桁が違う能力Ⅲ
「マスターの幸運はそこで終わりませんでした。用意された肉体の組成が予定されていたものと違っていたのです。まあ、ちょっとした手違いとミスのせいでですね。それが奇跡的に完璧と言ってもいい組成だった。それにより、肉体の方のコンディションもよかった。また、『座標移動』はマスターと気が合ったのか、マスターに協力的でした。そのおかげもあって、異色の超能力者になったのです」
「なるほど………」
「加えて、能力の近くを通り掛かったことで、あの空間へのアクセス権を得ました。マスターに興味を持った私たちは彼に力を貸し、マスターは7つの能力の所有者となりました。そのときには最大でも能力は一人につき3つまで、と考えられていただけあり、かなり異色の能力者だったのでしょう。ですが、マスターが異色である理由はシンクロ率が高いこと、また、使える能力が多いことだけではありませんでした」
え、そうなの?それだけだと思っていたのに。チーちゃんの話に、内心かなり驚いていた。他の人も驚いてたけど。
「と言いますと?」
「マスターは超能力を重ねることができたのです。先ほどの火の鳥を覚えていますか?あれも複合能力の一つなのです。具体的には『操炎』、『思考共有』、『超念動』の3つを組み合わせた技ですね」
「あれがそうだったんだ………」
「能力を重ねることは、元々強力な能力をさらに強めます。同時に発動させるのが足し算ならば、重ね合わせるのは掛け算といったところでしょうか。火の鳥で例えれば、『操炎』の190%、『思考共有』の170%、そして私の400%。1.9×1.7×4で、12.92倍の能力ともなります」
あ、フェニフェニってやたら無双してたけど、そういう理由だったのか。そりゃあ、普通は100倍以上も威力が違う力とぶつかり合ったら、こっちが勝つよね。
「なんか、とんでもないんだね。ユートって………」
「確かに私たちも驚いていますよ。私やルーの能力は、ほぼ全盛期の神の力と同じ程度です。ここまで力を振るえるようになるとは思ってもいませんでした」
凛花さんが呟いた言葉の後に、チーちゃんが同意して、補足を加えた。でも、また空気が固まっちゃった。うん、まあ、僕もびっくりしてるからね。
「神と同じ力………?」
「ええ。ちょうどいいですね。私の力を見せて差し上げましょう。この程度なら造作もないことですから」
チーちゃんは微笑み、足元に視線を落とした。時間にすれば、ほんの10秒ぐらいだったと思う。いきなり、グラグラと揺れ始めた。無茶苦茶するなあ。
「な、なんだ!?」
「地震!?」
「いいえ、違いますよ。外を見ていただければわかるかと」
チーちゃんはさっちゃんに頼み、バルコニーへと移動した。そこで、みんなは言葉を失うことになった。
「城が、浮いてる………」
「これが私の力です。手を触れずに物を動かすことができます。重量は無制限。発動させる条件はただ一つ。私の視界の中に入ることです」
「これが、神の力………」
「これぐらいで驚かないでほしいですね。次は大陸ごと持ち上げてあげましょうか?前に試したことがありますし、できますよ?」
チーちゃんの言葉にみんなが顔を引き攣らせている。アルヴァさんも顔には出してないけど、体は硬くなっているし、緊張はしてるみたい。
『大丈夫だよ、チーちゃん。たぶん、みんな身に染みてわかってると思うよ?』
「そうですか?マスターがそう言うなら、仕方がありませんね。やめておきましょう」
その場にいる全員があらかさまにホッとしていた。まあ、大陸ごと浮かせたら、事情を知らない人たちがびっくりするよね。止めれてよかったよ。
チーちゃんはお城をゆっくりと戻すと、元の場所に戻った。そして、その場にいる人たちの顔を見ていった。……騎士の人たちは無視されてたけど。
「それでは今日はここまでにしておきましょう。あの子だけ説明できないとなると、拗ねるでしょうからね。まだあるというのなら、後日お答えしましょう」
「ああ、わかった。俺たちもあんたみてえな話がわかるやつがいてくれるとわかっただけでも、ありがてえよ」
「そうですか。それでは、私はこの辺で。ああ、それと一つ。これは忠告です」
チーちゃんがポン、と手を打ち、王様と騎士たちの方を向いた。
「あなたたちには思うこともありますが、マスターの手前です。恨み辛みを言うのはやめましょう。けれど……気を付けてくださいね?今のところの評価が最低のあなたたちは、少しでも機嫌を損ねれば首が飛びますよ?ええ、物理的に」
「……誰の機嫌を損ねると、そうなるのだ?」
「次の子ですよ。マスターがさっちゃんと呼ぶ、原初の能力のことです。もし対応を間違えれば、神の能力を超えた力があなたたちを襲います。……忠告はしましたからね?」
その言葉と共に、チーちゃんは意識を明け渡した。……別に、さっちゃんはそこまで怖くはないと思うのだけど。そう思っていると、その当人に意識が渡ったようだ。それを感じた。
「ヤッホー、紹介に預かったさっちゃんこと『座標移動』だよー!よろしくね!」
……なんだか、最初の挨拶はやたらとテンションが高かった。いつものことだけどね。




