戻った王城にて
「じゃあ、行くよ?みんな大丈夫?」
「おう、大丈夫だ。なんかわりいな。帰りまで送ってもらうことになっちまってな」
「別にいいよ。手間にもならないし」
申し訳なさそうな顔をしているジリアンさんにそう返す。それは事実だから仕方ない。それに、野宿はあんまり好きじゃないしね。
「じゃあ、行こっか。クロ、出てきといてね」
「承知した」
僕の影の中からクロが出てくる。それを確認して、僕は周りを見回して全員いることを確認した。うん、いるみたい。確認を終えて、指をパチンと鳴らした。これって、そこそこ技術がいるんだよね。鳴るようにするまでに、そこそこ時間が掛かったなあ。
考え事をしている間にも、見覚えのある場所へと戻って来た。そう、ここは王様に会った場所だった。どうやら、王様もいるみたい。
「お父様、ただいま戻りました」
「……ああ、よく戻った。だが、どういうことだ?何故急に現れる?」
王様はびっくりしてる。まあ、そうだよね。初めて見る人はこういう反応がほとんどなんだ。姉さんも初めて見たときはこういう反応だったし。慣れてからは足代わりに使われたけど。
「まあ、いろいろありまして………」
「それに加え、何故その男がいるのだ?追放されたはずだが………」
あ、今回もすぐに気付いた。誰が一番最初に気付くかな、と思ったのだけど……どうやら王様は人に気付く才能があるみたい。
王様が声を上げたことでようやくみんなも気付いたみたい。それぞれ驚いたような表情で僕を振り返った。騎士たちの人も、敵意を込めて睨んでくる。差別がひどいなあ。まあ、怖くはないのだけど。
「ええとね、今回から僕もついて行こうかな、って」
「……冗談を言うなら、もう少しましなものにしてほしいのだが」
王様が呆れている。そりゃそうか。王様にとっては、まだ僕は無力な一般人にも劣る勇者だった者、なんだから。でも、クロ?威嚇しないの。
「父上、勇者様方に取り入ったのでは?外での生活に耐えることができなくなったという理由で」
また新しい人がやって来た。あれ?と首を傾げて、しばらく考える。たっぷり時間を掛けても、やっぱり思い出せなかった。
「違います!彼はそのような理由で来たのではありません!」
「ならば、お前にでも取り入ったか?そのような男にいいようにされるとは、情けない限りだな?」
「……ッ、そんなことは!」
「おや、図星か?ああ、もしかすればお前が気に入ったのか?そうか、男娼代わりに連れてきたということか」
そう言って、笑い始めた。というか、シルヴィアさんの言葉で思い出す。あの人、シルヴィアさんのお兄さんだっけ。確か、性格悪いんだったよね。
ふと、隣を見れば凛花さんが不快そうな顔をしてた。どうしたんだろう?
「どうしたの、凛花さん?」
「……あいつ、シルヴィアのことを侮辱してるんだよ。あんたのことも含めてね」
「そう、なんだ」
なんだか、急速に冷えていくのを感じた。いや、寒いわけじゃない。心がだんだんと冷えていくように感じられるのだ。
そこで、誰かが声を発した。たぶん、騎士の人だったと思う。知らない声だったから。それがこう言っていたのだ。
「おい、亜人が何故ここにいる!汚らわしい!」
ふと、何かが切れたような音が聞こえた気がした。それが何だったのかは、後で知ることになる。
「……今、なんて言ったの?」
「ああ?こんな汚らわしい亜人如きが、陛下と同じ空気を吸うなどと………!」
「黙れ」
声の主を探し出し、その人物に手を伸ばす。と、同時にその騎士が宙に浮いた。足をバタつかせているけれど、だからといって地面に戻ることはなかった。
「ねえ、カトレアのどこが汚いの?言ってみてよ」
騎士に問いかける。騎士は苦しそうだったけれど、答えを返してきた。
「亜人は不浄な存在だ!獣と交わり生まれた、人間以下の………!」
「根拠もないのに、そんなこと言うの?不思議だね、あなたは」
騎士の顔が青くなっていく。首に手を伸ばしているけれど、何もできていない。
「ねえ、どうしたのさ?早く他の根拠を言ってよ。僕を納得させてみてよ」
騎士の顔が青さを通り越し、土気色になっていく。
「やめてください!」
突然、カトレアが腕に飛びついた。僕は首を傾げ、聞き返していた。
「なんで?」
「私はあなたが誰かを殺すところを見たくありません!お願いです、どうかやめてください!」
「そっか。わかった」
手の力を緩めると、騎士が地面に叩きつけられ、必死に呼吸をしていた。僕はそれを見ても、何も感じることはなかった。
シルヴィアさんの方を見る。そちらには呆気に取られているシルヴィアさんと、王様たちがいた。
「……まあ、殺すな、って言われたから殺しはしないけど。ちょっとは痛い目を見ないとだよね?」
「なに?」
頭に指を当てて、騎士たちの方を向く。その後、シルヴィアさんのお兄さんの方を向いた。
「あ、ああああ!うるさい、うるさいぞ!」
「ゾラン?どうした?」
「うるさい、うるさい、うるさい!黙れぇ!」
「ユート様!?何をしたのですか!?」
シルヴィアさんが僕の方へと駆け寄って来る。僕は普通に答えてあげた。
「別に。シルヴィアさんにひどいことを言ったから、あっちの人たちの思考を流しただけ」
「流す、って………」
「まあ、30人ぐらいはいるし、気が狂うぐらいで済むでしょ。あんなやつ、どうなってもいいし」
「ユート様、おやめください!そんなことをしてはなりません!」
シルヴィアさんにまで否定されちゃった。ううん、駄目だったのかあ。仕方ない、と手を払う。すると、お兄さんは抱えていた頭を放した。周りを見て、怯えたような目をしている。
「ユート様、あなたは……一体、どんな力をもっているというのですか………?」
呆然としたシルヴィアさんに、ああ、これはちょっと間違えたかな、と思うのだった。




