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ユート

投稿が遅れてすみません。今日は連投します。

 「ちょっと待ってください。今、ユート様って何歳ですか?」

 「え?確か……10歳くらいじゃない?」


 またもや話を遮られた。今度は歳のことのようだ。そこまで気にするようなことでもないと思うのだけど。


 「……まさか、年下だったなんて………」

 「ホムンクルスは生まれたときから、ずっと姿が変わらないからね。仕方ないと思うよ?」

 「そ、そうだったんですか……その、続けてください………」

 「うん。あの後はね………」


※               ※               ※

 投薬を終えて外に出ると、あの子が待っていた。何故か不機嫌そうな顔をして、こちらを見てくる。


 「……終わったのか?」

 「うん」

 「帰るぞ。あるんだろ、お前の部屋」

 「うん……?いきなりどうしたの?」


 さっきと全然違う態度に、僕は戸惑うだけだった。実際は戸惑ってはいなかったけど、どう返せばいいのか悩んでいたのは事実だった。


 「なんにもねえよ」

 「そっか」

 「……さっきの話。全部本当か?」

 「ん?ああ、廃棄だったり、生まれて4年だったりのこと?ほんとだと思うよ」

 「……何にも、思わないのか?」

 「感情を抑える薬も打たれてるし。僕のは強力過ぎるから、感情がなくなってるのかも」


 金髪の子が立ち止まる。拳を握って、何かを耐えているかのようだった。


 「……悪い。あたしは考えなしだった」

 「別にいいけど?」


 薬を打つのは確定だったし、謝られるようなことでもない。この人のせいでもないのだ。


 「……殴っちまって、ごめんな」

 「いいよ、別に。先生に聞いたけど、ああでもしないとやりきれなかったんでしょ?」


 あの後、先生に聞きに行ったのだ。どうしてあの子は僕を嫌っているのだろう、と。返って来た答えがこれだった。まあ確かに、理屈としては理解できた。同じことは思えないのだろうけど。


 「……そうか」


 僕たちは二人で、部屋へと戻っていった。これで終わりかな、って僕は思ってた。嫌っているのなら、わざわざ僕に会いにくる必要はないだろうから。だから、次の日に彼女が僕の部屋に来たときは、思わず二度見してしまったのだ。


 「どうしたの?」

 「お前、話すようなやつはいねえんだろ。話し相手になってやるよ」

 「でも………」

 「いいから!あたしのことは、姉かなんかとでも思え!」

 「うん。じゃあ、姉さんでいいのかな?」


 別に断る理由もなかったし、頷いておいた。すると、急に顔を赤くした。僕はその様子を見て、首を傾げる。


 「は、破壊力すげえな、これは……と、ともかくだ!よろしく頼むぞ、ユート!」

 「ユート?」

 「お前のことだよ。U‐10とか味気ねえだろ?そっから取って名前にしてみたんだよ」

 「名前………」

 「ま、勿論気に入らなかったのなら、別にいいがよ。他の考えるし………」

 「ううん、これでいいよ。そっか、名前かあ………」


 なんとなく、名前を付けてくれた、というのが特別なことに感じた。そのときはわからなかったのだけど、あのとき僕は間違いなく喜んでいたのだと思う。


 「さてと、こっからどうする?なんかするか?」


 その言葉に頷き、姉さんと共にあれやこれやと考えるのだった。


※               ※               ※

 「そうですか……じゃあ、そのお姉さんが味方だったんですね。もう一人の」

 「うん」

 「その方は今はどうされてるんでしょうね………?」

 「死んじゃったんだ。僕の目の前で」

 「え………?」


 姉さんが死んだときのことを思い出す。あれは先生が死んだ、すぐ後のことだった。


 『ユート!ここにいたのか!』

 『ねえ、さん………?』

 『ああ、逃げるぞ!』


 姉さんは僕を無理矢理立たせると、出口に向かって走り始めた。ぐいぐいと強い力で引っ張られた僕は、逆らうこともできずに後をついていく。そうして外に出ると、白い扉がそこにはあった。今思えば、あれが異世界召喚の扉だったんだろう。その扉を見て、姉さんは逃げるのにはその扉からしかないと思ったのだろう。


 『……ユート。生きろよ?』

 『え?』


 気付いたときには、僕はその扉に向かって投げられていた。最後に見えたのは、銃弾を大量に受けた姉さんの姿。僕は同じことを二度も繰り返してしまったのだ。

 そして、白い空間で神様と会った。先生と姉さんを埋葬してくれると言われてなかったら、僕はあの世界に残ったかもしれない。あれがあったからこそ、僕はこうしてここにいられる。


 (あと………)


 どうして名前だけは忘れなかったのか。それは簡単にわかった。

 忘れてはいけないものだったからだ。僕が持っていたものの中で、大切な二人から貰った、本当に大事な贈り物。忘れられるわけがなかったのだ。だからこれだけは手放さなかった。


 (二人のためにも、カトレアのためにも、ちゃんと生きないとなあ……ぽっくり死んだら、姉さんに怒られるかも)


 聞いてはいけないことを聞いてしまったんじゃないかと、落ち込んでいるカトレアの頭を撫でながら、そう思った。まあ、すぐに撫でようとするのは、姉さんによく撫でられていたからだと思う。そして、先生にも。


 『……い、おーい、聞こえてっか?』

 「え?姉さん?」


 ふと、姉さんの声がした。辺りを見回してもいないことから、空耳だったのかもしれないと思い直す。が、その考えはすぐに否定された。


 『ああ、ユートの方は聞こえてんな。おい、お前も聞こえてんだろ!返事しろや、カトレアとやら!』

 「へ、あ、はい!」


 背筋を伸ばして、反射的に返事をしたカトレア。でも、僕はそんなことを気にしてはいられなかった。


 「え、姉さん?どこにいるの?」

 『あー、今のあたしはお前にゃ見えないよ、ユート。電話みたいなもんを使ってると思ってくれ。あたしの方はテレビ電話みたいなもんだけどさ』

 「ふーん?あれ、ちょっと待って?姉さん、生きてるの?」


 こうして話しかけてきてくれてるからには、もしかしたら、という思いがあった。


 『いや?あたしは銃弾しこたま食らって死んでるよ。これはただのサービスだな』

 「そっか……それにしても、サービス?誰の?」

 『お前が会ってるやつ。神様だとよ』

 「そうなんだ」

 『ああ。なんでも、元々あたしもそっちに一緒に連れていってくれるつもりだったみたいでな。無理だったから、せめてもの詫びにだとさ』


 それはまた、何と言うか、あの神様らしい。あの神様は意外なところで律儀なのだ。


 『あたしはお前を見守ってるよ。だからこそ、言いたいことがあるんだが………』

 「ん?何?」

 『ユート、お前なんで無茶ばっかしてんだ!』

 「……あー………」


 そういえば、姉さんが見守っているなら予想できたことだった。姉さんはやたらと心配性なのだ。


 『魔物に突っ込まれそうになるわ、腕は大火傷するわ、挙句の果てに死にそうになるわで!何度心臓止まりそうになったかわかってんのか!』

 「ああ、うん、ごめんね?」

 『にしても、気に入らねえ!あのクソ騎士共……今度ユートになんかしたら、呪い殺してやる!』

 「ええー………?」


 姉さんなら本気でやりそうで怖い。そのための力を神様から貰いそうな気もしてくるし。


 『クロ!あんた聞こえてるか!』

 「ああ、聞いているが」


 クロも姉さん相手にはタジタジだった。姉さん苦手だったんだなあ、クロ………


 『いいか!次あの王様と騎士共が変なことしそうになったら、あたしが許可する!みんな、半殺しにしな!いいね!』

 「そ、それは構わんが……殺さなくていいのか?」

 「それ以前に、物騒過ぎないと思わない?」

 『ああん?それで満足すると思ってんのかい?んなわけないだろうが!あいつらには一生、後悔してもらわないとねえ………?』

 「……!それもそうか!」

 「僕の意見は無視なんだ………」


 大変です。姉さんとクロが意気投合して、国を滅ぼそうとしています。


 「そういえば、あの姫の方はいいのか?」

 『ん?ああ、あいつはいいよ。あたしと同じ匂いがするからな。一生かけてユートに報いるだろうさ』

 「むう……それなら仕方ないか………」


 すっごい不満そうな顔だった。クロ、そこまでシルヴィアさんが嫌いなの……?


 『カトレア!一つ聞くよ!』

 「は、はい!何でしょうか!」


 再びカトレアの背筋がピンと伸びる。姉さん、威圧するのはよくないと思うんだ………


 『あんた、この子に惚れてるのかい?』

 「ふぇ!?い、いえ、あの、それは………」

 『はっきり答えな!』

 「は、はい!好きです!」

 『そうかい』


 その後に続いた声はとても優しい声だった。いつも僕と一緒にいた頃の、本当に優しい声。


 『この子は常識知らずだし、無茶ばっかりするし、男としての甲斐性もないだろうけどさ。それでも、本当にいい子なんだよ。よろしく頼むよ、あんたがこの子を幸せにしてくれ。これ以上不幸に晒されるのはあまりにもひどいじゃないか』

 「そう、ですね。あと、お姉様?ユート様がいい人なのは、元から知っていますよ?」

 『ぷっ、それもそうか!あんたはそういうところに惚れたんだったね……後は頼んだよ。あと、ユート?』


 真剣な声色に変わる。僕も姿勢をちゃんとして、答えた。


 「何?」

 『今は楽しいかい?』

 「……うん。きっと楽しいんだと思う。姉さんと先生には悪いと思ってるけど………」

 『馬鹿だね、そんなことは考えなくていいんだよ。あの人だって、同じことを言うだろうさ』

 「……うん」

 『せっかくのやり直しの機会だ。楽しんできな。もし中途半端だったら、叩き返すからね?』

 「……うん、ありがとう。姉さん」

 『ああ。じゃあ、あたしはここまでだ。もう話しかけれはしないけど、ちゃんと見てるからね?飯はちゃんと食べるんだよ?寝る時間も守って、好き嫌いはしないで、あと、あとそれから………』

 「あはは、流石にクロとカトレアがいるから大丈夫だよ。心配しないで?」

 『そうかい。じゃ、二人とも頼むよ?』 


 その言葉を最後に、姉さんの声は聞こえなくなってしまった。でも、今も見守ってるんだと思う。


 「嵐みたいな人でしたね」

 「そうだね。あと、カトレアに似てるかもね、やっぱり」

 「ええっ!?私、あんなに攻撃的じゃないですよ!?」

 「ううん、似てるよ。すごい心配性なところとか」

 「それはユート様が無茶をするから………」


 朝が来るにはまだまだ時間はかかりそうだ。僕とカトレアはそれからも話し続けた。姉さんと話していた、あのときのように。

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