お酒
パーティーの終わりも間近。
リウはなにやら上機嫌そうなリアに捕まっていた。
「お姉さま! あのですね、美味しそうな飲み物配られてたので持ってきました! 飲みましょう!」
「飲み物……? わっ……」
リウにグラスに入った飲み物を押し付け、リアがもう一つの同じ飲み物らしきものを飲み干した。
リウが押し付けられた飲み物に視線を落とす。
少し金色に濁るそれを少し揺らし、リウがそっと口に含んだ。
量が少ないのでリアと同じように飲み干し、リウが首を傾げる。
「林檎……? 結構甘いわね……んっ?」
リウが首を傾げた。
数秒して、恨めしげにリアを睨む。
「あなた、お酒飲ませたわね!?」
「騙される方が悪いです! お姉さまならそろそろ酔いが回ってきたんじゃないですか? ほら、お姉さまのお部屋に戻りましょう!」
「なんで飲ませたのぉ……うう、なんかふわふわする……」
「面白いからです!」
「リアの馬鹿……」
小さく呟いてリウがリアに連れられるまま歩いていく。
数分もすれば、完全に酔いが回りふにゃふにゃになったリウが完成していた。
リアが見たかった姿である。
「んん~……リアぁ~……」
「はい、お姉さま。なんですか?」
「眠いぃ……」
「寝ていいですよ? 寝ます?」
「やだぁ……レアどこぉ……?」
「レアちゃんですか? もう寝てると思いますけど」
「じゃあディーネは……?」
「うーん、居場所はちょっと分かりませんね……」
むぅ、と不満げな声を出すリウ。
リアが困ったように微笑んでいるとぷいっとそっぽを向いてしまった。
自室のベッドに潜り込み、毛布を頭までかぶって拗ねている。
「……探してきましょうか?」
「むぅ」
「……探してきますね」
リウが〝むぅ〟としか言わなくなってしまった。
連れてくるしかないとリアが部屋から去っていく。
リアが居ない間もリウはずっと拗ねていた。
◇
「お姉さま~、ディーネ連れてきましたよ?」
「……ディーネ?」
毛布から目元だけを覗かせてリウが呟いた。
リアの横に苦笑い気味のディーネを見つけると、リウがぱあっと笑顔になる。
ディーネがリウに駆け寄れば、ベッドの中に引きずり込んで抱き締めた。
「んっふふ、ディーネぇ……暖かい……」
『そう? ……って、寝てる?』
ディーネが声をかけたときには既にリウは眠りについていた。
すやすやと眠る姿はあどけなく、とても魔王とは思えない姿だった。
『りーちゃーん……? ……うん、寝たね』
「早いですね~。私じゃ駄目だったんでしょうか」
『私のこと呼んでたってことは駄目だったんじゃない? 知らないけど』
「そこ変わって下さいよ。私のお姉さまですよ」
『やだ。リアは創世神様の抱き枕になってればいいでしょ。創世神様の妻なんだから』
「ヴェルジア、凄いきつく抱き締めてくるんですよ。だから嫌です」
『りーちゃんと一緒に寝るってなったらリアがそれするんでしょ』
「はい!」
『じゃあ駄目~』
ディーネがにやにやしながら見せ付けるようにリウに抱きついた。
リアが妬ましげにディーネを睨む。
『……にしても、りーちゃん本当にお酒弱いよね』
「話を逸らさないで下さい! そーこー変ーわーれー!!」
『やだってば。リアはお酒強かったよね?』
「……そうですけど」
『なんで姉妹なのにこんな違うんだろう。りーちゃんはすぐ照れるのにリアはぜんっぜん顔赤くならないし、りーちゃんは戦闘狂なのにリアはそんなにだし』
「姉妹とはいえ同じ人ではないんですから違うのも当然ですよ。双子でもないですし」
『それは知ってるけど。外見以外で似てるところがほとんどないから、こんなに似てないのも珍しいなーって』
「そうですか?」
『いや、普通の姉妹を知らないからよく分かんないけど』
「……ん、んんぅ……」
二人が話しているとリウが声を漏らす。
少しうるさかっただろうかと二人は慌てて黙り込んだ。
「ディーネ、お姉さま起きてませんよね……?」
『う、うん。なんとか』
「くっ、これ以上お姉さまの寝顔を眺められないのは残念ですが……起こすのはよくないですしこれくらいにしておきます。では明日」
『あ、明日も来るんだ』
「ルリアみたいなこと言わないで下さい。今度こそまた明日!」
リアが去ったことにより静かになった室内で、ディーネがリウを見る。
あどけない寝顔は緩んでいて、幸せな夢でも見ているのだろうかとディーネは考えた。
ディーネがそっとリウの頭を撫でて、その身体を抱き締める。
『りーちゃん……張り切りすぎて無理とかしてないといいけど』
ディーネは書類仕事に終われて様子を見れていなかったため、リウが無理をしていたのかしていなかったのか分からないのだ。
その上、あの勇者と出会ったとなれば。
ディーネは不安で仕方無かった。
不本意ながら、ディーネではあのクズには敵わない。
だから、もし襲われたときに側に居ても、守れるかと言われると怪しいところだ。
三年間は手は出されない可能性は高いとはいえ、警戒は続けなければならないだろう。
そうなれば、精神だって消耗してしまう。
ディーネがぎゅっとリウを抱き締める。
『りーちゃん……無理だけは、しないでね……』
――私が死んでも、自分を守れるように。
酷な願いが彼女に届かぬように、ディーネはそっとその言葉を飲み込んだ。




