2‐12‐6 アドバイス
マグナルバが読むといいと勧めてくれた魔導講義室にある書物。持ち出しができないので、講義の合間を縫うように時間を作って読んでいる。聖の曜日に利用できればよいのだが、聖の曜日は学舎内には入れない。
仕方がないので難しい内容のものではなく、まずは初歩的な本を探して読み漁っている。
といっても、難しい本=読む資格がないようで、本を開いても空白があらわれるだけで時間が十分あったとして読めないのだが。
ナギサが今やりたいことは“目印”の魔法を編み出すこと。
指定した箇所にマーカー設置。マーカーは誰でも認識できたりナギサのみが認識できたり設定ができる。遠く離れて目視ができない場合でも方向が確認できる。そんな都合のよい“目印”魔法が欲しいと思っている。もっと欲を言えば、その目印から途中途中の道標も設置できれば完璧だ。
ナギサとしてはやりたいことがしっかりイメージできているつもりだ。マグナルバが言う「魔法はイメージ。そこに技量と魔力量があれば叶うもの」が正しいのならば、うまく魔法が編み出せそうなのだが、何故か呪文は具現化しない。
といっても、まだ一つも自分で魔法を編み出していないので、実際どんな感じでイメージから呪文が編み出されるのかわかっていない。
地道に文法から組み立てていく方法もあるのだが、それだとまだ文法が、構文がわからない。似たような呪文の一つでも覚えていればそこから改変することもできるのだが。
この手の相談を誰にすればいいのか。マグナルバは本を読め、イメージしてみろ、試してみろ、とアドバイスはくれるが答えはくれない。
恐らくこの魔法のこともアドバイスを求めれば何かくれるのだろうが、それは最後にしたい。
何故と言われれば、単に負けた気持ちになるからという、どうでもいい理由なのだが。
だが、行き詰っているのは事実。経験が足りないのはこれから経験をつむしかないが、知識が足りないのはなんとかなる。ということで、やはり書物を...... と最初に戻るわけなのだが。
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乗馬の講義が終わり馬を戻しに行くと、ファイヌムに声を掛けられた。
「やぁ。クラウスの相手をしてくれて助かるよ。この後、行くんだろう? ナギサ君が定期的に世話を焼いてくれるから、かなりクラウスの機嫌が良くて本当にありがたいよ」
講義後にクラウスの相手をしていることへのお礼のようだ。だが、今は主人であるリュークが戻ってきている。ナギサの役目はもう不要なのではと考えていたので、少し意外でもあった。
「大したことはしていないですから。ファイヌム様に改めてお礼を言われるようなことは......」
「いやいや。本当にありがたく思っているから。何かお礼ができるといいんだけどね」
ファイヌムを見れば、何か欲しいものはある? と問いかけるような眼差しでナギサを見ている。
「ん、と。では以前のようにアドバイスが欲しいです。魔力量の件は本当に助かりました。
それで今回欲しいアドバイスなのですが、魔法を一つ創りたいと思っているのです。やりたいことははっきりしていて、イメージもできているのですが......」
目印の魔法について一通り説明を行い、何がまだ足りないのか改めてファイヌムに聞いてみた。
「そうだね。聞いている限りでは何かできそうな感じかな。この状態で魔法が編み出されないとすると、一つ考えられるのは、最初の目印」
「目印ですか?」
「そう。どんなイメージなのかな? 聖属性の神々しいイメージ? それとも火属性で燃えるような? 聖属性は魔法学を履修しているから持っているよね。他の属性も持っているんじゃないかな? そのせいで最初がブレていると僕は考えるけど」
「なるほど。属性ですか。でも、わたし、どのような属性を持っているかわからないのですが」
「え? 秋の診断の結果は?」
「属性あり、ってだけで、細かいことは何も」
ファイヌムが腕を組んで考え込んでしまった。やはりあの診断結果は普通と違うのだろう。恐らく《女神》の加護と誰がかけたかわからない鑑定阻害の為、普通に判別するのが難しい状態なのだろう。
「それは確かに困ったな。流石のわたしでも属性判断の魔道具は常備していないからな。ただ、そういうことなら恐らく君は複数属性持ちだ。今から言うことは慣れるまでは魔法学講義室で試して欲しいのだけど」
そんな前置きの後、ファイヌムが教えてくれたのは小さな魔法の遊び。呪文を教えてもらったわけではないが、ちょっとしたコツとやり方を教えてもらった。
掌に小さな小さな光の珠をイメージする。ただそれだけ。使用する魔力量も少なく、技量も不要な単純な魔法らしい。聖属性持ちであれば簡単にできるという。
そして、ここからが本番。次は光ではなく、火や水といった他属性で試してみる。属性持ちであれば、これも簡単にできるはず。呪文も二言三言のレベルで、イメージだけで実行できるはずだとも言われた。
これで自身がどの属性を持っているか多少はわかると思うし、そうすれば“目印”もどの属性で作るか明確になり、先に進むのではないかとアドバイスされた。
「ありがとうございます! 早速時間を作って試してみます。これ、魔法学講義室で試さないとダメですか?」
「慣れてからなら自室でもいいけど。火や水は暴発すると危険だから、最初のうちはね。もどかしいかもしれないけど、そこは我慢して」
これはなるほど、である。想定以上に火の勢いが強ければ、自室では危険。寮の各部屋は防音結界や何やらと意外にプライバシー保持に優れた個室で、中で何か起こっても結界で大概のことは外に漏らさないようになっている。部屋で何かやらかしても、相当酷い状態でもない限り、外からわからないのだ。
「わかりました。ありがとうございます。では、わたし、クラウスのところ行ってきますね!」
盗聴防止は当然のごとくファイヌムがサラッと張り巡らせての会話です。
ナギサとの会話は何が飛び出すかわからないので、ファイヌムが予備的にそーしてしまう習慣がついているのです。




