決着
部隊をいくつかに分け、探索を始める。また、火を怖がって近付けないために、馬を管理する部隊も準備した。襲い掛かって来る魔族がいないためか、ここまではあまり時間を掛けずに進めることができた。
「よし、これでなんとかなるだろ。不測の事態になれば、俺らがいなくても対処できるはずだ」
「それでは………?」
「ああ、俺らも行くぞ。八魔将がいるはずだからな」
ユート様を信じていないわけではないけれど、敵の数が数なのだ。前にレインという八魔将と戦ったときは、あまり時間を置かず体力が底を尽いたことも知っている。途中で倒れている可能性の方が高いのだ。もしそうなっていれば、極めて危険な状態だ。何かあれば、抵抗する術を持たないということなのだから。
私はふと振り返り、カトレアに確認をしてみた。カトレアは首を振った。
「すみません……炎や魔族が焦げた臭いがひどくて、正確な場所がわからなくて………」
「いや、仕方ねえだろ。これだけ派手にやったんだからな。それよりも、とっとと進もうぜ。そっちの方が早く見つかるだろ」
「ですが、行った先がわからないのなら、探す方法が………」
「いえ、それならなんとなくわかります………」
カトレアの言葉に耳を疑ってしまう。勇者様たちも驚いた様子だった。
「ユート様のことですから、きっと一直線に八魔将のところに行ったと思うんです。他の場所はあの使い魔のような子たちに任せたのかと………」
「なるほどな。確かに、あいつは単純なとこがあるからなあ。そうと決まれば、八魔将の場所まで急ぐぞ」
ジリアン様の一声で、誰からということなく一斉に走り始めた。
「それにしても、凄まじいもんだな………」
「敵にこんなやつがいたらと思うと、ゾッとするよ……これじゃあまるで………」
そこで言葉を切る。とはいえ、その先は言わなくてもわかった。目の前に広がる光景はそれだけ凄惨と言えるものだったのだから。
五体が残っているどころか、顔が判別できるものはまだマシな方。血溜まりを作っているだけの肉片やぶすぶすと焼き焦げて小さくなった人型の何か、あるいは血溜まりに何かが沈んでいるというような死体もある。相手をしていた魔族からすれば、まさに《悪夢》だったのだろう。この世の地獄。そんな言葉が似合うと思われた。
「……?どうかしたのですか、カトレア?」
ハッとした様子で立ち止まった彼女に声を掛ける。彼女は返事をせず、その場で何かを嗅ぐように鼻をひくつかせている。前を走っていた勇者様たちも気付いたようで、少しだけ足を止めた。
「やっぱり……これ………」
「何かあったのですか?」
「クロさんの血の臭いがするんです……それに、ユート様のも」
私は目を見開き、彼女に詰め寄ろうとする気持ちを押さえた。彼女を問い詰めたところで、何かが変わるわけではない。黙ってその先を促した。
「交戦しているうちに、段々傷を増やしていったのかと……多くはないので、まだ先に進んでいると思います」
「そう、ですか……先を急ぎましょう」
駆ける速度は一段と速くなった。最奥部まではまだまだ掛かりそうだ………
※ ※ ※
「そん、な………」
私の後ろで、カトレアが声を失っている。勇者様たちにしても、驚きの表情を隠せているのはごく僅かだった。驚きを隠せないもの。それは目の前に倒れている者のせいだった。
「嘘だろ………」
「こいつはそう簡単にやられないと思ってたのに………」
血だらけになって、地面に倒れ伏している魔物。それは口を開けばすぐに皮肉が飛んでくる、決して好きとは言えない相手。だが、死んでほしいとまでは思えなかった。ことユート様のことなら、信頼することができる相手は数えるほどしかいないのだから。その数えるほどの中にいるのが、この魔物であった。
「クロ、さん………」
閉じられている目は開かない。開いた口からは嫌味が発せられることもない。それを寂しいと感じるのは、この魔物との付き合いが長くなったからだろうか。せめて、何かできることはないだろうか。そう考えて近付くことで気付く。
「………生きてる?」
「ほ、本当ですか?」
私が口元に手を近付けさせると、弱々しくはあるものの確かな息を感じ取ったようだった。そうとわかってからは行動が早い。コルネリア様がすぐに魔法を使って、傷を塞いだ。弱々しかった呼吸はゆったりとではあるが、規則正しいものへと変化する。どうやら、首の皮一枚で繋がったようだった。相も変わらずしぶとい、と少しだけ苦笑してしまう。
「クロさんだけがここにいるってことは………」
「ユートはこの先に進んだ、ってことだろうな。無茶しやがって………」
ここまでに見た魔族の数は多い。少なくとも、1万以下ということはないだろう。それだけの数を薙ぎ払いながら、一人で戦ってきたのだ。否、この魔物も含めれば一人と一体だろうか。それでも、無茶をしているということは変わらない。
「………覚悟はいいか?」
アルヴァ様が目の前にある大きな扉に手を掛ける。私たちは頷いて、何があっても対応できるよう武器に手を掛けた。
「開けるぞ」
開いた先にあったのは、先ほどよりもずっと息を呑む状況。そして、絶望を与えるものだった。
「…………遅かったな、勇者たちよ」
クロノと名乗る魔族の下に倒れ伏しているのは、血を流しているユート様の姿だった。




