュッと握り、そして開く。
静かに息を吸い、吐いて。心を落ち着かせてイメージする。
掌に光の珠。清浄なる光に満ちた高貴なる小さな珠。
イメージを固めて魔力をのせる。
ぽわり、と掌の上に小さな光の珠が現れる。
(出来た!)
ファイヌムに言われた小さな魔法。
聖属性での光珠は今ナギサの掌の上にある。
掌を軽く閉じれば隠れてしまうほどの小さな光の珠。ふわりふわりと掌の上で清らかな光を放っている。
細く糸のように注いでいた魔力を絞れば、光珠はもっと小さくなり、魔力が途絶えればふっと消える。
遊びのような魔法だが、初めて自分で作り出した魔法だ。
急いで魔導書を取り出して中を確認してみると、しっかりこの魔法が書き込まれている。ファイヌムが言ったとおり、ほんとに小さな魔法で、たった3行の呪文。読唇阻害も何もないシンプルな呪文だ。
よく見れば、ああここが属性指定か、という箇所がある。ここを入れ替えると他属性になるのか? だが、それはそれで属性指定の仕方がわからない。
やはり、他属性もイメージ優先でやってみるしかないようだ。
聖属性はすんなり成功した。次はどの属性を試すべきか。この世界で聞き覚えのある属性で、一般的なものから試すほうが無難であろう。
火属性は火災の危険がある。となると、水属性あたりが安全か。
準備運動というわけではないが、掌をギュッと握ってから開く。
数回繰り返して呼吸を整える。
掌に水の珠。清涼なる水、生命の源たる小さな珠。
先ほどと同じように静かに魔力をイメージへのせる。
フルン、と掌の上に小さな水の珠が現れた。
(綺麗......)
ただの水の珠のようでいて、それ以上に何か違うものに見える。
まるで何もないかのように透き通っていて。でも通して見える風景が揺らいでいるので、そこに確かに水珠があるのがわかる。水珠を受ける掌には七色の光が映し出されている。
魔導書を開き、先ほどのページを見てみると、やはり属性指定の箇所と思しきところが変わっている。そこに注釈を加えるような形で、聖属性なら、水属性なら、といった表現になっている。
この二つの属性を試したことであることに気付く。
呪文のベースは同じ。その呪文で発現する現象も似たようなもの。だが、その属性故の違いがあるのだ。
光珠は維持するために魔力を注ぎ続ける必要がある。故に注がなければ跡形もなく消える。
水珠は珠の形状を維持するために魔力を必要とする。水自体も魔力でどこからか創造していると思うのだが。魔力を注ぐのをやめた後は、今そうであったように創り出された水は水滴となって残る。魔力を絞っても形状が小さくなることはなく、水珠の周りにある膜が薄く薄くなっていくように感じた。今日はハンカチで拭い取れる水量だったからよかったが、これがもっと大きな水珠なら?
今回この二属性を試してよかった。遊びレベルの魔法とはいえ、後のことを考えて行わないと大変なことになることがわかったのだから。
続けて火属性や風属性を試したいが、次の講義時間が近い。続きは次回と気持ちを切り替え、ナギサは魔法学講義室を後にした。
「今の見たか?」
遠目でナギサの様子を見ていた上級生達が、ナギサが出ていくのを待っていたかのようにしゃべりだす。
「ああ。あの子、まだ一年目、しかも魔法学はこの秋からだろ。水属性も持っているようだし。凄いな」
「最近の防御魔法の実習で最後まで残っているよな。魔力量も多そうだ。どこの家だ?」
「あの子、記憶喪失で孤児らしいよ。トランキリタ先生が親代わりって聞いている」
「おい、家の話はダメだろ。けど、優秀で美少女。これは競争率が高いな」
「諦めな。例の貴公子商人がついてまわっている、って聞いてる」
「おまえ良く知っているなぁ」
「だけど年の差ありすぎだろ。単に妹みたいに面倒を見ているだけだろ?」
「噂、噂だから」
「まぁ、そんなことより、僕たちも先輩として技量をあげないとな」
「「確かに」」
ナギサの物語にお付き合いいただいてありがとうございます。
ブクマや評価、とてもありがたく、ものすごく励みになっております。
掌の魔法。既存の魔法です。
でも、ナギサにとっては「初めて自分自身がイメージすることで呪文が編み出された魔法」です。
ということで、上手く表現できていないですが、とても感慨深く感激に溢れているナギサなのです。




