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星空の下で

 (ど、どうしましょう………?)


 いつの間にか夜になってしまい、今日は野宿をすることになってしまいました。まあ、それ自体は構わないんです。ユート君だったり、クロさんだったりがいないときは、どうしても野宿をする必要はありましたし。それに、元々そんなに裕福な家庭じゃなかったですから、自然の中で寝泊まりすることには抵抗がありませんし。問題はそこじゃなくて……と目線をちらり、と歩いて来た方角へと向けます。

 火が焚かれていて、まだ明るいそちらは他の皆さんや王様たちがいるところです。そして……シルヴィアさんと凛花さん。ジリアンさんもいます。その3人を思い出すと、やっぱりため息をつかざるを得ません。


 (すごく雰囲気が悪くなってしまいましたし………)


 凛花さんたちが言うには、まだ気持ちを整理できていない。どうしてもユート君が面倒を見ていた子を……リン君を殺したことを思い出してしまい、躊躇してしまうんだそうです。その気持ちがわからないこともないですから、それを責めることはできないんです。

 けれど、シルヴィアさんにもシルヴィアさんの事情がありました。シルヴィアさんはユート君に恋をしてるみたいで……離れているのが辛いみたいなんです。それに、最後に見たときにユート君は死んでしまうんじゃないか、と言うほどに青い顔をしていたそうです。どこか怪我をしているかもしれない、病気なのかもしれない。いや、それどころかあの八魔将がいつ気が変わって、殺そうとするかわからない。そんな不安が付き纏っちゃうみたいなんです。


 結果、シルヴィアさんと凛花さん、ジリアンさんは激しい口論になっちゃいました。その様子はまるで戦いをしているかのようで、見ている私の方が身が縮こまる思いでした。


 (それだけじゃないですし………)


 加えて、王様も王様で機嫌が悪いようです。対抗策が思い浮かばない上に、娘が自ら危険な場所に飛び込もうとしている。更にはお城を奪われて、人質も取られた状態だからだそうです。いつもよりも顔に凄みが増していて、口数も少なくなっています。

 騎士の人たちも何もできなかった悔しさからか、何かに当たる人が多い気がします。

 要するに、今は雰囲気が最悪なんです。誰も彼もが苛立っていて、冷静じゃない状態。ですから、どうしても眠ることができなくて、あの場所を抜け出してここまで来ました。静かで、虫の音だけが響くここに。こんなときでも、星が綺麗に見えます。


 「……どうした、こんなところで」

 「ひゃ、ひゃあっ!?あ、アルヴァさん……脅かさないでください………」

 「脅かしたつもりはないのだが、気に障ったのなら謝ろう」

 「い、いえ、ボーっとしていた私も悪いですし………」


 いつものように表情を変えないアルヴァさんに、少しだけホッとします。ああ、この人はいつも通りなんだな、って。


 「あ、アルヴァさんはどうしてここに?」

 「君が一人で出ていくのが見えてな。伴を一人も連れずに出ていくのは危険だろう」

 「あ、あはは……すみません………」


 私は思わず、引き攣った笑いを浮かべてしまいます。そう言えばそうですね。はぐれた魔物がいないとも限りませんし、魔族が探し回っている可能性もないとは言えませんし。


 「あまり、あそこには居たくなくて。今はすごく、ピリピリしていますから………」


 どこか、は明確に言わなくてもわかってくれました。アルヴァさんは頷いて、そのまま待機しています。戻る様子がないので、私は首を傾げました。


 「あの、アルヴァさん?戻らないんですか?」

 「君を一人にしておくわけにもいかん。戻るまではここにいよう」


 アルヴァさんが残ってくれる、と聞いて、ホッとします。そして、鼓動の音が煩いほどにドキドキと聞こえてきます。

 ……むこうは何とも思ってはないと思うんですけどね。気付かれないように、ではありますが、肩を落とします。


 (……まあ、伝えてみたらいいんじゃないかな?相手はアルヴァさんだしさ)


 ふと、ここにはいないユート君の声が聞こえた気がしました。昨日、そう言ってくれたんですよね。いつものようにボーッとした様子じゃなくて、不思議な様子で。あのときはまるで、ユート君がユート君じゃないみたいに感じました。


 (アルヴァさんは戦うことにしか目が行かないだろうからさ。伝えなきゃわかってもらえないと思うよ?)


 ユート君はそう続けてました。それは何となくわかったので、曖昧な返事だけを残して部屋へと戻りました。

 今は二人っきり。伝えるのには場違いかもしれません。でも、今伝えなければ、ずっと言う機会がないかもしれません。それは嫌でした。


 「あの……アルヴァさん」

 「なんだ?」

 「……あなたのことが好きです」


 時が止まったかのように感じます。時間にすれば何秒かのことかもしれませんが、私には何時間にも感じられました。


 「……好かれるようなことをした覚えはないが」


 戸惑ったようにアルヴァさんが答えます。そうですね、とほんの少しだけ笑います。


 「だからです」

 「…………?」

 「私、いつもどんくさいですし、普通にしててもイライラさせることが多いみたいで。男の子は挙って寄って来ちゃうんですけど、それが気に食わない人も多かったんです」


 女の子たちの嫉妬でしょうか。私は苛められることが多かったんです。男の子たちがいない場所で、酷いことをいっぱいされました。それこそ、人に言えないようなことまで。


 「だから、私のことを好きになってくれる男の子が……特に、同い年の子が苦手になっちゃったんです」


 触れることどころか、近くに来ることも怖くなってしまいました。そのせいで一人になることも多くなって……両親に心配を掛けてました。

 こちらに来て、最初は怖いことの連続でした。またあんなことになったら、どうしようって。でも、実際はまるで違いました。

 凜花さんも、シルヴィアさんも。メイドさん……はちょっと違うような気もしましたけど。みんな優しくて、本当に嬉しかったんです。お別れになるのは寂しいと思うほどに。


 「それとどんな関係が?」

 「安心できるんです。アルヴァさんはただ普通に助けてくれますから。必要なときには助けてくれて、その後は距離を取ってくれて。でも、気を掛けてくれてるのはわかりますから」

 「それだけだろう」

 「それを長い間続けられたら、気にもなっちゃいます。好きになるまでには、時間も掛からないですよ」


 本当に嬉しかったんです。今まで誰にも助けを求められなくて、誰も助けてくれませんでしたから。好きになるな、って言う方が無理だと思います。


 「……すぐに答えてくれなくてもいいんです。私、待ってますから」

 「そうか。すまんな」


 それっきり、会話をすることはなくなりました。それでも、伝えたことは間違いじゃないと……そう信じました。

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