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最強の八魔将

なんか今日は怒涛の投稿ラッシュになってます。明日明後日もこんな感じになるかもです。

 「ここに辿り着けたのは一人だけ、か。部下たちもよく奮戦したと言えるだろう」


 クロノはどっかりと部屋の中心に陣取って、僕を見ている。その威圧感は今まで戦ってきた、どんな敵よりも異質。こうして目の前に立ったことで、相手の強さがはっきりとわかる。こいつは全盛期の僕でも勝てるかどうかわからない。他の勇者なら、勝率はさらに下がる。……ううん、正直に言おう。こいつは他の人じゃあ勝てない。それだけの何かがある。


 「何か、勘違いしてるかもしれないね」

 「む?」

 「ここに攻め込んだのは、僕ともう一人の子だけだよ」


 クロノは目を見開く。あり得ない、といった様子で。


 「馬鹿な。ここには10万の兵が詰めていたはずだろう。それをすべて倒したとでもいうのか?」

 「邪魔する相手は薙ぎ払って来たよ。そうじゃない相手は知らないけどね」


 開いている扉からフェニフェニ、ミーちゃん、ロッチー、ギガギガが入って来る。心強い味方が増えた。これなら、と相手を見た。


 「なるほど。では、お前が超能力を使う勇者か。なんでも最強の勇者と聞く。ならば、相手にとって不足はない」


 クロノが構えを取った。僕もみんなに指令を出して、いつでも攻撃できるような体勢になる。


 「いざ尋常に………勝負!」

 「みんな、お願い」


 呼び出した炎たちが、一斉に襲い掛かっていく。僕も重力を操作することで、攻撃を仕掛けた。とは言っても、それで決まるとは思っていない。移動をある程度鈍らせることができれば、それだけで十分だと思っていたんだ。




 ――――けれど、その予想はすぐに外れることとなった。


 「…………え?」


 唐突に、ギガギガが消えた。突如として崩壊して、その場からいなくなってしまう。次いで、ロッチー。ミーちゃん。フェニフェニまでが消えてしまう。どうして、と思いはしたけれど、今は戦闘中。疑問は後で解決しようとした。

 と、そこまで考えて気付く。クロノがどこにもいない。目の前にいたはずなのに。未来視を使って探そうとすると、後ろから衝撃が走った。自分の身体を見下ろすと、お腹から刃物が飛び出している。


 「な、んで………?」


 僕の後ろに立っているのは、前方にいたはずの八魔将。油断はしていなかったはずなのに。膝から倒れ込み、咳き込んだ息には血が混ざる。


 「……そうだな。私だけがお前の能力を知っているのは不平等だ。教えてやろう」


 クロノの顔は嘲りを含むものではなかった。むしろ、称えているかのようだった。こういったところを異質に感じたのだろうか、とぼんやり考える。


 「私の能力は《時間操作》だ」


 その声は冷たく、僕の心を急速に冷やしていった。最強の八魔将に相応しい、最強の能力だった。


※               ※               ※

 「ここは……どこ………?」


 暗い、暗い、どれだけ辺りを見渡しても、何も見ることができない。そんな暗闇の中。あれから何があったんだろう、と少し前までのことを思い出していく。


 「クロノと戦ってて……時間を操る能力だ、って知って………後ろから刺されて…………」


 ああ、そうか。納得することができた。僕の身に何が起こったのかを。


 「死んじゃったんだ………」


 怖い、という気持ちはない。嫌だ、という気持ちも。ただ、悔いる気持ちはあった。もっとやれることはあったんじゃないか。せめて、敵の能力だけでも教えられていられれば。そんな気持ちはあった。それに。


 (結局、カトレアにもシルヴィにも悪いことしちゃったかなあ………)


 僕を好いてくれていた二人を裏切るようなことをしてしまった。それだけが心残りなのかな、と思う。

 そして、ここに来たということは………


 『早かったな。もう少し掛かるものかと思っていたのだがなあ』

 「……やあ、アンラ・マンユ。君にはわからないだろうね」


 僕とまったく似た姿のモノが嗤う。対して、僕は肩を竦めるだけだった。こいつとはどこまで行っても、平行線であることはわかっている。なら、相手にするだけ無駄だと思うから。


 「魂を回収しに来たんでしょ?」

 『そうだ。ようやく……ようやく待ち望んでいた時が来た!我は今度こそ復活する!』


 アンラ・マンユは哄笑する。自分に酔いしれているかのように。高々と。まあ、実際に酔っているのだと思うけども。


 「………まあ、まだ無理だろうね」

 『何?』


 目の前の邪神がぴたりと止まった。反対に、僕は微笑んでいる。ああ、あの子たちは本当にお人好しだ。僕は……あの子たちのマスターでよかった。


 「戻らないと、ね」


 気付いたときには、またあの部屋にいた。腕に力を入れて、起き上がっていくと驚いた様子のクロノが目に入った。流石にこれは予想できなかったのかな?


 「何故だ?何故そこまで戦える?自分と関係ない世界なのだろう?」

 「そうだね。確かにそうだったよ」


 思い出していくのは、召喚されたばかりの頃。この世界を救ってくれ。そんな言葉がどこか遠くのものに聞こえた。


 「でもね。ここで暮らしているうちに、ここでの生活が好きになってたんだ。ここにいる人たちを守りたい。そう、思ったんだよ」


 関わってきた人たちには優しい人がいた。ひどい人もいた。愛をくれた人がいた。憎しみを持たせた人がいた。今の僕があるのはその人たちがいるからだ。


 「そうか………まさしく、お前は勇者だったのだな」


 再びクロノが構えを取る。時間を操作する。そんな能力に対抗できるような能力はない。でも、勝ちたかった。


 「…………なーんてね」

 「む?」

 「そんなお綺麗な理由で戦えればよかったのだけれど。僕には無理だったよ」


 結局、戦うのは自分のため。自分の手前勝手な理由のせい。どうしようもない我が儘だった。


 「好きな人ができたから。守りたいから戦うんだ。好きな人が笑える世界であってほしい。戦う理由なんて、そんなものだよ」


 最強の八魔将はポカンとした顔だった。八魔将でもあんな風に驚くんだな、と思いつつ、どうすればいいのかを考えていく。……うーん、やっぱり無理っぽい。


 「ふ、ふふ、ふははははははははは!」

 「………何か変なこと言ったかな?」

 「いや、失礼。ただ、お前は勇者ではないなと思ってしまっただけだ」

 「そうかもねえ」


 惚れた女の子のためだけに戦うなんて、どう考えても勇者っぽくない。クロノの言う通りだよ。


 「………手加減なしの全力で行こう。勇者としてではなく、一人の男として敬意を示すために。お前は……いや、君はまさしく戦士である故にな」

 「ふふ、あなたは異色だねえ。なんだか嫌いになれないよ」


 攻防は一度しか交えていない。会ったのも今日が初めて。でも、僕はこの八魔将が嫌いではなかった。


 「フッ、光栄だな。では」

 「うん」


 腹をくくって、構えを取った。この一撃で決めるために。


 「行くよ!」

 「来るがいい!」


 両者が交錯した。

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