桁が違う能力Ⅱ
すみません、結局7話以上になりそうです………
『おやおや、困ったものですね。あの子にも』
「そうだよね。ルーちゃんはもう少し物腰を柔らかくしてもいいと思うんだ」
7つのうちの5つまでが終わり、残す能力は2つだけとなった。でも、ルーちゃんも含めてだけど、ここから先は文字通り次元が違う能力たちだ。驚きすぎて心臓が止まらなければいいんだけど。切実にそう思うよね。
『さて、それではあの方たちへのフォローは私が行いましょう。説明するのも、私の方が得意だとは思いますし』
「うん、お願いね。チーちゃん」
「確かに承りました」
チーちゃんにお願いして、体を貸した。みんなも今度は驚かないみたいだ。
「で?あんたがチーちゃんとやらでいいのか?」
「ええ、その認識で合っています。『超念動』という能力が私の正体です。マスターからはチーちゃんと呼ばれていますね」
「……なるほど。こりゃ確かに、こっちの方が説明してくれそうだな」
そうなんだよね。チーちゃんは実質、能力をまとめる立場にいるから、説明が上手なんだ。それに、面倒見はかなりいいし、ため息はよくついているけれど、めったに怒ることはない。だから、こういうときは一番頼りになるんだよね。
「それでは何から説明しましょうか。質問にはなるべく答えるつもりですよ」
「んじゃあ、まずは一つ。超能力が何なのか。それが知りてえ」
「ええ、ではそこから話すことにしましょう」
長くなるでしょうから、場所を移動しましょうか。と座れて、大きめの部屋があるか王様に聞いた。王様も聞きたいことがあるのか、すんなり答えてくれた。能力を使って、すぐに移動を終える。
「まず始めに。マスターから、超能力が神からの贈り物のようなもの、と言っていたのは覚えていますでしょうか?」
「ああ、まあ、一応な」
「簡易的な説明なら、それで十分でしょう。事実、マスターは私たちがどうして生まれたのか、ではなく、何者であれ共にいることをお望みですから。面倒そうだ、と判断した説明は省いたのです」
「ん?てーことは、微妙に違う、っつーわけか?」
ジリアンさんが問いかけると、チーちゃんは頷いた。
「ええ。あながち間違いなわけではありませんが、正解でもありません。超能力の正体、それは神の能力であるからです」
「なあっ………!?」
またもや沈黙が広がった。表情を崩していないのは、アルヴァさんぐらいだ。というか、アルヴァさんは鉄面皮過ぎないかな?
「昔々。まだ神が何柱も存在していたときのことです。それはそれは平和な時代でした。人は神の恩恵を受け、争いや闘争というものは存在しなかった時代です。
ですが、そんな時代は長くは続きませんでした。一人の神が、神をまとめる立場である最高神の座を狙ったのです。その神に同調する神々も存在し、神々による戦争が始まったのです」
「神であろうと、人とあまり変わらない、ってか?」
「そうかもしれませんね。激化する戦争に、何柱もの神々が倒れ、死んでいきました。そして、最後に残ったのは最高神ただ一人だったのです」
チーちゃんは痛ましそうに物語を紡いでいる。その話に耳を傾けていない人は、一人もいなかった。
「しかし、神々の意思と能力だけは残りました。相反する意思は地上に降り立ち、人間たちを争わせました。それがマスターの世界で今も続く戦争の正体です」
「んだ、それは……完全なとばっちりじゃねえか!」
「そうですね。人間たちからすれば、堪ったものではないでしょう。ですが、戦争の正体を知るものは存在しないのです。逃れる術はただ一つ。あの世界から出ることだけです」
ジリアンさんは拳を握り、歯を食いしばっている。それだけ許せないんだろう。やっぱり優しい人だよね。他の人も大なり小なり感情を露わにしてるし、許せないという感情はあるみたい。勿論、アルヴァさんは除いてだけど。
「話が逸れましたね。もう一つの残ったもの。神々の能力は人間たちには活用できないものでした。ですが、活用できるものを人間たちは作り出したのです。それが……」
「ホムンクルス、というわけですか………」
「ええ。そして、それが超能力の正体なのです」
静寂が広がる。最初に口を開いたのは、やはりと言うべきか、冷静なアルヴァさんだった。
「すると、前にユートが言っていたシンクロ率、というものは、どれだけ神の能力に近いものかを現すものなのか?」
「そう考えていただいて構いません。ホムンクルスたちが強力な能力を得られないのは、ひとえに人間である、ということを捨てきれないからでしょう」
ふむ、と頷き、目を閉じるアルヴァさん。それと入れ替わって質問してくるのは、凛花さんだ。
「じゃ、質問。肉体が崩壊する、っていうのは、やっぱり能力に耐えられなくなっちゃうからなの?」
「それも一つの要因ではありますね。やはり、ホムンクルスには能力を受け入れることができる器があると言っても、シンクロ率は能力を使えば使うほどに上がっていきます。次第に、元のあるべき姿に戻ろうとするので。強大になる能力に肉体が耐えられず、崩壊していくことが珍しくないでしょう」
「てことは、他にもあるの?」
「ええ。痛ましいことに、ホムンクルスをただの道具としてしか見ていない人間が多いのです。そのため、栄養状態を把握しきれず、栄養失調により崩壊してしまうもの。メンタルが不安定になり、能力が暴走して崩壊してしまうもの。そして、無理な投薬により崩壊してしまうもの。このように、幾多にも要因は存在します。ですが、それはホムンクルスを一つの生き物として見て、しっかりと管理しようと思えば防げた事態なのです」
凛花さんもどうやらお気に召さない様子。なんだか、ジリアンさんと凛花さんってちょっと似ている節があるよね。だからいつも仲がいいのかな?喧嘩するほど仲がいいって言うし。
「……なんか、すごい不服なこと言われた気がする」
おっと、凛花さんは心が若干読めるんだった。気を付けないと。
「ええと、それじゃあ、私からも一つお願いしたいです………」
「構いませんよ。あなたには私も目を掛けているのです。遠慮はしないでください」
おずおずと手を挙げたカトレアに、チーちゃんは微笑みかけている。穏やかなチーちゃんの様子に、カトレアも安心したようで、質問をした。
「あの、ユート様のことなのですが……ユート様は肉体が崩壊する危険性はあるのでしょうか………?」
場が一気に緊張した。そうか、そんな可能性もあるんだよね。そこのとこはどうなんだろう?
「……そうですね。質問内容に答えるのなら、『恐らく』ないでしょう」
「『恐らく』、なんですか………?」
「……はい。不確定な要素が大きいので、一概にこうとは言い切れないのです。あまり危険な目に会わせないのが最良、なのですが………」
チーちゃんもこれについてはわからなかったみたい。一応、体の中でルーちゃんに聞いてみたけど、ルーちゃんもわかんないみたい。これはお手上げかなあ?
「ですが、安心していただきたいことは一つ。このまま普通の生活を過ごす上で、超能力を使って暮らしていく分には崩壊は起こらないでしょう」
「あ、そうなのですか?」
耳としっぽをペタン、と伏せていたカトレアが、顔を上げた。同時に、耳としっぽも上がる。うーん、あれ触りたいなあ。
「ええ。マスターはここに来る前に、最高神からの贈り物をいただいています。その際に、肉体のチェックも受けていましたから。そこで問題ないと言われましたし、何もなければ少なくとも60歳までは生きられるでしょう」
「そうですか………」
見るからにホッとした様子のカトレア。それを見ていると、なんだか変な気持ちになるんだよね。なんだろ、これ?
「それでは、私もさせていただいていいでしょうか?」
今度はシルヴィアさんだ。けど、その前にチーちゃんが手を出した。まるで、待てと言うように。
「シルヴィアさん、あなたからの質問には答えます。ですが、その前に水をいただいてもいいでしょうか?マスターの体です、無理をさせるわけにもいきませんから」
「あ、申し訳ありません。急いで持って来させます」
シルヴィアさんはメイドの一人に頼んで、水を持って来てくれるみたい。助かるな、今は喉が渇いてたし。チーちゃんにもお礼を言っておこ。
「構いませんよ。あなたの身ですから。一番に考えるのは当然です」
『そっか。でも、ありがとね』
感謝の気持ちを忘れるな、って先生も言ってたし。それに、今も現在進行形でお世話になってるんだ。お礼は言いたいよね。
しばらくして、メイドさんから貰った水でのどを潤し、再びシルヴィアさんに向き直った。
「では、改めて。あなたが聞きたいことは何でしょうか?」
「はい。ユート様が今すぐ命に危険があるわけでないことは知ることはできました。ですが、ユート様はどれだけ異色の能力者なのでしょうか?それが知りたいのです」
「わかりました。……どう説明しましょうか………」
ううん、と少し考え込んで、また顔を上げた。そのときにはもう話の内容は決めれていたみたい。
「まず、そもそもの話として。マスターは生まれたときから異色だったのです。偶然の産物ではあったのでしょう。ですが、それが上手く重なった結果、マスターが生まれた」
「偶然、ですか?」
「はい。マスターが生まれたとき、生まれる前の彼の意識はたまたま神々の能力の近くを通り掛かったのです。どちらも、精神だけの状態でしたからね。とても低い確率ではありましたが、あり得なくはないことだったのです。そして、たまたま能力たちの声を聞くことができた。さらには、興味を持ったのです。それがすべての始まりでした」
へー、じゃあ、さっちゃんと会えたのも、かなりの偶然だったんだ。でも、興味を持つのは当然だと思うけどなあ。声だけざわざわ聞こえたら、普通気にならないかな?
「マスターが興味を持ったのは偶然でした。ですが、もう一つの偶然が重なります。それは、彼に興味を持つ能力がそこにいたことです。二つの精神はお互いに興味を持ち、どうにかして交信しようと手を伸ばしました。その結果、二つの精神が溶け合ってしまったのです」
「もしかして、シンクロ率が異常に高いのは………!?」
「そうです。生まれる以前から、能力と溶け合ったため、と言えるでしょう。その事実、私たちは誰がマスターの相棒だ、などと不毛な争いをすることがありますが、本心ではわかっているのです。『彼女』には勝てない、ということを」
「『彼女』………?」
チーちゃんは頷き、一度水を口に含んで舌を湿らせた。
「私たちはシンクロ率によって、能力がどれだけ引き出せるかが変わります。一番低い『物質転換』でも、シンクロ率は150%。通常の30倍です」
ゴクリ、と唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえた。
「次が『思考共有』の170%。『操炎』の190%。『重力操作』の250%と続きます。ですが、私たち3人だけは次元が違う。本当に神と同じような能力を持っているのです」
「……その、シンクロ率、はどれほどなのでしょう………?」
「……『簡易時間旅行』が350%。私の『超念動』が400%です」
あれ、そんなだっけ?前に量ったときはもっと低かったような気もするんだけど。でも、気になることがもう一つ。さっちゃんは?と首を傾げる。みんなもそれを疑問に思ったみたいだ。
「……あの、能力はもう一つあるはずでは?」
「……ええ。それが『彼女』。マスターがさっちゃんと呼ぶ能力。『座標移動』。シンクロ率は……700%です」
何度目かになる沈黙が場を襲った。けれど、今回の沈黙は少し長くなりそうだ。




