飛羽編ー4
4
ガルディアン第3支部基地管轄内ー廃都市ベツマデフ。
コードネーム『オレジネラ』との戦闘を開始してから数分が経過した。
2機のエグゼキュシオンは、廃墟と化した建物の後ろに身を隠し、建物を盾代わりにして攻撃を凌ぐ。
「羽根を飛ばしてくるなんて聞いてないわよ!」
ユノがそう文句を言いたくなるほどオレジネラは、自身の羽根をまるで弾丸のように放ち、接近させる隙を与えない。
そもそも侵略者が、親切丁寧に自分の能力を事前に教えてくれるはずがない。
そのことをユノは、十分に理解しているが、相手からの一方的な攻めに文句が出てしまった。
ユノ同様、自身の機体を建物の後ろに隠すサラリエは、そっと機体を動かし、物陰から様子を伺う。
「見た目より硬くて鋭いですね」
「関心してる場合!?」
見た目とは裏腹にコンクリートも貫くほど鋭く、丈夫なオレジネラの羽羽
同じくオレジネラの体表を覆う羽根も頑丈であり、超高周波ブレードの刃ですら弾く。
また、羽先が針のように鋭く、対象に貫通させることでダメージを蓄積させる。
「ん!?攻撃が止んだ?」
まるで銃弾が壁に命中した時のような鋭い音が鳴り響いていが、その音が突然聞こえなくなったことに気づいたユノ。
不思議に思ったユノは、自身の機体を少しだけ動かし、オレジネラの様子をそっと物陰から見る。
すると、オレジネラの体を覆っていた羽毛の量が、遠距離武装に使用したことで少なくなり、隠れていた皮膚が丸見え状態になっていた。
「どうやら無限に飛ばせる訳じゃなさそうです」
ユノ機同様、物陰からその様子を見ていたサラリエは、通信回線を通して言葉を発した。
感情の起伏が多いサラリエだが、戦闘になると誰よりも冷静に状況を分析し、適切な行動を取る。
その点については、ガルディアンからも高く評価されており、中にはシレディアに劣らない状況分析能力を持っていると評価する者もいるくらいだ。
「弾切れってことなら今がチャンスね!」
攻撃するのに邪魔だった羽毛が少なくなり、攻撃しやすくなった今こそオレジネラを討伐するチャンスと考えたユノは、自身の機体を前進させた。
機体が装備している2丁のバレットアサルトライフルを連射し、オレジネラにダメージを与え、順調に距離を詰めていく。
バレットアサルトライフルの銃口から放たれる無数の弾丸が、無防備なオレジネラの皮膚を貫通し、青黒い血が飛び散る。
体を覆っていた羽毛が頑丈な分、その下に隠れていた皮膚は、思っていた以上に柔らかいようだ。
このまま呆気ない幕引きかと思った矢先、信じられない速度でオレジネラの体から羽毛が生え揃う。
「っ!?」
危険を察知したユノは、素早く自身の機体を後方へ下がらせようとした矢先、オレジネラから羽根が無数の放たれる。
接近し過ぎたこともあり、放たれた羽根を避け切れず、ユノ機の左肩と脇腹、右足を羽根が貫く。
攻撃を受けてしまったユノ機だが、なんとか近くの廃墟と化した高層ビルの後ろに隠れることに成功した。
「大丈夫ですかユノ中尉!?」
「平気よ!機体のダメージも操縦に支障が出るほどじゃないから」
通信回線を通してユノの無事を確認したサラリエは、ユノが無事なことに安堵の表情を浮かべる。
「にしても私が思っていた以上に羽根が生える速度が速かった」
「倒すには羽根がなくなった隙を狙うしかなさそうです」
「玉切れに追い込みつつなるべく接近して一気にトドメを刺す感じね」
オレジネラの羽根を玉切れに追い込んでも距離があれば、さっきのように体から羽毛が生え、寸前のところで阻まれてしまう。
そうさせないためには、ユノの言う通り、オレジネラに羽根を撃たせ続け、それを上手く避けながら接近し、玉切れになったところを狙うしかない。
しかし、弱点である首は、常に羽毛で覆われているため、現在所持している武装ではオレジネラの首を切り裂けない。
つまり、オレジネラを倒すには脳を破壊するか心臓を貫くしかないということ。
「私があいつの注意を引くからトドメお願い!」
「えっ!?」
サラリエがユノを止めようと口を開く前にユノ機が動き出し、オレジネラの注意を引くため、バレットアサルトライフル2丁を連射しつつ横移動する。
戦い慣れしたユノがオレジネラの注意を引き、羽根を消費させ、弾切れしたところをサラリエに倒してもらう作戦だ。
素早い羽根を回避し続けるのは、新兵のサラリエには荷が重いだろう。
正直、戦い慣れしたユノですら避けるのがやっとであり、少しでも気を抜けば攻撃を受けてしまう。
「くっ!?」
ユノ機の右手に所持していたバレットアサルトライフルにオレジネラの羽根が突き刺さり、バレットアサルトライフルが火花を散らす。
「ユノ中尉!」
「私のことはいいからチャンスを逃さないで!」
険しい表情を浮かべるユノは、辛うじてオレジネラの羽根を回避し続ける。
一方でサラリエは、援護したい気持ちを堪え、建物の後ろに隠れながらオレジネラとの距離を詰めていく。
下手にサラリエがユノを援護すればオレジネラの注意が変わり、作戦が失敗する恐れがある。
それを理解しているサラリエは、自身の本心を押し殺し、機体を前に進め、チャンスを待つ。
「鳥もどきに負ける訳にはいかないのよ!」
アクロバティックにオレジネラの羽根を避け、万が一に備え、なるべく自身の機体もオレジネラに接近させていく。
万が一というのは、ポストルとシレディアが倒したシュヴァのように急所を破壊したにも関わらず、討伐できなかった場合のことだ。
「よし!羽根がなくなってきた!」
遂にオレジネラの羽根が底を尽き、オレジネラは、再び全身から羽毛を生やすため、全身にエネルギーを循環させる。
「させません!」
ユノ機に意識を集中していたあまりサラリエ機の存在に気づかなかったオレジネラは、横から飛び出してきたサラリエ機に驚く。
「いきます!」
サラリエ機の両腕部から伸びる超高周波ブレードが、オレジネラの下顎を貫き、そのまま脳まで貫く。
口部から青黒い血と泡を吹き、激しく痙攣し、白目を剥いて絶命したオレジネラの全身から力が抜けた。
「討伐完了です」
オレジネラが絶命したのを肉眼で確認したサラリエは、機体のコントロールグリップを動かし、オレジネラから刃を引き抜いた。