身体の異変
いつからだろうか、身体の違和感に気付いたのは。最近だった気もするし、もっと前だった気もする。表に出さないようにするのは大変で、そのせいでより体力を使ってしまうと言っても、間違いではないと思う。
身体が熱い。まるで焼いた石を身体の中へと入れられたかのように。時折よろけたり、物を落としてしまうこともある。
「おはよう、カトレア」
「おはようございます、ユート様」
けれど、絶対に心配を掛けたくない人がいる。だからこそ、今日も笑うのだ。笑ってなんでもないと言い聞かせるのだ。
あくまで、いつものように。
※ ※ ※
囚われてから、一週間が過ぎた。僕たちに条件を示したレインさんは、あの後頻繁に顔を見せた。けれど、特に何かをしてくるということはなく、ただ話をする程度。たまに軽いスキンシップをしてくるぐらいだ。僕を兵器として使う気はないらしい。なんでも、そんな酷いことはできないわ!だとか。よくわからない。
だから、今はのんびりしていることが多い。体調が悪いことを見透かされてか、激しい運動の類いは禁止されてるけど、お城の中は好きに歩き回れる。何かあれば、レインさんの部下の人……というか、魔族に頼み事ができるし、むこうも快諾してくれる。正直、いつもよりも行動しやすいかもしれない。そう思うぐらいには、ここでの生活が馴染んでいた。
(それに、ねえ………)
カトレアの自由も認めてくれているのが、ありがたいところだった。いつもだとやれ亜人だからだの、やれ衛生的にだので、なかなか何かをすることが難しいカトレア。でも、周囲が全員魔族だからか、いつもなら使えないようなところも普通に使えるらしい。水浴びで済ませてるのに、お風呂に入れるのは助かる、って言ってたし。
最初は裏があるんじゃないか、って疑ってたみたいだけど、あまりにも変わらないものだから気付いたみたい。レインさんはアメリアって名乗っていたあのときから、何も変わっていないんだって。というか、本性を思いっ切り見せてたって。
そんなこんなで二人して、のんびり過ごせてる。とは言っても、どちらもそんなに変わらない日常だけど。僕はのんびり過ごす、カトレアは僕の面倒を見るって感じで。それに、戦わなくていいっていうことと、多少の自由が付いたぐらいかな。
「……今日も変わりませんね」
「うん。まあ、残りの八魔将がいなければ、今の方が過ごしやすいから良くはあるんだけどね」
「そう、ですね……本当に………」
カトレアは何か考え事をしているのか、黙り込んでしまった。何を考えているのかまではわからなかったけど。ただ、何処か違和感を感じた。何かおかしいような、そんな気がして。
「ねえ、カトレア」
「……何でしょう?」
「どうかした?」
しばらく静寂の時間が続いた。その時間に、違和感はあってたのかな、と思う。きっと話してはくれないのだろうけど。そのぐらいには、カトレアのことがわかって来ていたから。
「……すみません」
「別にいいけど……何かあったら言ってね?カトレアにいなくなられたら困るから」
「…………………はい」
間はあったけど、きちんと頷いてはくれた。僕も話を終えるように、もう一度ぼんやりとする。……でも、胸の中にしこりのようなものは感じるのだった。
※ ※ ※
(お風呂ぐらいは一人で入れるからいいんだけど……やっぱり、不便なものは不便だなあ………)
ぜえぜえと息も絶え絶えだったところを見兼ねたのだろうか。お風呂から部屋へと戻るときに、女魔族さんの力を借りちゃった。と言うより、運ばれた。だんだん情けなくなってくる今日この頃だよね。仕方ないとは言えさ。
ゴロン、とベッドに寝転がる。考えるのはここ最近の身体の調子のこと。日に日に悪くなっていくのに、進行を止める方法どころか、遅くする方法すら思い浮かばない。もはやお手上げ状態だ。どうすればいいんだろう、とそればかり考えている。今日も思い付かないのだろうけど。
(せめて、ルーちゃんかチーちゃん辺りに連絡が取れればなあ。もう少しいい方法とか思い付きそうだけど、っと?)
軽くノックをされたので、そのまま入っていいよー、と生返事で答える。別にわざわざノックなんかしなくてもいいのにな、と思う。だって、入って来るのはカトレアだろうし。魔族とかレインさんだったら、何もせずに入るしね。
いつものように寛いでいるのだけど、自分の格好を見下ろして気付いた。お風呂と運動(歩いただけが果たして、運動と呼べるのかどうかについては置いておくとして)をしたから、結構体が火照っていた。で、運んでくれた魔族さんも気を遣ってなのか、体温を上げるような魔法を使うし……はっきり言って、暑かった。なので、薄着の服をだらしのない格好で。早い話が、軽くはだけたような格好でゴロゴロしてた。
(……カトレアに怒られるかな?失敗しちゃったな………)
とは言っても、今更な話。案の定、カトレアはズンズンとこちらに近付いて来た。仕方ない、ちゃんと謝ろう。そう思って、身体を起こした。
――――再びベッドに押し倒されるまでは。
「カトレア?どうしたの?」
急にこんなことをするなんて、珍しい。というか、初めてだ。他の誰かなのか、と訝しむけれど、そんなことをする必要はないよね、と思い直す。特に、レインさんは下手なことをすると烈火のごとく怒るし。メリットがないはずなんだ。
じゃあ、どうして?と考えている間にも、事態は進行していた。それだけで済めばよかったんだけど……気付いたときにはもう手遅れだった。
「………………ごめんなさい」
「え、何が………むぐっ」
あっという間に唇を塞がれ、服に手を掛けられる。それはどこか前の世界での兵士たちを思い出させるものだった。
ものの数秒も経たないうちに、するすると服を脱がされていた。目の前にいるのは、顔が不自然に赤く、息を荒げている僕のメイドさんの姿だ。
「カトレア………?」
「ごめんなさい……ごめんなさい………」
彼女の体が覆い被さる。最後まで僕は何が起こっているのか、理解することができなかった。




