超大型編ー1
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ガルディアン第3支部基地内ーブリーフィングルーム。
雷鳴が轟き、大量の雨粒を地上へ降らしそうな積乱雲が包み込む不穏な空。
それに呼応するかのように異空間の狭間から1体の巨大な侵略者が出現した。
他のガルディアン支部から出撃した部隊が討伐を試みるも、圧倒的な強さを前に数十分と保たず壊滅した。
数十機のエグゼキュシオンを退いた侵略者は、現在ゆっくりとガルディアン第3支部管轄内に向けて移動中だ。
それを受け、ガルディアン第3支部所属するパイロット全員が、ブリーフィングルームに集められた。
「これより作戦を説明する」
壇上の上に立ち、正面に座るパイロットたちに向け、説明を開始する強面の中年男性。
ガルディアン第3支部の支部長かつ司令を務め、シレディアの保護者であるテモワン・レゾヌマン中佐だ。
白髪混じりの黒髪が目立ち、日頃から苦労が絶えないというのが見て分かる。
昔、エグゼキュシオンのパイロットとして活躍した経歴を持ち、それ故に今でも現役のパイロットに劣らない整った体型を持つ。
パイロットを引退してからも日々のトレーニングを怠らず、体型を維持し続けているからだ。
「衛星から撮られた侵略者の写真だ」
室内が薄暗くなり、テモワンの背後に設置されたモニターに衛星写真が投影される。
写真の画質は荒いが、それでも通常の侵略者を凌駕する巨大な影がはっきり確認できる。
「今回、異空間の狭間から出現したのは、超大型の侵略者、コードネームはペラロネ」
テモワンの口から出た『超大型』という言葉を聞いた瞬間、シレディア以外のパイロットたちから一気に血の気が失せた。
何故なら、超大型と分類される侵略者は、過去に何度か出現し、人類に甚大な被害を齎した個体だからだ。
侵略者の中でも強力な個体であり、人類から恐れられている。
ポストルやタージュ、サラリエやミソンプは、訓練兵時代にその恐ろしさを嫌というほど聞かされた。
超大型が齎した被害の映像も観せられたが、あまりの悲惨な被害状況が彼らの脳内に焼きついている。
彼らより長くエグゼキュシオンのパイロットをしているシレディアとユノは、1度だけ戦闘経験がある。
超大型を討伐する為、各支部から多くのパイロットが出撃したが、圧倒的な力を前に彼女たち以外のパイロットは全員死亡した。
遂にはシレディアと共に戦っていたユノの機体も超大型の攻撃を受けて大破。
絶体絶命と思われたが、シレディアが1人で超大型を討伐した。
超大型を討伐した経験があるからこそシレディアは、超大型と聞いても表情を変えない。
「今回の目的は、ペラロネを生きたまま捕獲することにある」
シレディア以外のパイロット全員が目を丸くし、驚きのあまり表情が硬直する。
その時、ブリーフィングルームの扉が開き、白衣姿の中年男性が室内に足を踏み入れる。
黒い長髪に顎から無精ひげを生やし、少し猫背気味な姿勢の男性だ。
年齢は30代前半と思われ、細い体と青白い顔色から健康的な印象を受けない。
シレディアは、その男性を知っているのか僅かに反応し、横目で彼の動きを追う。
「初めての人もいるだろうから紹介する。彼はヴィス・アンテレシュット博士だ」
テモワンから紹介を受けたヴィスは、人見知りな性格から視線を誰とも合わせず、無愛想そうに軽く頭を下げる。
彼は、侵略者の研究を主任し、人工適合者の開発・生産にも携わった経歴を持つ。
超大型を単独撃破したシレディアの高い能力に興味を持ち、定期的に行われる彼女のメディカルチェックを自ら志願した。
その数年後、自ら担当を辞任し、現在は、専門の女性スタッフが、シレディアのメディカルチェックを担当している。
何故なら、ヴィスが自分の研究室からほとんど出てこなくなった。
あれだけ興味を抱いていたシレディアにも興味を示さなくなり、研究室に篭って何をしているのか誰にも分からない。
司令であるテモワンも彼が研究室に篭り、何をしているのか把握できていない。
しかし、今回は超大型という滅多に出現しない個体に研究者としての好奇心が沸いたのか珍しく司令室を自ら訪ね、テモワンに捕獲作戦を提出した。
確かに超大型を生きたまま捕獲できれば侵略者に関する未知の部分を解明できるかもしれない。
それを自分が解明したとなれば相当な功績になり、歴史に名を残すことだろう。
「彼が作戦の提案者だ」
無謀な作戦に痺れを切らしたユノは、椅子から勢いよく立ち上がる。
「お言葉ですが、過去に何度か侵略者を捕獲しようとして全て失敗しています!しかも、今回は倒すのですら難しい相手なんですよ!」
ユノは、超大型と戦闘し、死の恐怖を直に味わったからこそ今回の作戦が、どれだけ危険な作戦か心底分かる。
過去に単独で超大型を倒したシレディアがいるとは言え、侵略者は常に戦闘力を飛躍的に高めていく。
以前シレディアが倒した個体よりも強力なのは間違いない。
「確かに無謀かつ危険な作戦だ」
「なら、どうしてこの作戦を実行しようとするのですか!?」
テモワン自身も無謀かつ危険な作戦だと重々承知しており、ユノが反対する気持ちも理解できる。
しかし、それが分かっていても作戦を承認したのには理由がある。
「我々はずっと敵を理解できず、目隠し状態での戦いを強いられている。このままではそう遠くない未来に人類は絶滅する」
侵略者が出現する度、人類側が弱体化していく現状からテモワンは、そう考えるようになった。
侵略者が常に学習し、力を高める一方で
人類は、今だに侵略者をほとんど解明できていない。
このまま目隠し状態の戦いを続けていれば、人類が絶滅するのも時間の問題だ。
それを回避する為、最強クラスの強敵を捕らえ、侵略者のことを理解する必要がある。
また、テモワンにはシレディアたちなら作戦を成功できると信じている。
「各自思うところはあるだろうが、人類が生き残る為に力を貸してくれ」
シレディア以外のパイロットは、上司の命令とは言え、従いたくないのが本心だが、従わざる得ない。
それがエグゼキュシオンのパイロットとしての使命であり、自分の命だけでなく、周囲の人の命を守る為にはどんな強敵が相手だろうと戦うしかないのだから。




