四番目の八魔将
「八魔将が出た」
「……唐突だね。どこで?」
「この王国でだ。悪いが、皆にはそこに行ってもらいたい」
朝食の場で急に王様が頭を下げたと思ったら、八魔将が出たんだって。面倒だなあ。でも、シルヴィは行くだろうな、とぼんやり考える。責任感は強いしね。
「……それにしても、何故お前はそんなことになっている?」
「……ん?ああ、チーちゃんがボイコットしてて、気を抜けば寝ちゃいそうだからだよ………?」
チーちゃんは自分は邪魔だろうから、という理由で能力を使わせてくれない。その代わりに、カトレアが僕の口元に料理を運んでくれているんだよね。僕はもそもそと食べるだけ。途中からシルヴィが入ってた気もするけど、食べれればいいんだよ?たぶん?
「シルヴィアも自重しなくなったよね。まあ、仕方ないといえば仕方ないのかもしれないけど」
凛花さんの声が聞こえた(気がする)。駄目だ、すごく眠い。だから、朝は嫌いなんだよね……その後も、何かが聞こえたような気はするのだけど、一切の記憶はなかった。
※ ※ ※
「ぶはははははは、あの野郎の面見せてやりたかったぜ!すっげえ複雑そうな顔してたからな!」
「何?それは本当か?チッ、出ておくべきだったか」
いまだに笑い転げてるジリアンさんと、悔しがっているクロを見ながら、この人たちは暢気だな、と思う。にしても、なんで複雑そうな顔をしてたんだろう?何か変なことでもしたかな?
「いや、話をほとんど聞いてなかった上に、自分の娘が取られそうになってんだからな。かと言って、へそを曲げられりゃあ、国が亡ぶような相手なわけだしよ。文句を言うわけにもいかねえんだろうさ」
「そっか。大変だね、王様も」
まあ、自重はしないけど。王様はいろいろやらかしているみたいだし、あの人のことを好きなわけでもないし。するとしたら、シルヴィに頼まれたときぐらいじゃないかな。
「ということで、主よ。今後も同じことを続けるといい。あいつがそのようになっているのなら、こちらとしては嬉しい限りだ」
「クロはひどいよねえ………」
「いやいや、俺も同意見だ。あのオッサンはちっとばかりいてえ目見るべきだしよ」
「ジリアンさんはそっちの方が面白そうだからじゃないの?」
「そりゃそうだ」
またケラケラと笑い始める。クロも悪い笑みを浮かべているし、何がどうしてこうなったんだか。
「お待たせいたしました。こちらも準備は終わりました」
いつもならここでクロが喧嘩腰になるのだけど、今日は鼻を鳴らしただけで終わった。クロもクロで思うところがあるのかな?いつかは仲良くしてくれるといいのだけど。心の底からそう思う。
「んじゃ、行くとするかね。ユート、場所はわかってんのか?」
「うん、そこは大丈夫。行ったことがある人から、場所の記憶を読ませてもらったし」
ただ、すごく怯えていたんだよね。そんなに怖がらないでも、痛くも記憶がなくなることもないのに。でも、初めての経験だから仕方ないのかな?言葉だけじゃ伝わらないこともあるみたいだし。ちなみに、情報源はチーちゃんです。
「それじゃあ、行こうか。みんないる?心の準備も大丈夫?」
みんなからの返事を待つ。幸い、すぐにみんなは準備ができたみたい。
それなら、と指を鳴らす。一瞬で景色は変わり、気付けば目的地に着いていた。
「ここが八魔将がいるところ?なんて言うか、寂れてるね?」
シルヴィが苦笑しながら、答えてくれる。
「ここはまだ開拓中の村ですから。十分に繁栄はしてないんですよ。それに、名産となるようなものがないところでは、どこもこのような状態なのです」
「ふーん、そうなんだ……っと」
再び指を鳴らす。すると、こちらに向かって来ていたものが消える。数秒後には、カキンッという音をして、何かに弾かれたのがわかる。なるほど、これはちょっとめんどくさそうな敵だな。そう思った。
「一応聞いておくけど、君は誰で、目的は何?それと、今のは攻撃しようとしたってことでいいのかな?」
「ほう、防ぐとはな。ワシの名はリゼン。八魔将が一人よ。わざわざ罠に掛かりに来るとは、哀れな人間共だ」
「罠だと?」
「そうだ。これでもわからんか?」
突然、周囲に魔物の群れが現れた。その数は100や200じゃないだろう。恐らく数千、最悪万を越えてるかもしれない。先に攻撃を仕掛けられると思っただけあって、みんなは顔を歪めていた。
「マジかよ……わざと情報を掴まされたっつーのか………!」
「そうとも。そこの銀髪の女を殺そうとしたが……よく気付いたものだ。それだけは褒めてやろう。さあ、お前たち。そいつらを………」
「そう。シルヴィを狙ったんだ。わかったよ」
敵は万を越えているかもしれない?そんなのは気にすることじゃない。敵の大将がどこにいるかわからない?それもどうでもいい。敵のからくりがわからない?そんなの、わからなくてもどうにでもできる。考えることはただ一つ。
「……なら、君は僕の敵だ」
僕は明確な殺意を持って、見えない敵との戦いに挑むのだった。




