桁が違う能力Ⅰ
『……やれやれ。今からこれでは先が思いやられるな』
「あ、ルーちゃん」
『ルーちゃんはやめろ。まったく、お前のネーミングセンスは壊滅的なまでにないな』
「と、言われてもねえ………」
あんまり名付けたことなんてないんだから、求められても無理がある。それに、僕はまだ10年しか生きていないわけだし。大人がつけるような名前なんて、付けられるわけがないんじゃないかな?
『……センスは感覚の問題だ。お前にそこまでは求めてはいない』
「なら、なんでそんなこと言うのさ?」
『単に呆れていただけだ』
むう、ルーちゃんはいつも通りに不良です。なんだかんだ言って面倒見はいいから、もうちょっと仲良くしたいんだけどな。カトレアのことも助けてくれたし。
『にしても、情けない。『プロミネンス』を使用した時点で、この程度のことは予想できただろうに。いちいちこの程度で驚いていれば、私たちの番ともなればショック死でもするのではないか?』
「ええ、それは困るよ。折角仲良くなったのに」
もっといろんなところに行ってみたいし、話だってしたい。それに、今カトレアがいなくなったら、僕は一人で暮らしていけない自信がある。
『……妙なところで自身を持つな、ド阿呆が。仕方ない、借りるぞ?』
「あ、うん。ルーちゃんはきついんだから、ちょっとは遠慮してね?」
「それはむこう次第だな」
うーん、心配です。まあ、ひどいことは言わないと思うから、そこについては気にしてはいないんだけど。
「おい、そこの阿呆共。そろそろ現実に帰って来い」
『いきなり大変なこと言ってるよね………』
なんだか、カトレアが頭を抱える気持ちがわかった気がする。これからは少し自重しよう。かわいそうだしね。
「あん?いきなり口調が変わったが……どうしたんだ?」
「それを今から説明してやろうというのだ。わかったなら、とっとと戻れ。面倒なやつらめ」
「……なんか、性格が滅茶苦茶悪くなってない?」
あ、凛花さんがツリ目を怒らせてる。ルーちゃん、誤解されやすいからなあ。どうしてこう、つっけんどんというか、不器用というか?なんだろう?
「ええと、その。間違っていたら、とても恐縮なんですけど………」
「なんだ?」
「その、ルーちゃん、さんですか?」
カトレアが恐る恐る聞いてきた。僕としては、驚くしかなかったよ。だって、いきなり変わったんだから気付かないかな、って思ってたもん。ルーちゃんも同じだったみたい。目をぱちくりさせている。
「……ルーちゃんはやめろ。あいつにも言っているが、その名は不本意だ」
「え、じゃあ………」
「お前が思っている通りだ。私はお前たちが知っている優人ではない。やつの能力の一つ、『簡易時間旅行』だ。この体を借りてる、といったところだな」
「そうなんですか……やっぱり………」
カトレアは納得した様子だったけど、みんなはまだ混乱してる様子。そっちにはどうやら呆れてるみたい。ルーちゃんはせっかちだなあ。
「まあ、あいつらは放っておいてもいいか。それにしても、よく気付いたな」
「あ、それは、その、口調とか振る舞いとか、雰囲気に違和感があったので……それに、ユート様がルーちゃん、って呼んでいたのを聞いたので………」
「ふむ。だが、体を借りれる、というのはどこから判断した?」
「前にメアさん、という別人格がいたので、もしかすれば別人格の方かな、と思いまして………」
カトレアが挙げていく理由に、ちゃんと耳を傾けているルーちゃん。こういうときは決まって感心してるんだよね。もしかして、気に入ってくれたのかな?だとすれば、嬉しいんだけど。
「いや、よくそこまでの情報で導き出せたものだ。素直にお前は誇っていいぞ」
「は、はあ……ありがとう、ございます?」
「お前になら、この阿呆なマスターでも任せられるな。しっかりと手綱を握っていてくれ」
「はあ……はいっ!?」
あ、カトレアがびっくりしてる。どうしたんだろ?
「え、その、それって……あ、もしかしてですけど、主従として、っていう………?」
「何を言っている?夫婦としてだ。お前も惚れているのだろう?マスターの方もお前といるのは心地よく思っているようだし、ちょうどいいだろう」
「あ、あわわわわわわ………」
ボフン、という効果音が聞こえてきそうだった。それぐらいカトレアは顔が真っ赤になっている。ルーちゃん、いきなり過ぎるよ……もっとこう、互いの気持ちとかあるんじゃない?本で読んだんだよ?
「……だから、マスターは阿呆なのだ。どう見ても、こいつがマスターと一緒にいたいと思っているのは明白だろう。むしろ、はっきりさせておかない方が酷というものだ。それに、マスターは一人で生活すらままならん上に、目を離せばすぐに無茶をする。この娘と一生を共にした方がいい人生を送れるだろうさ」
あ、カトレアがビクンビクンと跳ねてる。追い打ちでも掛けられてるんだろうか?ルーちゃん、意外と無意識のうちに攻撃を仕掛けてくることがあるからなあ……一番の被害者は、僕とフーちゃんです。
「まあ、あまり長い時間も掛けられん。手短に済ませるぞ。この娘とマスターの関係は夜にでも話し合えばいいだろう。最悪、ベッドで一夜過ごさせればいいことだしな」
「る、ルーちゃんさん!?」
「私の能力の効果は『10分以内なら時を遡れる』能力だ。まあ、早い話が未来を知ることができる、ということだな」
叫んでいるカトレアは無視ですか。うーん、これは夜にちゃんと話し合おう。終わったらフォローしてあげるんでもいいけどさ。
「お、おい、未来を知れる、って……そう言ったか?」
「そう言ったが?無駄な時間を掛けさせるな。面倒だ」
「いや、お前、せっかち過ぎんだろ………」
あ、ジリアンさんも同じことを思ったみたい。そうだよね。もうちょっと時間を掛けてもいいと思うんだ。
今度はシルヴィアさんが前に出た。
「一つお聞きしたいのですが、『未来視』とはどう違うのでしょうか?」
「あんなちんけなものと一緒にするな。あれはあくまで見るだけだ。私は五感で未来を知ることができる。より正確に、な。それに、一つの感覚器に絞って使えば、1年先のことまでは知れる。『未来視』だと、せいぜいが1ヶ月だろうさ」
「そ、そうなのですか………」
「もう一つ。『未来視』はあくまでアクティブ、自分で発動させなければ使えん。だが、私はパッシブ、常時発動しているようなものだ。まあ、いつも見えているわけではないがな。単に、自らの危険に呼応して発動している、と言っていいか。条件発動型のようなものだな。だから、変なことをしようとしても無駄だぞ、国王よ」
あ、王様に念を押しておいた。王様も顔を引き攣らせてるよ。悪いことしなければいいだけだけどさ。
「さて、私は帰るぞ。聞きたいことがあれば、マスターか次のやつにでも聞け。次のやつの方が説明好きだからな。……くれぐれも驚きすぎて死ぬなよ?」
不吉な言葉を残して、意識が戻った。ルーちゃん、なんでそう変なこと言うかなあ。顔を青くしているカトレアたちを見ながら、呆れてしまうのだった。




