応用
朝の7時頃、お酒に酔いディーネと一緒に眠っていたリウが目覚めた。
「んぅ……? ……あ、昨日……お酒……」
リウは酔っていたときのこともしっかり覚えているタイプらしい。
昨日お酒を飲まされたことを思い出すと共にディーネと一緒に眠っていたことも思い出し、視線を隣に向ける。
そこには、リウにしがみつくようにして眠るディーネ……と、ディーネの背中にぴたりとくっつき腕を伸ばしてかろうじてリウに抱きついているレアがいた。
こちらも熟睡している。
どうしてレアまでと思いつつ、リウが起こさないように起きようとし――気付いた。
ディーネはリウにしがみついており、起こさずにベッドから降りるのは困難だということに。
しかもである。
レアはディーネを挟んでリウに抱きついている。
というか、ギリギリ腕らへんに掴まっている状態だ。
ディーネに抱きついてくれればいいが、リウがレアの手を退かすと後ろ側に転がってしまうかもしれない。
リウがベッドから降りるとディーネも少なくとも体勢は変わる筈なので、レアが抱きつくことができるかどうかはかなり怪しいところだった。
……と、リウは思っているが。
確かに体勢は変わるだろうが、後ろに倒れることはない筈である。
リウはずっと孤独で、人が寝てるところを見たことはあまりないので仕方無い……かもしれない。
「……どうしましょう」
困ったようにリウが呟く。
しばらく二人の姿を見つめ、仕方無いとゆっくり身体を起こし始める。
「ぅんん……リウ様……?」
「あ……レア、起こしちゃったわね。もう少し寝ててもいいのよ」
リウが微笑み、レアの頭を撫でた。
レアがベッドから降りて反対側に来ると、再びベッドの上に来て甘え始める。
「レア、もう起きる? 寝てもいいのよ?」
「起きます……けど、もう少しだけ……」
「甘えるのは別にいいけれど。……ディーネはどうしましょう……」
「……ディーネ様って、まだお仕事あるんでしょうか」
「んー……軍の鍛練見るくらいじゃないかしら。書類は確か全部受け取った筈だし……」
「なら起こさなくてもいいと思います。……あ、軍の鍛練ってなにしてるんですか?」
興味津々でレアが尋ねた。
リウは少しの思案をしたあと、レアに答える。
「確か、今は基礎能力を上げつつ魔法の応用なんかを練習してる筈よ。水魔法は応用が多いのよね」
「応用……どんなのですか?」
「ん~……レア、水は冷やすとどうなる?」
「冷やすと? ……えっと、凍りますよね?」
「そう。だから、他の魔法で冷やすことで擬似的な氷魔法にもなるのよ。まぁ、威力は本来の氷魔法よりは劣ってしまうのだけど」
「他にはなにがあるんですか!?」
レアがキラキラとした瞳でリウを見つめた。
そこで、リウのスイッチが入る。
リウが空中に水を生み出し、口を開いた。
「レア、この水に手を入れてみて?」
「は、はい。……ひゃっ!? 冷た……! あれ? 熱い? わー! 熱いですよっ!? あれっ、冷たい! なんでですか!?」
「ふふ。無属性魔法の〝温度変化〟。魔道具なんかによく付与されたりする魔法ね。これをただ水球を生み出すだけの魔法の魔方陣に組み込むの。後から付与してもいいのだけど、組み込んだ方が効率いいのよね。これで敵を混乱させられるし、温度を変化させられるから……ほら、こんな風に凍らせることもできるのよ」
リウが水球を凍らせた。
それを手渡せば、レアはキラキラした瞳でそれを見つめ出す。
「凄いです……!」
「〝温度変化〟と似たような魔法で、〝属性変化〟っていうかなり高度な魔法があるのだけどね、これを魔方陣に組み込めば他の魔法に変化させられたりするのよ。毒とか風とか。変化だけじゃなくてなんて言うのかしらね、混ぜることができるのよ。液体状の毒だったり、風の場合はそうね、水の中に小さな風の刃があって触れるとそれに切り裂かれる感じかしら? 他にも他にも――」
『りーちゃん』
後ろから声がかけられた。
ぴたりとリウが硬直し、そっと後ろを振り返る。
そこには、ジト目でリウのことを見つめるディーネが居た。
「あ、あら……ディーネ、起きたのね。おはよう」
『おはよ。……別に起こされたのはいいんだけど、起きた原因が魔法の説明とか嫌なんだけど。しかもかなり熱の入った。というか寝てる人が居るんだからちょっとは気遣ってよ』
「う……ご、ごめんね? その、説明するのが楽しくて……」
『別にいいけどー。あ、リア今日も来るんだって』
「あら、そうなの。いつ来るのかしら……」
『そこまでは聞いてないよ。ルリちゃん、まだ滞在してるらしいから行ってくるね』
「そう、いってらっしゃい」
『行ってきまーす』
ディーネが去っていくと、リウは意気揚々と水魔法の応用の説明を再開した。




