参戦
強く。ただひたすらに強く。今はその思いだけが自分の中にあり、原動力となっている。
以前ではまるで歯が立たなかった魔物すらも、今は一人で倒せるようになった。それはいまだ帰る様子のない彼への心配からなのだと思う。そして、守れなかった自分への憤りと離れてしまった寂しさなのだと。
(今日は……ッ、もう時間切れですか………)
いつの間にか夕暮れ時となっており、帰らざるを得ない状況であった。意地を張って戻らなければ、あの魔物とアルヴァ様に連れ帰られる、というのは1週間もしないうちに学んでいた。そもそも、あの魔物は影を操る魔物であると言うので、意識した影に何らかの異常があればすぐに気付くらしい。そのせいで、私は24時間監視されている、というわけだ。
……まあ、裏を返せば、ユート様がまだ無事であるということにもなるのだが。あの魔物もきっとユート様から目を離すようなことはしないだろう。そして、もしも危険が迫れば、たとえ命を落とすことになったとしても助けに行くだろう。そのぐらいには信用は置ける相手だ。気に食うかどうかは別として。
「来ましたか」
「ああ。存外真面目にやるのだな」
「……無理などとは言っていられませんので」
いつもであれば、口を開くと同時に皮肉が飛んでくる。だが、今はそんなことを言う気にもなれないのか、端的な言葉を交わすのみだった。それは私に対しても言える。どちらも皮肉を言い合うことに労力を費やすほど余裕がないのだ。守るべき人を守れなかったのだから。
「……後はどれぐらいですか」
「わからん。だが、可能な限りは上げておくのが吉だろうな。やつの戦闘能力はほとんど未知数だ」
「そうですか。明日は別のところに送ってください。ここの魔物では、もはや得られそうなものがないので」
「いいだろう」
魔物と共に影へと沈み、一瞬で元のキャンプ地へと戻ってくる。キャンプ地も未だ慌ただしく、様々な人が駆け回っていた。なんでも、レインと呼ばれる魔族が粛清を行っているらしい。男を殺し、女たちは城へと連れ帰る。連れて行かれた女性は帰って来ないらしい。魔族を恐れた人々が逃げ込むのが、このキャンプ地というわけであった。
そのためもあり、騎士たちが巡回を続けている。また、非番の騎士は各々自主練習や隊でまとまっての訓練も行っているらしい。それは恐らく、前のような屈辱を味わうことのない様に、なのだろう。
「帰りました」
「……シルヴィアか。すまんな」
「いえ。忙しいのはわかっていますので」
一度父のところへと向かい、挨拶だけする。というのも、父は避難してきた民の情報や足りないものの情報をまとめた書類に目を通すことで、手一杯だったからだ。大臣や民衆からの協力者からも力を借りているらしいが、それでも足りないらしい。なので、今は机と向き合う時間が長くなりがちなのだ。
「まだあの勇者が出てきたという報告はないが……そうなったら目も当てられん。無茶を言っているのはわかっているが、なるべく早く救出してくれると助かる」
「わかっています。心配はしないでください」
失礼します、と部屋を出た。……少しだけ嘘をついている。今の私が戦っているのは、国や世界のためではない。たった一人の想い人のためだった。悪いことだとはわかっているけれど。それでも、今の私にはそのことだけしか考えることはできなかった。
※ ※ ※
湯浴みを終え、簡素な食事を貰うとすぐに食べ終える。王族とはいえ、食料は有限。しかも、魔族のせいでほとんどない状態といえるのだ。自分だけ豪勢なものにしろ、などとは口が裂けても言えなかった。
(明日は……そうですね。そろそろワイバーンか何かにでも、挑戦してみましょうか。死にかけるような相手の方がレベルは上げやすいですし)
前までならけして思い付かないような考えを、平然とするようになってしまった。けれど、それは無駄なことではないのだと思う。レインを除いた魔族も、弱いとは言えないのだろうから。ただ守られているだけは嫌なのだ。
「……?どうぞ」
テントに付けられたベルが鳴らされたので、入ることを促した。大方、アルヴァ様かコルネリア様かと思っていた私の考えは外れることとなった。
「邪魔するぜ」
「……ごめん、こんな遅くに」
「……ジリアン様。凛花様も………」
この頃避けていた二人の来訪に、何か言おうと口を開きかけたが、それだけに止まってしまう。それは感慨深いからでも、言っても無駄だと思ったからでもない。二人が手にしているものが目に入ったからだ。
「お二方……それは………?」
手にしているものは、ジリアン様の方が使い慣れたと言っていた剣や弓、凛花様の方が刀だった。ここだけ聞けば、私を殺しにでも来たのかと思ってしまうだろう。殺気の類いがないので、構えないだけで。
「どう……したのですか………?」
「結論が出たんでな。教えに来たんだよ」
「……そうですか。どんな結論に?」
ジリアン様と凛花様は顔を見合わせて、一度頷いた。答えたのは凛花様だった。
「行くよ、私たちも。ユートを助けに」
「……いい、のですか?」
私はつい、そう口に出していた。だって、到底信じられなかったから。けれど、二人の意思は固いようだ。躊躇することなく、頷いていた。
「……きっと、私たちだって逆の立場ならそうしてた。だから、さ………」
「あいつの気持ちもわからなくはねえからな。それに、何度も助けられたんだ。それを忘れるほど恩知らずじゃねえつもりさ」
「では………」
「ああ。またよろしくな、姫さん」
ジリアン様に手を差し出され、それを握り返す。少しだけ光が見えた。そんな気がした。




