戦争の道具
「……ええと、まず最初に聞いておきたいのですが………」
「ん?何を?」
カトレアが微妙な表情で聞いてくるので、話を一旦中断する。変なことでも言ったんだろうか?
「ユート様って、その、お楽しみの内容を知ってるんですか?」
「お楽しみ?ああ、略奪のときに女の人を無理矢理してたやつのこと?そりゃあ知ってるよ」
むしろ、戦争中なんだから知らない方がおかしい。いっつも目の前で行われるもんだから、嫌でもどういう行為かわかった。まあ、男にとっては重要な行為らしい。
「そ、そうなんですか……ちなみに、ユート様はそういうことを見て、何か思ったりしましたか………?」
「んー……うん。男の人ってサイテーだな、って」
「……ええっと?」
「だって、女の人大体泣いてたし。嫌がることを無理矢理するのは、どうかって思うんだよね」
僕がそう言うと、カトレアはさらに戸惑ったような顔になった。僕、何か変なこと言ったかな?
(……あの、ユート様って、夜伽とかそういうことは知らないんですか?)
(そうだな。ああいうことは強姦行為しか知らんはずだ)
(そうですか……あとでちゃんと伝えておきます………)
(そうしておけ。……お前がしたいのならな)
(く、クロさん!?)
急にカトレアとクロが後ろを向いて、こそこそと話し始めてしまった。何か言えないようなことでもあったのかな。しばらくすると、顔を赤くしたカトレアが振り返って、また座った。
「と、とりあえず、そのことについては、あとで説明します……それで、その後はどうなったのでしょうか?」
「……?うん、その後はね………」
※ ※ ※
作戦は無事に終わり、研究所に戻れることになった。作戦が終わってからも、僕とは話そうとはしない金髪の子をどうしようか考える。しばらく考えても、どうせいい考えなんて思いつかないだろうし、戻って先生に相談することにした。
報酬を受け取って、自身のテントに戻る。戻ればやはりあの子が僕を睨んでいて、とてもじゃないけれど話を聞いてくれそうではなかった。なので、強制的に研究所まで跳んだ。
お金を管理している人に貰った報酬を渡して、先生の部屋へと向かった。幸い部屋にはいて、そこまで忙しそうではなかった。いきなり現れた僕には驚いてたものの、笑って出迎えてくれた。
「いらっしゃい。今日はどうしたの?」
「この子のこと、聞きたくて」
「この子?」
後ろを振り返って、先生にも見えるように体を寄せる。先生は後ろにいた子に気付くと、また驚いたような顔になった。
「この子……どうしたの?一体、何が………?」
僕はこの子を連れてきた事情を説明した。説明は長かったけれど、先生は嫌そうな顔一つせず、最後まで聞いてくれた。そして、最後まで聞き終えると、おもむろにその子のことを抱きしめた。
「ごめんなさい……辛かったでしょうに……何もしてあげることができなかったわね………」
金髪の子は先生の行動に戸惑っているようだった。けれど、すぐに先生を突き放して、怒鳴った。
「何がごめんなさいだよ!こいつさえいなければ、母さんは………!」
「それはないと思うよ?僕がいなくても、結局は誰かに見つかってたと思う」
「うるさいうるさい!お前なんか、いなければよかったんだ!」
子供のような癇癪を前に、先生は困った様子だった。そして僕の方を向くと、一つお願いをしてきた。
「この子は私が預かるわ。だから私がいいと言うまでは、この子に近づかないようにしてもらって構わないかしら?」
「うん、いいよ」
このままでは埒が明かないのもわかっていた。だから、頷くことにしたのだ。先生を困らせたくもなかったし。先生は僕の様子に安心したようで、微笑んで僕の頭を優しく撫でてくれた。それは僕にとっては大切なもので、なされるがままにされていた。
「じゃあ、お願いね?」
※ ※ ※
それからどれくらい時間が経っただろう。結構経ったような気もすれば、あんまり経ってないような気もする。まあ、大体3ヶ月くらい後だったと思う。その頃には、僕もあの子のことをすっかり忘れるくらいではあったんだ。
その日はたまたま、薬剤を投与される日だった。慣れてはいるけど痛いものは痛いし、正直行きたくない気持ちの方が勝っていた。でも、投与しなきゃ能力の暴走があり得たし、そうなれば先生に迷惑が掛かる。そうなるのは嫌だったから、素直に向かっていたんだ。
そんなときだった。前に見覚えのある人影を見つけた。誰だったっけ、と考えているうちに、むこうも気付いたらしくて、つかつかと歩み寄ってきた。あの金髪の子だった。あ、と気付いたときにはもう遅い。かなり近くまで来てしまっていた。
「……おい」
「……何?」
先生に怒られるかもしれない、と思いながらも、ちゃんと対応した。先生から話しかけられたら、ちゃんと答えてね、と言われていたからだ。
「お前、どこ行くつもりなんだよ」
「どこって、薬を打ってもらいに行くんだよ。栄養剤とかその辺りの」
「へー、そうか。なら、なんでここら辺をうろちょろしてんだよ」
「あんまり行きたくないし」
「……そうか。じゃあ、連れてってやる」
あのときの姉さんは、悪い笑みをしていた。僕に嫌がらせでもできるんじゃないか、と思ってたんだろう。兎にも角にも、金髪の子に連れられて研究施設の方へと入った。
僕を放り出すと、空いている椅子に座った。僕の様子でも観察するのだろう。僕の方へは一人の科学者が近づいてきた。
「さて、U‐10番よ。投薬を始めるぞ」
「……わかった」
服を脱いで、腕の包帯を外す。最初は悪い笑みを浮かべていた金髪の子も、僕の腕を見ておかしいと気付いたようだ。
「お、おい、なんだよ、その腕………」
「ん?投薬の痕だが?何かおかしいかね?」
「おかしいだろ!何もそんなに打つことは………!」
「おかしい?これは変なことを言う。これが普通なのだよ、ホムンクルスにとってはな」
「なっ………!」
金髪の子は焦ったように、僕に向かって吠えた。
「おい!お前も何か言えよ!なんか言いたいことあるんじゃないのかよ!」
「……?何もないけど?」
「今は嘘言わなくてもいいだろ!別にあたしに弱み握られるとか、そんなことを考えなくたって………!」
「本当にないよ?これが普通のことだったし、これからもそうだろうし」
彼女は絶句して、次の言葉が継げなくなった。そこに僕はただただ事実を突きつけていく。
「そもそも、君は僕がいなくてもいいんでしょ?それなら、ここで死んでも構わないはずじゃない」
「そ、そんなことは思ってない!あたしは、ただ、お前が困ればいい程度にしか………」
「殺す気もないのに、あんなこと言ったの?変な人だね」
素直にそう思う。けれど、聞いていた科学者は不愉快そうな顔をしていた。
「おい、用がなければとっとと出ていけ。こちらとて忙しい身だ、そんなくだらんことで時間を取らせるな」
「くだらないことって………!」
「こいつが使えなくなれば、とっとと廃棄するだけの話だ。お前だってするだろう?道具のことをいちいち気にするか?するわけがない。わかったら早く出ろ」
「お、お前には、情ってものがないのかよ!?」
「情?こいつにか?こいつは人じゃない。ただの道具だ。まあ、3年も持っているから、惜しくはあるが……それでも、要らなくなれば即廃棄だな」
「さん、ねん………?」
「こいつが兵器として使われ始めてからだ。こいつが生まれたのは、4年前だったな」
金髪の子は声も出なくなったようで、ふらふらと外に出ていった。そのときの僕は想像すらしてなかった。その日のことが理由で、この子との関係が大きく変わるなんて。




