2‐12‐2 既にある魔法
今日の攻撃役はカエルと神官見習い(クプルム)だ。やり方は前回と同じ。ただ、クプルムは剣ではなくメイスを手にしている。カエルは騎士系の講義をとっていないが剣を手にしている。
ナギサは最近になって神官はカニス、神官見習いはクプルムという名前であることを知った。講義中マグナルバは誰かを指名して何かをさせることが少なく、あえて何か指名するとすれば「そこのお前」といった形をとる。特にこの二人に関しては「おい、神官」「見習い、ちょっと」といった呼び方をするので、個別で知り合いというわけでもない為、名前を知る機会がなかったのだ。
マグナルバの合図とともに攻撃役が打ち付けてくる。
あのメイスはクプルムの所有物なのか? 妙に使い慣れている。おまけに頭部の威力が半端ない。既に一人、メイスの打撃で防御を崩されて脱落している。カエルは先回もユリウス達が使っていた刃引きした剣だ。威力はあまり感じないがカエルの打ち付ける力が意外に強い。恐らくコーマで体力強化してるのだろうが、カエルも妙に剣を使いなれている様子だ。
今回も防御側が残り二人になった時点で終了の合図があった。最後まで残ったのはユリウスとナギサ。前回最後まで残っていた神官はメイスの猛攻に油断したようだ。普段から二人で練習しているのか妙に手慣れた二人の攻防に見えた。そのせいか、終了後のマグナルバのアドバイスではクプルムがカニスに攻撃を集中しすぎと注意されていた。まぁ、そのおかげでナギサはメイスの攻撃が少なく、魔力消費も少なく済んだのでホッとしているのだが。
今日はいつもより早く講義が終わった、残りの時間は好きにしてもよいとマグナルバが告げた為、皆が空いているうちに食堂へ行こうと講義室を出ていく。カエルからも食堂へ向かおうと言われたのだが「試してみたいことがあるの。手伝ってくれない?」と誘うと、カエルも怪訝な表情ながらも乗ってくれた。
「で、何を試すの?」
「ほら、この間の魔力を流す防御結界。あれを敵にされたら困るでしょ? だから自分が攻撃側に立った時、コーマか何かできるかな、って」
「確かに触れると魔力が流れる防御壁って、敵が使っていたら対処に困るな。で、どうするの?」
「どちらが攻撃役でもいいのだけど......」
ナギサはカエルに考えていた方法を説明する。攻撃側も武器にコーマで魔力をまとわせ、触れたら魔力が流れるようにする。防御結界のそれと相殺できるのか、もしくは攻撃側がより強ければ防御結界のそれを無視できるのか試してみたいと。
「なるほどだけど、どっちも相手の魔力をくらう可能性があるよね。大丈夫?」
「ん、そこが問題。だけど、ここなら、ほら、いっぱい人(神官)がいるし。後はお互い魔力の強さを調整してまったく同じ威力でやってみない? というか、野豚の時のように目一杯魔力を流すのではなくて、ほんとうに微弱な量で試そうよ」
「了解。じゃぁ、まずは魔力の調整からしようか」
二人で防御結界にまとわす魔力量を確かめ、それと同等の魔力を攻撃側が剣に宿す。
あれこれ試して痛い、痛くない、等と試してみたり、治療魔法でお互い治療しあったりと短い時間ながら試行錯誤してみた。
「お前達、面白そうなことをしているな」
そんなことをしていると、マグナルバが二人に近寄ってきた。
「魔法で攻撃ではなく、コーマを使っているのか?」
「ええ、実は先日──」
カエルが林でのことを説明する。攻撃魔法を覚えていない自分達ができる範囲で試した方法を。
「お前達、実践向きだな。神官より魔導士か騎士を目指すといいかもしれないな。まぁ、それはお前達自身が決めることだから余計なことだったな。それより、その手のことなら書棚の本が参考になるぞ」
「実践に向いていますか? 僕、少し自信を持ってもいいかなぁ」
「カエル、それだけ優秀なのに自信がないの? ちょっとそれ信じられないよ」
「ナギのほうが優秀だよ。僕、君に負けないように必死なんだから」
「お前達...... そもそも基礎の半年を終えてすぐにこの魔法学を受けている時点で十分以上だぞ」
マグナルバが若干呆れた口調で二人を止める。
「あの先生、今質問してもよいですか?」
「ああ、構わないが」
「自分が使いたい魔法があるとします。その呪文が既にあるのかどうか、どうしたら確認できますか?」
「辞書のようなものはないな。呪文書で売っているもの─当然誰かが編み出した呪文─を調べる。自身で編み出した呪文を、ここでなら魔導工房になるかな、登録して既に登録済みかどうかで判断する。後者の手間をかけたくないから、事前にあるか知りたいのだろうな。生憎そう都合のよいものはないな。唯一の方法はミラクルゥム様に聞くことだ。魔術の神だけあって、一発で既にあるかないか、人が魔法で行える技かどうかを示してもらえるぞ」
「楽はできない、ということですね。わかりました」
ナギサはマグナルバの言葉にため息とともに、ぐったりと首を垂らす。
「ナギ、何か気になる魔法があるの?」
「ん、ほら、林で帰り道に困ったでしょ? だから目印を残すような魔法が使えたらなぁ、って」
「そういうものなら確かにある。だが、あったとしてどうする? 呪文書で買うか、知っている魔導士から教えてもらうのか?」
マグナルバが納得の表情を示しつつも、口の片端をあげて聞いてくる。きっとマグナルバならこれぐらいの魔法であれば知っているのであろう。だが、教えてくれというのは簡単だが間違っていると思う。今の立場であれば学びの中で見つけ出さなければいけないのだろう。
「そうですね。そうですよね。自分で考案したほうが建設的ですよね。ありがとうございました」
「ナギ、元気出して。僕も一緒に考えるから。絶対その魔法は必要になるから」
ますます肩も頭も下がるナギサだが、必死に励ましてくれるカエルの声がとても嬉しく感じるのだった。




